『ゆるキャン△』聖地・山梨県南部町の『道の駅なんぶ』で観察する「物流革命」アニメ3期を前に現地レポート
『ゆるキャン△』第3期の放送が4月に迫っている。この作品は「冬場のキャンプ」の楽しさを広く伝えると同時に、山梨県峡南地域を主な舞台にしている。
山梨県といえば甲府市を中心とした甲府盆地のイメージが強いが、実は現在甲府以南の地域が周辺都県から大きく注目されているのだ。それは『ゆるキャン△』と道路の相乗効果でもある。(レポート/文=澤田真一)
中部横断道開通がもたらした「革命」
2021年8月、中部横断自動車道の南部IC-下部温泉早川IC間が開通した。
これにより、新東名高速道路の新清水JCTと中央自動車道の双葉JCT間が新しい高速道路で接続されたことになる。静岡・山梨両県の市民のみならず、首都圏在住の人にとってもその影響は多大だ。
まず、太平洋側の高速道路即ち東名道・新東名道が何かしらの理由で通行止めになった際の予備の走行ルートとして中部横断道を活用できる。新清水JCTから中部横断道に乗り、双葉JCTからは中央道に乗り換える。
先日の大雪では東名道・中部横断道共に通行止めになった例外はあるものの、事故による通行止めを回避する手段として大いに活用できるのだ。また、トラックが中部横断道を使うことで内陸の都市に太平洋側の水産物を輸送できる。
長野佐久市のスーパーマーケットでは、静岡市清水港で水揚げされた水産物を取り扱うようになった。これは静岡市の水産業者や清水銀行も参画しているプロジェクト。佐久市のスーパーでは、それまで日本海側から水産物を仕入れていた。それが中部横断道の開通により、太平洋側から水産物を手配する目処が立ったのだ。
これらの革命的な現象の中心に位置するのが、『ゆるキャン△』の各務原なでしこの自宅がある南部町だ。
道の駅にアニメグッズが!
中部横断道の南部ICを降りたところに『道の駅なんぶ』がある。
ここは静岡・山梨両県の物産を取り扱うと同時に、『ゆるキャン△』のグッズが豊富に売られているショップとしても知られている。『ゆるキャン△』は地元とのタイアップ企画を盛んに実施している作品なのだ。
筆者は静岡県静岡市葵区在住で、自宅から安倍川を挟んだ向かい側に新東名道の新静岡ICを眺めることができる。ここからバイクに乗って50分ほど、上述の新清水JCT経由で中部横断道を北上し、南部ICへ移動する。此度の記事のために『道の駅なんぶ』へ足を運んだというよりも、月に2度はここへ来て買い物をするのが習慣になっているのだ。
画像にある通り、『道の駅なんぶ』は今や『ゆるキャン△』の聖地としてのイメージが強い。
南部町は静岡市と距離こそ近いが、山を挟んでいるため気候条件が全く異なる。長いトンネルを抜けたら雨が降っていた、ということも珍しくない。また、静岡市は雪が積もらない地域だが、南部町は気候条件によっては積雪もある。
だからこそ、『ゆるキャン△』の舞台がどのような場所なのかを肌で感じることができる。ここは文字通り「秘境」だ。
しかし一方で、南部町や身延町は今や中部横断道が開通したため意外に交通の便がいい地域でもある。甲府市へも静岡市へも出ることができる位置関係で、もちろん徹頭徹尾高速道路に乗って東京へ行くことも可能だ。
そんな地域の道の駅では、「文化圏の境目」を観察できる。
静岡・山梨両県の物産も
『道の駅なんぶ』で取り扱っているのは、『ゆるキャン△』のグッズだけではない。
たとえば、ホテイフーズのやきとり缶詰。日本人なら誰もが知っているであろう商品だが、ホテイフーズの本社は静岡県静岡市清水区に所在する。この缶詰が置かれている棚は、いわば「静岡コーナー」である。
別のところに目をやると、ワインのボトルがズラリと並べられている棚が。これらのワインは例外なく甲府産。つまり「山梨コーナー」だ。
このように、『道の駅なんぶ』では隣接する2つの文化圏の特産品が販売されているのだ。静岡・山梨両県からの生産業者と金融機関が中部横断道を活用した事業に乗り出し、結果として南部町は「南北の物産市場」となっている。が、それと同時に南部町の物産も『道の駅なんぶ』の棚の一角を占めている。
「文化圏の境目」が舞台の作品
どの国にも「文化圏の境目」が必ずある。
たとえば、中国の山西省北部から内モンゴル自治区へ移動するあたりの景色はどこまでも広がる草原だが、同時に漢民族が住んでいるらしい民家がポツリポツリとある。ここからさらに北に行けば、そのような民家もなくなって「まさにモンゴル」というような景色になっていく。
それと同じように静岡県と山梨県、つまり駿州と甲州の境目は明確に存在する。その境目はどこかと言えば、『ゆるキャン△』の聖地南部町なのだ。そして今、南部町が関東甲信越地方の大動脈としての役割を担おうとしている。
そうした視点からアニメを視聴すると、また新しい発見があるだろう。
【文】澤田真一(さわだ・まさかず)
経済メディア、ガジェットメディア、ゲームメディア等で記事を執筆。東南アジア諸国のビジネス、文化に関する情報を頻繁に配信。