「アニメ不毛地帯」から「聖地の宝庫」に変化する静岡県――マンガの新聖地・清水灯台を歩いて考える“通過県”の魅力


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芳文社「まんがタイムきらら」で連載され、去年はアニメ、今年はテレビドラマがスタートする大熊らすこ氏の漫画『星屑テレパス』。この作品の舞台は、静岡県静岡市にある風景や建物をモデルにしていることでも知られている。

昨年11月には星屑テレパスに登場する灯台のモデルである清水灯台の特別公開が実施され、多くのファンが訪れた。静岡市の観光地といえば徳川家康にゆかりのある駿府城、浅間神社、久能山東照宮、そして世界文化遺産に指定されている三保松原、『ちびまる子ちゃん』の世界を再現したちびまる子ちゃんランドが思い浮かぶが、それらと全くつながりのない清水灯台が注目され始めたのだ。「聖地効果」の大きさを物語る現象である。

そしてこれは、「アニメ不毛地帯」と言われてきた静岡県の分岐点と言える。

「絵に描いたような港町」の灯台

清水灯台の内部は、上記の特別公開企画が催されない限りは一般人立ち入り禁止である。

だが、外から見学する分には問題ない。休日になると、ここには県内外から多くの人がやって来る。家族連れ、カップル、ツーリング中のライダー、中には旧車の愛好者も見受けられる。

清水灯台が見渡すのは駿河湾と伊豆半島、そして富士山だ。海上には大小の漁船、そして外国船籍の大型タンカーも行き交う。ここは行政区域で言えば静岡市清水区で、かつては清水市だった。清水市は日本有数の商業港を抱える都市で、一時上陸の外国人船員の姿を見かけることもある。「絵に描いたような港町」と表現すればよいか。

そんな港町を見守る清水灯台、先ほど「星屑テレパスに登場する灯台のモデル」と書いたが、より正確には「星屑テレパスに登場する灯台のモデルのひとつ」である。作品に出てくる灯台は、国内外の複数の灯台を参考にしているという。清水灯台は、あくまでもそのひとつに過ぎない。

しかし、それでも「聖地効果」は発生している。

「アニメ不毛地帯」というステレオタイプ

『ラブライブ! サンシャイン!!』や『オーバーテイク!』、『夢見る男子は現実主義者』など、静岡県内の都市を舞台もしくはモデルにしたアニメ作品の放映が近年相次いでいる。

しかし、静岡県はかつて「キテレツしか放映しない土地」とまで言われた「アニメ不毛地帯」だった。

ピクシブ百科事典やニコニコ大百科などではいささかの誇張がなされているが、2000年代の静岡県は深夜アニメを放映しない土地柄ということはその当時からアニオタの間で有名だった。アニメと言えば『キテレツ大百科』の再放送ばかりで、地元テレビ局は最新のアニメに全く関心を持ってくれない……という静岡県に対するステレオタイプが形成されてしまったほどだ。

だが、今日の静岡県では行政も地元メディアも「アニメがもたらす影響」に関心の目を向けるようになった。その先駆けは2016年から2018年まで沼津市長だった故・大沼明穂氏の振興政策である。大沼氏は急逝するまでの1年半に満たない間に、『ラブライブ! サンシャイン!!』との数々のタイアップ企画を実施した。これが大成功を収め、結果として「地域振興×アニメ」の雛形を作り出したのだ。

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行政史に残るこの偉業が、今に至るまで静岡県内の各自治体に刺激を与えていると言ってもいいだろう。

「通過県」ならではの魅力

「静岡県は通過県」とは、静岡県民がしばしば自虐的に言う言葉である。

今現在、リニア新幹線問題で静岡県の動向が全国的に注目されている。しかし、この現象は静岡県史のなかの異常事態とも言えることだ。本来であれば、静岡県で起こった出来事に対する全国的注目度は決して高くない。「通過県」とはそのような意味合いも含んでいる。首都圏と中京圏という2つの大都市圏に挟まれている自覚が静岡県民、特に中部自治体の住民にあるのだ。

だが、通過県には通過県独自の魅力があるのも事実である。静岡県には静岡県にしかない魅力的なスポットが数多く存在する。

東名道、新東名道、中部横断道が大動脈のように通る静岡県は、首都圏や中京圏からのドライブには最適の土地である。土日に車で静岡県内の聖地を巡り、その日のうちに都内の自宅に帰る……ということを手軽に実行できるのだ。

その中で、星屑テレパスの聖地となった清水灯台は今後「魅力的な通過点」となっていくだろう。

文・写真:澤田真一(さわだ・まさかず)
経済メディア、ガジェットメディア、ゲームメディア等で記事を執筆。東南アジア諸国のビジネス、文化に関する情報を頻繁に配信。静岡県在住。

著者 澤田真一
静岡県在住。経済メディア、IT系メディア、ゲームメディア等で記事を執筆。東南アジア諸国のビジネス、文化に関する情報を頻繁に配信。