アニメ聖地を過疎化解決の糸口に―沼津市で『ラブライブ!』ファン向けに移住相談会「転職活動中です」取材で見えた自治体のあり方

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TVアニメからリアルライブまで活動の幅を広げる『ラブライブ! サンシャイン!!』。その影響力は作品の舞台である静岡県沼津市までも及んでいる。沼津市では地域総出で『ラブライブ!』とのコラボ企画やタイアップを実施していることで知られているが、驚くことに“ファンを対象にした移住相談会”までもが市内で開催されている。

アニメに登場した地域が「聖地」として観光客を集める例は珍しいものではないが、「聖地」を現実的な人口政策につなげる事例はあまり多いとは言えない。今回は現地取材とともに、全国的にも珍しい沼津市のこの取り組みから“地方自治体とアニメ”について考えていきたい。

『ラブライブ! サンシャイン!!』ファンに向けた移住相談会

2月10日、沼津市にある淡島ホテルで「ラブライブ! サンシャイン!! ファンに向けた移住相談会」が開催された。もちろん会場の淡島ホテルも作中に登場した聖地の一つだ。

『ラブライブ! サンシャイン!!』をきっかけに沼津市への移住を考えている人が、市の移住相談員と直接話をすることができるというこのイベント。沼津市でも近年は少子高齢化により「地域の担い手」の減少が懸念されているが、人気アニメの聖地になっている点を駆使して首都圏から沼津市への転入者を増やそうという計画が既に執り行われているのだ。

イベントを開催した沼津市の担当者は弊誌の取材に対し次のように応えた。

――イベント実施後、反応・実際に移住に向けて動いている方はいらっしゃいますか?

「2月10日に淡島ホテルにて開催した移住相談会の後も、『ラブライブ!』ファンの方々が移住相談にお越しくださっています。「当日参加したかった」とおっしゃる方も多いです。開催前後で多くの反響をいただき、ありがたいと感じております。
(開催直後のため)この相談会に参加された方で実際に移住した方はまだいらっしゃいませんが、当日は「すでに転職・就職活動中」「すぐにでも移住をしたい」というお声もいただきましたので、移住に向けて動いている方はいらっしゃいます。」

――次の相談会の開催予定はありますか?

「ラブライブ!ファンの方限定の移住相談会は、開催予定ではありますが、開催時期や場所等については検討中です。」

何と、実際に沼津市へ移住するために転職活動をしている人がいるという。だが、冷静に考えてみれば沼津市は交通の便が案外良い。JR沼津駅からJR東京駅まで新幹線を使えば1時間程度で移動できるほか、東名高速道路を使うという有力な手段もあり、盤石の交通インフラで接続されている。

そのため、地理的条件を考慮すれば、沼津市は確かに「手頃な移住先」とも言えるのかもしれない。しかし、単に地理的条件が良好というだけでは他にライバルが存在する。

沼津市の場合は、今は亡きとある人物の英断により『ラブライブ! サンシャイン!!』が極めて大きなアドバンテージとなっているのだ。

急逝した市長の大功績

2016年10月に実施された沼津市長選挙で当選したのは、地元出身の大沼明穂氏である。大沼氏が沼津市長だった期間は、極めて短い。2018年3月、小脳出血で突如この世を去ってしまったからだ。

しかし、大沼氏は1年半にも満たない間に沼津市を「アニメのまち」に変えた。在任中、『ラブライブ! サンシャイン!!』とのタイアップ企画を複数打ち出し、さらにはアニメの声優陣をPR大使に任命することにより、「アニメの聖地」としての沼津市の方向性を確立させたのだ。その方向性は、現在に至るまでしっかり継承されている。

もしも大沼氏がはっきりと「アニメ×自治体」のコンセプトを打ち出していなかったら、今の沼津市の光景はなかったに違いない。

JR沼津駅近くにある商業施設「BiVi沼津」は『ラブライブ! サンシャイン!!』とそのコラボ作品『幻日のヨハネ』のポスターやポップスタンド、ラッピングで彩られている。休日は首都圏からここを訪れる人も多く、その中から「いっそ沼津市に住んでしまおう」と思案する人が出ている……という潮流があるそうだ。

58歳で急逝した自治体首長が、愛する地元に遺したかけがえのない功績である。

アニメが起死回生の切り札になる時代

アニメは地域活性化、そして大都市圏からの人口転出にもつなげることが可能だということを、沼津市は見事に証明した。

日本はこれからも一層の少子高齢化に突入するのは必至で、残念ながらその土地で受け継がれてきた文化や風習を担い手不足で維持できなる自治体は出てくるだろう。「何百年も開催されてきた祭りが今年限りで打ち切り」という話題が時たまニュースで放映されることもあるが、これも人口減少問題が要因の一つとして挙げられる。

自治体首長が具体的な解決策を提唱できなければ、地域そのものが消えてしまうかもしれない。そのような過酷な時代に、我々は生きているのだ。だが、それは見方を変えれば「あらゆるモノやコトが起死回生の切り札になる」ということでもある。

「アニメが人口減少問題を解決する」ということは、かつては一笑に付されていたアイディアだったはず。それが2024年の今では極めて有望な選択肢として見なされるようになったのだ。この「沼津モデル」は、21世紀中葉を迎えようとする日本にとっての大きなヒントなのかもしれない。

【文・写真】澤田真一(さわだ・まさかず)
経済メディア、ガジェットメディア、ゲームメディア等で記事を執筆。東南アジア諸国のビジネス、文化に関する情報を頻繁に配信。静岡県在住。

【協力】沼津市役所 政策企画課 移住定住推進室