東南アジア諸国で日本の“不良モノ”が大人気!ゲームも続々登場しているワケ 世界の注目作2選


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日本の「不良漫画」は、今や国際的な一大ジャンルになっている。映画『ゴッドファーザー』が世界中に「マフィアもの」の存在を知らしめたように、日本発の漫画が「不良」や「番長」の存在を有名にしている。特に経済成長著しい東南アジア諸国では、日本の不良漫画はゲーム制作にも絶大な影響を与えている。

ゲーム制作は、新興国政府が大きな期待をかける新産業である。原材料を調達する必要が全くなく、開発環境さえ整っていれば世界中どこにいても実施可能な分野だからだ。その中で現地のゲーム開発者は、日本の漫画の要素を積極的に取り入れながらも新しい作品を創造している。本稿ではそんな不良を主題としたゲーム2作品を「流行るワケ」とともに紹介する。(澤田真一)

日本の高校の雰囲気を完全再現している『BANCHOU TACTICS』

タイ・バンコクに拠点を持つSecret Charactorは、『焼肉シミュレーター』の開発でも知られている。
そのSecret Charactorが手掛けた『BANCHOU TACTICS』は、日本の高校を舞台にした不良もの。サカエ高校、ナカムラ工業高校、ミナト高校の三すくみの抗争を描いている。

主人公の高校生タイガ・アラシとその仲間たちが抗争相手と喧嘩を繰り広げる内容で、ゲームシステムはタクティクスRPG。日本の町並みや校内、ゲームセンター等も忠実に再現されている。

タイの開発者が日本の高校の雰囲気をしっかり把握している、というのはそれだけでも高評価に値する点だ。というのも、建造物としての東南アジアの学校は日本のそれとは違い、中庭を中心にした吹き抜け構造という例が多い。建物自体も通気性を重視した設計のため、日本の学校とは見た目からして大きく異なる。

しかし、『BANCHOU TACTICS』はネイティブの日本人の目から見ても違和感が殆どない。昔のハリウッド映画にありがちな「変な日本」にはなっていないのだ。開発者が日本について勉強している証拠である。

「Furyō(不良)」はキラーコンテンツ

日本の漫画は、ライセンス契約を結んだ現地の出版社によってローカライズされている。
少年漫画、少女漫画ともに「Manga(この単語自体が日本製の漫画を意味している)」は出版社にとってはこれ以上ないキラーコンテンツである。日本で話題になっている作品が東南アジア諸国で一切知られていない、という例を探すほうが困難ではないか。

故に、東南アジア諸国の若者は日本の大正時代の雰囲気を知っていたりもする。『鬼滅の刃』を読んで「なぜ鬼殺隊のユニフォームは和服ではなく西洋式なのか?」「なのに一番上に和服を羽織っているのはなぜか?」などと首を捻る人は、あまり見かけない。大正時代の日本人は既に髷を落とし、洋服を着るようになっていたということを様々な漫画作品を読んで知っているからだ。

それと同じような流れで「日本にFuryō(不良)と呼ばれる学生が存在する」という知識も身につけている。

Steamの『BANCHOU TACTICS』配信ページには、この作品が『クローズ』と『River City Ransom』の影響を受けているということが明確に記載されている。『River City Ransom』と聞いてピンとくる日本人は多くないと思うが、これはゲーム『ダウンタウン熱血物語』の北米版のタイトルだ。

このように、日本の「不良もの」は海外のゲーム開発者にインスピレーションを与えているのだ。

インドネシアの「不良もの」ゲーム『Troublemaker』

そんな「不良もの」が、現地の風習や文化、アイデンティティーと融合する例も。

こちらもやはりSteamで配信されているゲーム『Troublemaker』は、インドネシアのGamecom Teamが開発した作品。上の『BANCHOU TACTICS』とは違い、舞台はインドネシアの都市である。

主人公ブディは、根は悪くない高校生だが煽り耐性が極端にないせいで不良との喧嘩に明け暮れている。そんな彼を心配した母が、親戚の都市部への移住をきっかけに自分たちも引っ越そうと決意する。ブディは新しい高校にやって来たが、そこは毎年喧嘩トーナメントが開催される札付きの不良校だった……。

単純にあらすじを書くと殺伐とした印象になってしまうが、この『Troublemaker』が面白いのはインドネシアでは善とされている価値観が反映されている点だ。

まず、不良校だからといって目上の人即ち先生を暴力に巻き込むことはしない。そして、親を傷つけることも絶対にしない。この国では「親に手を上げる」ということは最大級の悪徳である。

従って、校内ではあれだけ派手に暴れていたブディが母親の前では無条件で従順だったり……。
が、実際にプレイしてみると日本の漫画の影響が随所に見て取れる作品でもある。

ゲーム産業と「出稼ぎ問題」

冒頭で「ゲーム制作は、新興国政府が大きな期待をかける新産業である」と書いたが、それは決して大袈裟な表現ではない。ゲーム制作分野に、大きな工業団地は必要ない。ジャンルや内容にもよるが、ネット通信とそれ相応の性能のPCがあればひとまずは開発環境が整う。

それは「地元にいながらできる仕事」という意味でもあり、結局は都市部の人口流入、地方部の過疎化に布石を打つことができる。

日本でもかつては「国内出稼ぎ」が農村部にとっての社会問題になっていた時代があった。若者は農閑期になると東京へ出稼ぎに行ってしまい、仮にその間に村で火災が発生しても消防団員の数が揃わない、言い換えれば「いざという時の人手」がなくなる……という問題だ。

農繁期に帰郷してくれたらまだいいほうで、最悪そのまま高収入の得られる東京に定住してしまうということも珍しくなかった。21世紀の現代、タイ北部や東北部の若者がこぞってバンコクを目指すのは、出身地域よりも首都にいたほうが稼げるからだ。

そのような状況を変えるには、農村部に(インドネシアの場合は島嶼部にも)「オンラインでできる仕事」を確立しなければならない。

「不良もの」の作品は、新興国の社会問題を解消しようとしているのだ。

【文】澤田真一(さわだ・まさかず)
経済メディア、ガジェットメディア、ゲームメディア等で記事を執筆。東南アジア諸国のビジネス、文化に関する情報を頻繁に配信。

著者 澤田真一
静岡県在住。経済メディア、IT系メディア、ゲームメディア等で記事を執筆。東南アジア諸国のビジネス、文化に関する情報を頻繁に配信。