囁かれるアニメ業界の危機感、カドカワ責任者に訊く待遇改善への意気込み カギは「スタジオ子会社化」


教育部門を持つKADOKAWA、待遇改善への本気度は

――現在、スタジオの中で働き方や人材育成で取り組んでいることはありますか?

菊池——大きなことが2つあります。1つはKADOKAWAグループの中に教育事業があることです。専門スクールのバンタンには、僕の前任者である井上伸一郎さん、私、さらに出版事業の執行役員Chief Publishing Officer(CPO)の青柳昌行が教育顧問として加わりアニメとマンガのコースができました。

バンタンは学校法人ではなく株式会社なので、面白い取り組みも自由にできるんです。専門スクール教育の中に、私たちのスタジオのアニメーターが入っていったり、生徒さんたちがグループの中で就職したりと、効果は現れているのではないかなと。

田村 ——元スタジオジブリの演出の宮地(昌幸)さんが、生徒を教えてくれたり、Studio KADANの瀬下(寛之)さんが特別講義をやったりしていますね。

菊池——もうひとつ、グループスタジオ五社合同のリクルートを始めました。「あのKADOKAWAグループの制作会社なんだ」と親御さんや学校の先生にアピールして、安心してもらいたい意図があります。

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スタジオ合同リクルートで募集したポジション一覧

田村——一社一社の知名度よりはKADOKAWAの名前で選んでもらいたいとスタートしています。そこからは各社別々で採用していますけれども、いずれは採用も一括できればいいなと考えています。学校からスタジオに入ってきて数年は基本的な部分、例えばアニメーターであれば動画部分の基礎をしっかり教えるといったことをしたいです。スタジオが直接コストを払うよりは、本社でコストを吸収しながら各社で協力して人材を育てていきたい

――人材育成に関連して、先ほどKADOKAWAブランドがあると安心とありました。たとえば就業環境の改善などにも期待があると思います。そこは期待してよいのでしょうか。

菊池——当然それをしっかりとやっていきます。ただ賃金を本社やスタジオで統一できるかは、ハードルがあります。ベースの給料は当然ありますが、アニメ業界はたとえば誰かがスターになった時にすごく稼いで、ギャラもよくなるみたいに思っているので、そこは会社と制作スタジオは全く違う評価軸として置きたいです。 よく冗談で言うのは、制作全員がベンツに乗れるようになったら、俺たち勝ちだよねって。

田村——個別評価は菊池さんがおっしゃったような方向性で考えています。ベースの部分では他社の賃金体系もすごく研究しています。これだったら安心できるというベースをまず持って、そこから先、ヒットを出すとか、活躍に応じた賃金をしっかり払っていける仕組みにしていきたい。

菊池——絶対忘れていけないのは、「面白いIPを生み出す」ことです。例えば、どうしても「リゼロ」(「Re:ゼロから始める異世界生活」シリーズ)が作りたい!と思ってくれることが大事だと思うんですよね。KADOKAWAグループは、過去もこの先もすごいラインナップをいっぱい作っていくので、そのバラエティー性が特徴だと思っていて、そこは大事にしていきたいなと心に留めています。

後日公開の後編では今のアニメ制作における求められている人材の変化、そして産業全体が抱える課題とカドカワの理想像に迫る。
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著者 数土直志