囁かれるアニメ業界の危機感、カドカワ責任者に訊く待遇改善への意気込み カギは「スタジオ子会社化」


囁かれるアニメ業界の危機感、カドカワ責任者に訊く待遇改善への意気込み カギは「スタジオ子会社化」
KADOKAWA 執行役Chief Studio Officer:菊池剛氏

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日本のアニメ産業が急速に拡大する中、出版からアニメ制作まで一貫して手がけるKADOKAWAの存在感が際立っている。アニメ『【推しの子】』『Re:ゼロから始める異世界生活』などのヒット作を次々と生み出す同社がなぜ今、制作現場の最前線で取り組みを加速しているのか。2018年のENGI設立から始まり、2025年のチップチューン子会社化まで続く、積極的なスタジオ展開の背景にはアニメ産業の構造的課題への危機感があった。

執行役Chief Studio Officer(CSO)兼スタジオ事業局局長の菊池剛氏とスタジオ事業局スタジオ制作Div. ゼネラルマネージャー の田村淳一郎氏に、KADOKAWAのスタジオ戦略や待遇改善への意気込みついて聞いた。(取材=アニメジャーナリスト・数土直志/編集=媒体統括)

「持たない方がいいよ」とも言われたスタジオ、持った決断の経緯

――まずはアニメ産業におけるKADOKAWAの最近の動きについて、方向性などを教えてください。近年、アニメの企画からアニメーション制作、スタジオ機能にも進出しています。

菊池剛氏(以下、菊池)——いまアニメが10年前では想像できないぐらい大きく発展して、世界のいろんなところで愛されています。KADOKAWAでも20年前は5人も満たなかったアニメの組織が、いまでは千人近い規模になりました。それがここ10年の市場環境の広がりを如実に表しています。

そのなかで僕らのベースは出版社ですので、シリーズ作品の連載に合わせてアニメ化をしていくなかで、新刊の時期に合わせてアニメを投入するなどコントロールをします。ただアニメ制作を外部に依存しているとなかなかタイミングが合わない。連載が終わって2年後にアニメが出来たりする中で、タイミングを合わせて制作をしていきたいとアニメ制作に舵を切りました。

アニメ制作をはじめる時にいろんな方に話を聞ききましたが、「制作会社は持たない方がいいよ」と言われました。そのくらい制作会社は大変。メーカー側が用意する契約書だけでは、とてもできないことを多く感じるんです。放送局のスケジュールに合わせて納品しなきゃいけない、そのために人を集めて制作したら、ものすごく予算がオーバーするようなことが起きます。業界における根本的な構造をリアルに感じています。制作における待遇も見えてきました。

アニメの仕事をしていると、椅子で寝転がって、家にも帰れないようなことががあると思われていて、そんな仕事は選びたくないですよね。KADOKAWAで人材採用をしている時も「アニメはやりたい」と言われます。でも企画より宣伝やライツがやりたい。企画は辛そうだし、ましてや制作会社は「冗談じゃないです」と言う。まずはそれを払拭しなければいけない。今はそういう部分を改善して、アニメを作ることを目標にした人材が飛び込んでくる体制をつくりたいと思います。

――KADOKAWAのスタジオは、2018年のENGI設立から数えると7年ですけど、構想自体はその前から始まっているのでしょうか?どのくらいの頃から考えておられたのですか?

菊池——スタジオを作る考えは、ENGIを設立した2年ぐらい前からです。その頃は僕はまだアニメ事業の責任者ではなかったのですが、労務管理上の問題もあり、KADOKAWAとしては絶対にスタジオを持たない方針でした。ただ他社のサンライズさん(現バンダイナムコグループ)やアニプレックスさんはスタジオを持っていました。産業を大きくしていくにはやはり制作する力を一緒に持っていかないとと思い、私が責任者になった段階で新しい事業方針として制作会社を持つことにしました。

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増える社内アニメスタジオ―KADOKAWAグループ 中期経営計画より

そして、実際に制作スタジオを作りたいと話をしていた時に、縁があって吉岡さん(ENGI代表取締役社長:吉岡宏起)が独立されるという話を聞き、サミーさん、ウルトラスーパーピクチャーズさんと一緒にENGIに資本参加して会社を作ったのが始まりです。

――ENGIのあとは、2019年にはキネマシトラスに共同出資して、その後Studio KADANを立ち上げ(2021年)、レイジングブルを子会社化(2023年)、ベルノックスフィルムズを設立(2024年)、動画工房を子会社化(2024年)。さらに、今年2月にはチップチューンを子会社としました。

菊池——ご縁だったりその時の状況だったり、それぞれ理由があります。キネマシトラスも木谷さん(ブシロード代表取締役社長兼CEO木谷高明氏)からブシロードとしてサポートしようと思っていると伺い、長年のKADOKAWAとブシロードさんとの関係から一緒にバックアップしましょうと。ENGIとキネマシトラスの2社を持った時には、やはり100%出資してKADOKAWAの意志で運営できる会社を将来的には作りたいと思いました。

ただ2社持った段階でも、これは大変なところに足を踏み込んだなと感じました。ですから先を急ぐよりも体制をしっかりしていこうと考えています。まず労務環境を改善して、人材育成をしていく。あとは外に頼らないで完全に内製化できる体制を目指したい。

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著者 数土直志