課題山積のアニメ制作産業、作り手をどう支える カドカワの目標は「制作スタジオ全員がベンツに乗れる」【後編】


課題山積のアニメ制作産業、作り手をどう支える カドカワの目標は「制作スタジオ全員がベンツに乗れる」【後編】
左からKADOKAWAスタジオ事業局・田村淳一郎氏、事業局長・菊池剛氏

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成長するアニメ業界、制作費高騰はポジティブに受け入れられるべき

――少し大きな話ですけれども、今後のアニメ業界の全体の動向についてどう思いますか?人材との関連で、アニメの制作費がすごく上がっていますが、これはまだ続きますか?

菊池——誤解を恐れずに言いますと、制作費は上がっていいと思います。アメリカのディズニーさんの単価と日本の単価、なんでこんなに違うのかというとディズニーさんは、基本的には世界中が市場だからですよね。製作においても、制作においても、これが業界の大命題です。

日本の基準で作ろうとしたら制作費の上限があったりしますが、世界のスタンダードで売るんだとすると日本コンテンツも変わっていきます。だから海外のブランチ(拠点)を作って、作品を世界中に売っていく。本社が各ブランチに指示を出してローカライゼーションをして、市場からお金をどんどん稼ぐ。それをきちんと制作にフィードバックしていくのが大事です。今はいいものを作れていますが、市場に出すことはまだ完全に整理されていません。

韓国のドラマはいますごい金額で作っていますが、あれは世界中で見られるからですよね。だから同じ法則でいけば、日本のアニメももっと制作費を上げられる。制作会社が次の人材や設備投資に回せるエコシステムを作るべきだと思っているのでシンプルに制作費は上がってくるでしょう。

そして、いまは制作費が上がっていても適正配分がされてない感じもします。制作会社やスタッフの取り分はこうしていく、と改めて取り決めることで、もしかしたら制作スタジオのスタッフ全員がベンツに乗れることにつながるかもしれない。業界全体でいうと、制作費を上げて、しっかり世界中で稼がなければいけません。

――市場が整備されれば、その高い制作は可能なのでしょうか?

菊池――例えば、ブラジルやメキシコは宝の山だと思うんですよ。それにインドとか。そういうところの市場を切り開いていくことも必要です。

――アニメ業界の制作本数が多過ぎるという指摘もあります。

田村――メーカーでの制作本数も多いですけども、ニューカマー(新規参入)もすごく増えています。これは減らないんじゃないでしょうか。

菊池――みんながアニメはまだ儲かると思っているので、たぶん減らないと思います。これだけアニメが注目を集めると、「アニメは儲かるから美味しいよね」って勘違いしてる人が世の中にものすごく多いんですよ。僕たちもそこに陥りがちだったのですが、制作会社を持ったことがターニングポイントになりました。作る痛みが身をもって分かったところです。でも制作本数が減らないことは、産業としての伸びしろを示しているとも思います。

ただし少ない優良制作ラインの取り合いが起きているのは健全ではありません。そこを取るために「お金払えばいいんでしょ?」というのが多くのニューカマーの考え方なんです。業界ルールではないような制作費とかが多いですかね。それで業界のバランスが崩れるみたいなところはあります

中国のビジネスが盛り上がった時もそうだったんです。いろんなニューカマーが一気に入ってきましたが、いまは中国に売っただけでリクープみたいなことは全く見られなくなりました。

――最後にKADOKAWAが目指す理想のアニメ制作を教えてください。

菊池 ――普通の産業に就職してくる感じで、すごくアニメが好きでアニメ産業に興味を持ったら入ってきて欲しいです。これは僕らの課題ですけど、しっかりした受け入れシステムがあって、週末も休めて楽しいなとかね、そんな普通の産業にしていきたい。その先にものすごいハイクオリティーを作るんだといった目標がいっぱいあります。

田村――「日本一仲のいいスタジオグループ」ですね。アニメの制作はある意味戦いの歴史でもあるわけですが、市場がどんどん大きくなってきていまは世界中の人が見るようになった。今度はオールジャパンで作ったものが「最高に面白いよね」って思ってもらえる現場を作りたいです。ここ20年ぐらいあった動画を全部海外に投げちゃったような産業の空洞化を取り戻して、やはり日本で作ったものって品質もいいし、面白いと世界中に問えるかたちにしていきたいです。

【前編はコチラ】囁かれるアニメ業界の危機感、カドカワ責任者に訊く待遇改善への意気込み カギは「スタジオ子会社化」

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著者 数土直志