”AIによる盗用”危惧し人気絵師が続々とPixivで作品を非公開に…完全に盗用を防ぐのは無理なのか?

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GWの最中、ネット上では「現状、Pixivにイラストを上げない方がいい」という意見が拡散され、Pixivでの活動を自粛するクリエイターが相次いている。本稿では続出した経緯と実際に「盗用を阻止する」方法はあるのかについて論じたい。

【5/09追記:公式発表】Pixiv、AIによる創作者への不利益・作品の不正収集について見解と対策を発表。今月中にはガイドラインの改定も予定

人気絵師が続々と…

発端となったのは先日投稿されたあるツイート。〈pixivにイラストを投稿するとAI絵師に盗まれて性的表現やマネタイズの材料になる〉という内容のもので、イラスト投稿コミュニティ「Pixiv」やファンコミュニティサービス「FANBOX」はAIイラストに用いるための学習データを収集するための格好の場所で運営は取り締まる気がないという主張だ。

このツイートが瞬く間に拡散され、Pixivに公開しているイラストやコンテンツを非公開、削除するクリエイターが続出これらの中にはTwitterのフォロワー数が数十万人を超える”人気絵師”と呼ばれている方々も含まれ、大きな問題へと発展しつつある。

この動きに関してPixiv側は(大型連休期間でもあるため)特段対応についての声明は発表されていない。しかし、発端となったツイートが投稿される数日前の5月2日、Pixivは画像生成AIなどを悪用し特定クリエイターの利益を阻害する行為に対応するべくサービス共通利用規約・ガイドライン類を改定する旨を発表しており、画像生成AIと「共生できる道を模索」する方針を固めていた。

【関連リンク】サービス共通利用規約・ガイドライン類改定の事前のお知らせ

この方針の策定についてネット上では賛否両論で、今回起こった一連の問題とは直接的な関係はないものの「PixivはAIとの共生を図っている」という認識が広く浸透してしまったが故に、より多くの人に注目が集まったのかもしれない。

盗用を完全に防ぐのは無理

以上の流れを見ると「Pixivは悪」という意見を持つ方も多いだろうが、ここで「サービス提供者が完璧に画像を盗用から守るのはほぼ無理に近い。」点を念頭に置いてみると、「Pixivは取り締まる気が無いのではなく、取り締まれないのではないか?」という意見も一部の利用者の間で見受けられた。

例えば画像の無断ダウンロードを防ぐ最も有名な方法として多くの方は「右クリック禁止・長押し禁止」を想像するだろう。実際、ウェブページに数行のコードを挟むだけで右クリックを禁止にすることができる。しかし禁止にするのが簡単であれば、解除するのも簡単でCSSを上書きする拡張機能やJavascriptを無効化するとこの策は意味をなさない。

その「簡単にダウンロードさせない」という観点からすると、Pixivは画像を直リンクで開くことを禁止し「エラー」を返すという策を取っている点については評価すべきだ。

…と一般的に多くの人が想像している「盗用」の方法について紹介したが、そもそも、実際にイラストを一括で盗用する人は一つ一つ律儀にダウンロードしない。多くの場合、プログラムを使ってウェブページを自動巡回して効率的に根こそぎダウンロードする「スクレイピング」を使うのがスタンダードになっているようだ。

この考えは開発者として活動していると想像に易く、「GitHub」というプログラムを公開するサービスを見てみるとコマンド一つで勝手に画像をダウンロードしてくれるというライブラリが大量に公開されている。これらの背景から、少し遠回りになってしまったが「インターネットに画像を掲載する時点で盗用を防ぐのはほぼ不可能に近い」という点も心に留めていただきたい。

AI学習を阻止する細工を入れる策も

前述の通り、インターネットに画像を掲載している以上盗用を完全に防ぐことは不可能だ。ならば、考え方を少し変えて、〈AIイラストの生成に用いるために必要な「モデル」を作成する学習データに利用させない〉というアプローチを取るのが有効的なのではないかという声も挙がっている。

今年3月にはAIの学習用モデルデータに自分のイラストを用いることをできなくする技術「Glaze」が博士課程の学生らを中心とした研究チームが発表し、同技術を使って実際に模倣防止を施した画像を作成できるツールの提供が始まった。

研究チームによると〈Glazeは、アーティストがAIの模倣に対抗するためのツールに向けた重要な第一歩となるもの〉と位置づけており、Glazeの使い方については提供開始時に公開した記事を参照していただきたい。

【関連記事】自分のイラストをAIに学習させないようにするツール〈Glaze〉利用手順を紹介&解説

しかしこの一見最も有効的な策として挙げられる「Glaze」だが、すでに無効化させる技術が登場しているとの報告が見られており、完璧な対策とまでは行かない”いたちごっこ”状態にあるのが現実だ。とはいえノイズを除去する無効化技術を使うにはノイズをかける処理と同じorそれ以上の計算処理が必要で多くの画像を必要とするモデル作成においては少なからず有効的であることには間違いない。

これには〈そもそも絵師が「やめてほしい」という呼びかけているにも関わらず著作者の意見を無視してAIイラストに使おうとする人は根っから作者の敬意が一切なく「絵を描くモノ」としか扱っていないのも想像に易いため、高度なノイズをかけようが何をしようが意味がない〉という意見も見られている。

AIイラストを巡ってはこのような著作者の意図を無視したAI学習はもとより、急激な技術進展に現代社会が追い付けていない点は早急に解決が求められる問題の一つでもある。今後は各プラットフォームの方針や規約の改訂にとどまらず、法整備などにおいても動向に注目したい。