ガルクラ総研①:脚本・花田十輝は『ガールズバンドクライ』で何を伝えたかったのか キャラクター像と制作の舞台裏に迫る
「人生は卒業式で全て終わりじゃない」その先にある社会との向き合い方を書きたかった
――リアルバンドとしても活動されているメンバーの方々は、今回、全員がアフレコ初挑戦だったわけですが、花田さんから観た感想としてはいかがでしたか?
花田 やっぱり演技そのものに関して言えば、それは当然プロで経験積んでいる声優さんの方が上だとは思います。でも、キャラクターに対する魂の入り方、これについては尋常じゃない熱を感じていて、エピソードが積み重なるに従って加速度的に良くなっていく。これは、アフレコと並行してリアルのバンド活動も進んでいく中で、アニメの中の「トゲトゲ」と気持ちがリンクする部分があったのではと思います。
――先程、5人を家族に例えていましたが、メンバーの方々もまさに同じ表現をされていました。
花田 最初に第1話「東京ワッショイ」と第2話「夜行性の生き物3匹」を見た時に、第8話「もしも君が泣くならば」であそこまでの完成度になっているとは想像がつかなかったので、まさに圧巻でしたね。
――そのリアルのバンド活動から、花田さんが何かしらインスピレーションを得て、シナリオに組み込んだようなこともあるんでしょうか。
花田 いえ、それはなるべく入れないようにしてました。というのも、アニメとは違ってリアルバンドは本当に売れてくれないと困っちゃうんです(笑)仁菜たちは、「例え売れなくても、私たちはやっていく!」となってますが、そこを混同しちゃうのはまずいので…。この前も、Jリーグの試合のハーフタイムで、「トゲトゲ」のメンバーがグラウンドで応援するイベントもありましたが、仁菜だったら絶対、「こんなことやるために、バンド組んだわけじゃないです!」ってトゲ出しちゃうでしょ(笑)そこはリンクさせたら一生懸命頑張っているキャストの皆さんに申し訳ないですから。
――SNSでもう少し描きたいエピソードもあったという発言をされていました。おそらく、智やルパの話ではあると思いますが、他にアイデアはあったんでしょうか?
花田 長野に遠征に行ったところはもうちょっと長くやりたかったかな。あと、第9話「欠けた月が出ていた」の前半みたいなコメディエピソードも描いてみたいですね。5人がわちゃわちゃしてるところは、本当に面白い。
――全13話を通してみると、ギュッとドラマが詰め込まれていて、コメディ的な要素が入る隙がほとんどない印象でしたね。
花田 そうなんですよ。だから、第9話で智の家に押し掛ける仁菜とか、こういう演技をもうちょっと入れるチャンスがあればなぁと思うわけです。
――ルパがすばるの家のドアを蹴破るところとか、それまでと比べるとギャップがあるギャグ表現に驚きました。あの武闘派なところもある意味で、ルパの裏設定ですよね。
花田 そうそう、ルパはめちゃくちゃ喧嘩が強いです。あと、お酒で相手を潰すのは大好きで、テキーラのちっちゃいショットグラスを並べて、飲み比べして相手が潰れるのを見てるっていう絵はイメージしてました。
――フワッとしてる印象なんだけど、相対してみると隙がなくて、その上、腕っぷしも強いとなると、なんというかラスボス感がありますね。
花田 喧嘩が強いというところで言うと、ルパは仁菜に対して正しい喧嘩のやり方を分かっている大人の存在という立ち位置なんです。それに対して、桃香は意外とうまい喧嘩のやり方を分かってないんですよね。だから、第11話「世界のまん中」での喧嘩のやり方は凄く正しい。あれこそ、大人の喧嘩だというところを表現しています。
――本作において、仁菜の家族との関係性もかなり重要なところですが、こちらについてはどのように構成されたのでしょうか。
花田 家族の話が描かれている第10話「ワンダーフォーゲル」に関しては、実は監督の要望で当初のシナリオから大きく変更しています。僕のシナリオでは、襖越しに会話の後は父親は見送りに来なくて、玄関先の折った枝に新しいアパートの鍵がかけてあるというラストでした。第4話「感謝(驚)」もそうなんですが、僕個人としては最終的に分かりあって、めでたしという方向にするつもりはなかったんですね。
ある程度のところまで書いたら、余白を持たせておこうと。仁菜と父親の関係も分かり合えないままの部分はあるけれども、お互いこの先前に進むしかないという形にしたかった。でも、実際にお子さんがいる監督として、同じ父親の目線に立ったら、やっぱりしっかり送り出したかったんだろうなと思いますね。
――ラストのシーンでは、事務所を辞めて一から出直しという形になりました。
花田 ここで武道館満員にしてダイダスに勝ったら「ラブライブ」になっちゃいますから、ハッピーエンドは最初から全く頭になかったですね。先の10話の話と同じになりますが、簡単に問題は解決するはずなんてない。でも進むしかない。この話で一貫して描いてきたのはそこなので、それを表現するにはどの形が一番だろうと考えて、あのラストになりました。
――もし、続編が作れるとしたらどういった話を盛り込みたいですか?先程、コメディ要素にも言及されましたが…。
花田 一個考えてたのが、仁菜が超イケメンボーカリストに口説かれて、ホイホイ家までついて行っちゃう話です。で、結局襲われそうになるんだけど、巴投げでノックアウトして逃げ帰ってくるっていうね。こういうのは、アイドルものではできないネタなので、盛り込んでみても面白いなと。あとは日常のエピソードをもっとやりたいですね。
――改めて、アニメの放映が終了しての感想や手応えなどはありますか?
花田 僕がこれまで手掛けてきた女の子たちが主役の音楽モノって、学校の中の話なので卒業すると終わっちゃう話ばかりだったんです。ただ、 人生は卒業式で全て終わりじゃないですよね。そう思った時に、なんとなく自分の宿題として、「卒業式の先」を書かなければという気持ちがあった。
本作はそれにちょっと手がついた気がするんです。「卒業の先」というのは、つまり社会と立ち向かうということですね。何にも守られていない自分だけで、社会と向き合わなきゃいけない瞬間が来るわけで、そこを盛り込むことで、自分としては一歩新しいところに踏み出せたなと思います。
――全体を通して、仁菜の目線で社会との折り合い方みたいなものが描かれていますよね。
花田 第1話と比べて、最終話の仁菜がかなり成長していることがわかるかと思います。例えば、最初に上京してきたばかりの仁菜だったら、マネージャーの三浦さんが、裏で「ダイダス」に頭を下げて対バンを申し込んだ行為は、絶対に許せなくて激怒するところでしょう。でも、社会との折り合い方や、大人の事情みたいなものも理解してきた中で、三浦さんの行動が自分たちのための行動なんだと感謝するわけですね。
――最後にファンに向けてメッセージをいただければと思います。
花田 こんな面倒くさい主人公の話を支持していただいて、ありがとうございます(笑)シナリオを書いている最中は、この子はさすがに愛されるのは難しいのではと思ってたんですが、蓋を開けてみたらたくさんのファンができて、驚きつつも感謝しかないです。またどこかでお会いできる機会があったら嬉しいなと思っておりますので、 どうぞよろしくお願いいたします。
――ありがとうございました!
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取材/文:東響希
構成/撮影/編集:編集統括 吉岡
協力:東映アニメーション
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