ガルクラ総研①:脚本・花田十輝は『ガールズバンドクライ』で何を伝えたかったのか キャラクター像と制作の舞台裏に迫る


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仁菜のライバルは「ダイダス」ではなくヒナへ

――続いて、「ダイヤモンドダスト」(以下、「ダイダス」)の設定も伺いたいと思います。

花田 「ダイダス」については、最初に仁菜が倒すべき敵として位置付ける存在です。仁菜が上京してきて、桃香の話を聞いていくうちに、「元バンド仲間という敵に、桃香がいじめられている」と思い込む。でも、ナナ、リン、アイはいい子たちだし、彼女たちなりに苦労もして頑張っていることが、徐々にわかっていきます。

最初のうちは、そこら辺をぼかして、仁菜と一緒に視聴者にも「ダイダス」に対して、「チャラチャラしやがって!」と思ってもらおうと。でも、どうも話を聞くとそうじゃなくて、大人の目線というか、現実的なところで言えば、桃香の方にも問題があったと段々分かってくる。

そして、桃香自身も悪かったと思っているところがあって、そういった流れで社会とどう折り合いをつけるかっていうことや、人ってそんなに簡単じゃないっていうところを考えていく。例えば第4話「感謝(驚)」のすばるとお祖母さんの話もそれを別の視点で描こうと思った話で、真に悪の存在って世の中に実はあんまりいなくて。

みんなそれなりにやってるんだよ、っていうことを見せたかったんですよ。仁菜が上京した時に思っていた敵と味方、正義と悪みたいに世の中単純ではないと、彼女自身が学んでいくんです。実際そういう内容のことを仁菜が言いますし。すばる的には「どの口が言う」でしたけど(笑)。

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――監督とプロデューサーからも伺ったのですが、ボーカルのヒナについては、最初はいなかったキャラクターだったそうですね。(第3回インタビューでも深堀りします!)

花田 話の途中で、仁菜が「ダイダス」は実はすごいいい人たちで、彼女たちなりに頑張っていたと理解してしまい、モチベーションが続かなくなっちゃうんですよね。要するに、「桃香さんのために、倒すべき敵」という存在ではなくなって、さてどうやって展開しようかとなった。事務所に入って悪いプロデューサーがいてみたいな話にしようかとも思って、一回そっちの路線でも書いてみたんです。ただ、あんまりそういう話にしたくはなくて、酒井監督も平山さんも、どうも違うんじゃないかと詰まってしまった。そうなった時に生まれたのがヒナですね。桃香にとっての「ダイダス」よりは、仁菜にとってのヒナの対立構造を作って、仁菜が自分と相入れなかった人間が一体何を考えていたのかっていうのを、学んでいくという流れですね。

――最初の登場シーンを観ると、仁菜に引っ張られてヒナにヘイトが向きますが、仁菜の極端な立ち回り方を観てると、ヒナの言い分もなんとなくわかってきますよね。

花田 ヒナから見た仁菜の魅力は、ある意味ですばるから見た仁菜の魅力と似通っているところがあるんです。仁菜が持つ、ある種の幼児性みたいなものが自分の中にはないが故に、あの爆発力は出せないと思っている。だから、最終話「ロックンロールは鳴り止まないっ」で、わざと煽りに来るんです。「お前が長いものに巻かれたら困るんだよ」って思っているが故にね。煽ったら仁菜がどうなるのかなんとなくわかっているから、あれはエールなんですよね。

――そう考えると、仁菜の理解者とも言えますね。

花田 最後まで観ていくと、敵や悪みたいな存在は一人もいないって言うね。

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――その他に「ダイダス」に関する裏設定みたいなものはありますか?

花田 あるにはあるんですが、 秘密にしておきたいかな(笑)
ひとつ挙げるとしたら、桃香との関係性のところですかね。本編にも描かれているように、桃香自身が3人を東京に引っ張っていったわけですが、その時は実は桃香が一番現実が見えていない状態だった。でも結局、自分が言い出しっぺで走り始めちゃったから、内心では凄いプレッシャーを感じていたはずです。

3人の責任を全部自分が背負わなきゃいけないわけですからね。それも多分、バンドを続けていく一種の辛さに繋がっていたと思います。それが、「トゲナシトゲアリ」(以下、「トゲトゲ」)では、その責任感のところを仁菜が背負ってくれているので、気持ち的にフラットな関係性でバンドと向き合えていて、「ダイダス」とは違う景色が見えている可能性があるでしょうね。

――しかも「トゲトゲ」の方は、それぞれがある程度は自分の意志で参加している部分もあるから、責任感の重さも違いますよね。

花田 お笑い芸人・「サンドウィッチマン」の富澤さんが、相方の伊達さんを誘って10年売れなかった時に「死んで詫びるしかない」っていう心境だったという話がありますが、「ダイダス」の時の桃香はそれです。 その責任感の重さも、バンドが続かなかった要因ではと思いますね。

――改めて、「トゲナシトゲアリ」というバンド名はどのように決まったんでしょうか?作中では、偶然見かけた観客のTシャツから付けていましたが…。

花田 そんなに深い理由はなくて、会議の中でいくつかアイデアを出して最終的に絞っていった感じですね。

――ライバルとして登場しているバンドが「ダイヤモンドダスト」という名前で、ある意味で王道感のある名前なので、「トゲトゲ」のインパクトは凄いですよね。

花田 いや、僕も最初、「本当にこれでいいの?」って思ったんですが、リアルバンドもそれで行くとなって。まぁ、でもバンド名と芸人のコンビ名は適当に付けた方が、意外とうまくいくみたいな話もありますしね(笑)他にも案はありましたが、こういうストーリーで組みあがるバンドだから、尖った名前がやっぱりいいよねっていうことで決まりました。

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著者 東響希
主にゲーム関連メディアにてイベントやライブなどのレポートの他、新作レビュー記事、インタビュー記事の執筆や編集なども担当。その他、様々なジャンルの書籍について、著者と打ち合わせやインタビューをして編集するブックライターとしても活動している。

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