囁かれるアニメ業界の危機感、カドカワ責任者に訊く待遇改善への意気込み カギは「スタジオ子会社化」


『【推しの子】』制作会社がグループ入り…6社を“統合しない”ワケ

――そして、最近では動画工房(代表作:『【推しの子】』)のグループ化が話題になりました。動画工房をグループにした戦略的意図となぜ一緒になれたかを教えていただけますか?

菊池剛氏(以下、菊池)——動画工房さんとは非常に長い付き合いで、アニメ事業局局長の田中翔などが寄り添いながら、ずっと二人三脚でいい作品づくりをやってきました。一方で多くの会社さんが昨今のアニメの単価の高騰や、地代家賃の高騰のなかで次のフェーズを考えた時に、独立独歩でやっていっても資本力がないとどうしても限界があります。

――作品の総予算も高くなっていますね。

菊池——資金調達もあると制作に集中できないとか、いろんな問題があります。そのなかで動画工房に関しては、足並みがあう制作体制もあり、ゴールも一緒で、非常にシナジーがある。そこで、田中に「ご縁があったら一緒にやりましょう」と相談があり、それがきっかけでした。

――KADOKAWAと縁を持ちたいという会社や人が、多いということですね。

菊池——制作会社を「制作するための手段」としか思ってない会社が経営に関わると、実際一緒にやってみたらスタジオが空洞化してしまうみたいなことが結構あるんですよね。「アニメがおいしいぞ」と思って、経営しようとする人たちがいるんですよ。 なので、僕らみたいに黎明期から同じ釜の飯食って、内実を知っている人間だと「まずは作ることが大事」と考える。

あとは押し付けないのも大事かなと。ラインナップは自主性ですから、グループになっても作品の制作をお願いしても断られることもあります。どうやったら請けてもらえますか?といったやりとりがいいんです。その中で自然発生的に面白いものが作れて世界的に売れていく。

世界戦略って超大ヒット作を持てば、簡単にできるんですよ。だから作ることが戦略です。つまらないものができても絶対世界戦略はできないじゃないですか。KADOKAWAの作品だから世界で売れるわけでなくて、面白い作品だから売れている。僕はやはり良作が世界を制覇すると思っている。愚直にそれを作れるシステムを構築すべきだなと思っています。

――スタジオを5つ、6つも持つよりは、1つの大きなスタジオにしたほうがいいのではとの指摘はあると思います。ここはやはりブランドごとに会社を立てるのがいいのでしょうか。

田村淳一郎氏(以下、田村)——クリエイティブな仕事は、各社の考え方が違うことがフィルムの面白さにも直結します。バックオフィス機能は統一したいですが、クリエイティブや作りかたみたいな方針は、独自性を持たないと。スタジオの大きさも文化も違うことで、違う作品を生み出せる自由な雰囲気は残しておきたい。という考えです。

菊池——今後、統合したブランドにしていく未来はあるかもしれませんが、動画工房は動画工房の育て方、レイジングブルはレイジングブルのやり方があるのも確かです。この多様性はある意味すごくKADOKAWAらしいことで、結果として今、面白い作品がどんどん生まれる環境ができたことにつながっているのかなと思っています。制作会社は仲良くやってほしいけど、絶対負けないライバルみたいなところもありますから。

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手前:田村氏/奥:菊池氏

――逆に言うとバックオフィスは統一できるわけですね。

菊池——今まさにそこに取り組み始めています。スタジオ事業、アニメ制作スタジオは作品に集中してもらい、経理システム・管理システムは本社で整備します。アニメ業界はバックオフィスが弱いところがあって、場合によっては1ヶ月ですごく赤字が顕在化して、止まらなくなったりします。それに対応する人材が豊富にいないと、どんどん悪い方向に転換しがちです。統一のシステムを使うことで、そういった部分もできる限り管理していきます。

スタジオ事業局は面白い組織で、制作ディビジョン、調整ディビジョン、経理ディビジョンと3つの部門に分かれています。制作に田村淳一郎、経理のディビジョンのマネージャーはキネマシトラスの曽根さん(代表取締役社長:曽根孝治)を迎え入れています。結局、本社でも制作会社の実情や内実ってわかりませんよね。僕らは成績を上げてあげることしかできないです。そこの実態を分かっている人にマネージャーに座ってもらいたい。今後はスタジオのメンバーの人たちにどんどん本社の組織に入ってもらうことで統一していきます。

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著者 数土直志