【質疑応答】カバー谷郷社長、決算会見で“タレント卒業”など言及 デビュー、TCGヒット、ホロアース、トランプ関税に回答

VTuberプロダクション「ホロライブ」を運営するカバー株式会社は13日、2025年3月期決算を発表。同日午後に都内で決算説明会見が開かれ、同社代表の谷郷元昭CEO、経営企画室長を兼務する金子陽亮CFOが出席した。
本決算によると、2024年度は売上高が434億100万円(前期比43.9%増)、営業利益が80億100万円(同44.5%増)、純利益が55億5900万円(同34.4%増)となり、全ての主要指標で前年を大きく上回る業績を達成したことがわかった。
説明会では谷郷氏および金子氏からの報告とそれに対する質疑応答が実施。「中期計画の見通し」「トランプ関税の影響」といった投資家向けの内容や「タレントの卒業に対する認識」まで、プロダクションのファンにも注目される言及が複数行われた。ここではそれら質疑の中から複数のトピックを報告する。
※一部順序、表現を記事向けに修正しております
タレントの卒業/起用について
――VTuberの卒業について会社としてどのように捉えていますか
谷郷CEO:ホロライブプロダクションが1期生から始まってから既に6年ほど経過している中で、タレントさんのキャリアや人生設計に関わる変化が発生するタイミングだと思っています。それぞれのタレントさんには個別の事情があるのだと思い、同じ理由で卒業されるわけではないという理解ではあります。
ただ、我々自体も事業の成長に注力しなければならず、タレントさんをサポートするためにマーチャンダイジング(物販)、ライセンシング、営業と色々な体制を整えることにリソースを割かなくてはいけませんでした。それが4月以降の経営体制の変更により私自身がかなりフリーに動けるような状況になりますので、クリエイターさんひとりひとりに向き合える体制になってきています。
色々個別の事情があっても、可能であれば一緒にパートナーとして活動を続けたいと考えていますので、コミュニケーションのすれ違いによって辞められることが発生しないように、タレントさんの成長にも応えられるような改編を進めているような状況であります。
――卒業するメンバーがいる一方で、新規のタレント開拓についてはどう考えていますか
谷郷CEO:(現時点で具体的な計画を対外的に発表していないため)ちょっとコメントしづらい状況ですね。現在所属しているタレントでも伸びている方々がいまして、例えば宝鐘マリンさんは先月400万チャンネル登録を達成し、本人は500万を目指すとコメントしています。我々としては、いたずらにタレント数を増やすよりかは、実力のあるタレントさんの活躍の場を広げることに足元では注力したいと思っています。その上で、今後どうしていくかも同時に中長期的に必要になってくるとの考えです。
――新たなタレント採用について、従来型のオーディションだけでなく、能動的なスカウト活動など、採用を強化していく可能性はありますか
谷郷CEO:市場初期においては声がけしないとそもそもVTuberになりたい人がいなかった状況でしたが、現在はVTuberになりたい方が多くいらっしゃいます。加えて、タレント本人のやる気が非常に重要です。週3〜5回配信しつつ、音楽活動など付随した活動をするのは大変な仕事なので、誰かに言われてやるというスタンスでは続けにくいのが現実です。そのため、こちらからスカウトするということはあまりないというのが認識です。
ヒット記録した「ホロライブオフィシャルカードゲーム」について
――決算ハイライトに「ホロライブオフィシャルカードゲームが想定を大きく上回る販売実績」とありましたが、なぜ販売実績が拡大したのか、要因をお聞かせください
金子CFO:「意外」などと完全に予見していなかった訳ではないですが、国内トレーディングカードゲームのタイトル別ランキングで、中堅の中でも存在感がある位置まで拡大できたのは非常に前向きな実績だったと思っています。
要因としては、単に絵柄が入ったコレクションカードを売るだけでなく、トレーディングカードゲームとしてプレイヤーがつくような大会運営などの施策を行ったことが一つ大きいと考えています。
また、VTuberがキャラクターとしての側面とタレントとしての側面を併せ持つという特徴があり、送客という観点でタレント自身が”メディア”として商品の宣伝をするという点が、他のアニメIPを題材にしたカードゲームとの差別化ポイントになっていると考えています。
――国内で開催されるライブイベントの会場がアリーナ規模になり大規模化していますが、中規模会場での地方公演などの予定はありますか
金子CFO:地方での中規模公演については可能性としてあり得ると思っています。過年度も星街すいせいさんのライブツアーを大阪や九州など、東京以外の日本全国で開催しました。全国に分布しているファンコミュニティとの接点を持ち、コミュニティを育てることが重要なポイントでして、その手段はライブに限らず、ミート&グリートやカードゲーム大会予選など色々なな形があるとも考えています。
ホロアースの現状認識・ライブイベントについて
――現時点でのホロアースの状況について教えてください
谷郷CEO:ホロアースはようやくスタートラインに立てた状況です。いままではベータ版で、マネタイズ要素が弱かったですが、今回新しくユーザーがアバターや衣装を制作・販売できるマーケットプレース機能(UGC)が追加され、最低限の機能が揃ったという理解です。ここからタレントとファンを巻き込みながら徐々にサービスを本格化していく状況です。ホロライブで称えるなら「1期生」くらいのタイミングではないかなと。
――昨年の下請法違反勧告を踏まえて、下請業者との状況は
金子CFO:下請法違反の勧告については真摯に受け止め対応に務めております。実際に勧告対象の取引に対処するだけでなく、再発防止のための社内オペレーション見直しや対象外のクリエイターへの対応も進めています。行政等への対応状況も透明性を持って報告し、進めているところでございます。
足元でのトランプ関税の影響・中期目標の達成に向けて
――トランプ政権への移行で関税強化の懸念がありますが、影響はありますか
金子CFO:現在のEC販売では、日本国内の倉庫に保管した商品を越境販売で全世界に販売しており、一定割合が中国で生産されている状況です。関税や為替の先行きはかなり不透明ですが、北米のお客様の消費マインドに影響を与える可能性は十分あり得ると思っています。
シナリオごとのリスクシミュレーションを社内でも行なっているなかで、商品・物流の現地化、グローバルな地域展開によるリスク分散、中国以外の生産地開拓など様々な施策も並行して検討している状況となっています。
――売上高で5年で倍増、利益で3倍という中期目標はチャレンジングに思えますが、具体的にどのような状況になれば達成できると考えていますか
金子CFO:地域の軸とプロダクトの軸に事業拡大の余白があると考えています。具体的には、海外のコンテンツ視聴者は30%超、月によっては40%程度ですが、商品・サービスの提供はまだ十分ではありません。例えば海外ECでは高い送料がかかる状況ですが、現地生産や現地への商品・サービス提供方法を多面的に拡充することで、体験向上と収益拡大が見込めると考えています。
また、プロダクト面では、前年度のTCGの成功のように、VTuberのコミュニティ構築能力やメディアとしての集客能力を活かしたような多面的なプロダクト展開も重要だと思っています。
――離れるようなタレントさんがいるなかで、改めてのカバー社の強みとは
谷郷CEO:やはりグローバルなファンコミュニティの存在が非常に大きいと考えています。ホロライブからデビューすることでグローバルなファンに認知していただけると同時に、メンバー同士での関係性から生まれるコンテンツなどにも大きな価値があると思っています。
加えて、足元で営業、ライセンシング、マーチャンダイジング、ライブ、ゲームに取り組んでいるなかで、一人ひとりの活動では難しいようなアリーナクラスでのライブ・コンサートも実現できるという側面も出てくると思います。