〈会見&質疑〉「ホロライブ」運営会社のカバー上場―熱量あるファンコミュニティによる競争優位性をアピール


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VTuberプロダクション「ホロライブ」を運営するカバー株式会社は27日、東京証券取引所グロース市場に上場した。本日より取引が始まり、公開価格750円に対して初値は1,750円と初値騰落率130%超えとなった。VTuberプロダクションの上場は昨年上場したANYCOLORに続き2社目となる。

同社は。「つくろう。世界が愛するカルチャーを。」というミッションのもと、VTuberプロダクション「ホロライブ」を運営する法人として2016年に設立。以降、急速に成長を続け、2023年3月期の予想通期売上高は180億5600万円としている。先月17日には東京証券取引所グロース市場への新規上場が承認されたことを発表、このたび3月27日付けで上場を果たした。

これ受けカバー株式会社は同日、東京証券取引所にて上場記者会見を実施。会見には同社CEO・谷郷氏とCFO・金子氏が出席し、自社の事業内容や沿革・財務状況などを説明した。本記事では谷郷氏による概要説明と質疑応答をお届けする。

熱量の高いコミュニティが競争優位性を構築している

谷郷氏は事業概要にて「合計71名の所属タレントの総登録者数は7500万人、総再生回数は85億回を超え、現時点でのVTuberチャンネル登録者数ランキングにおいてグローバルTOP10でほぼ独占するまでに成長している。」と紹介した。

また、「熱量の高いファンコミュニティがホロライブの特徴の一つ」であることにも触れ、「多頻度にライブ配信を行うことでファンの熱量を高め、ライブ配信での積極的な受け答えによる双方向コミュニケーションやリアルライブイベントを行うことでファンのエンゲージメント向上に貢献している」「熱量の高いファンコミュニティの拡大が模倣困難な競争優位性を構築している」とアピールした。

ライブ配信を通じたコミュニケーション

続けて同氏は財務状況についても説明し、「VTuberファン数の国内外の急拡大により集客数が増加したことに伴い、2022年は〈IPをベースとしたコマース事業〉の展開に注力。一時期に落ち込みがあるものの、直近では利益率が回復しており、コマース展開の拡大が成長性・収益性ともに牽引している」と述べた。

同社の中長期的な戦略については、すでに達成しているSTEP1「強いIPの開発とファンベースの確立」、現在取り組んでいるSTEP2「コマース展開と先行投資」、準備中のSTEP3「メタバース事業〈ホロアース〉」の3つのフェーズによって構成されていると紹介した。

最後に同氏は本日の上場について「上場はゴールではなく、通過点と捉えている。日本から生まれるカルチャーを世界へ届けることに邁進していきたい」と意気込んだ。

上場会見 質疑要約

※以下カバー株式会社上場記者会見での質疑応答内容の要約

(一部質疑は確認次第掲載を予定しています。特に記載がない場合は谷郷氏の発言です。)

――現在準備中のメタバース事業〈ホロアース〉の展開予定について

VR/ARの対応は考えていない。マルチプラットフォームのオンラインエンターテイメントとして、アバターの課金やUGCコンテンツの販売場所としての収益性の拡大を検討している。
既存のVRChatはオープンすぎることから「何をやっているのかわからない」という問題が発生していると認識しており、それらを避けるためある程度の統制を取れた環境を構築していきたい。

――今話題の人工知能技術を活用した「AI VTuber」の登場は脅威と捉えているか

「AI VTuber」については楽しみ方が根本的に違うと思っている。VTuberは「一人のクリエイターとして活動していることを応援する」という楽しみ方だが、AI VTuberは「皆で一緒に成長させていくこと」に楽しみを見出している。それぞれの楽しみ方や役割が違うため、脅威と認識していない。

――初値について

金子氏:上場方式の特性上、IPO直後での株価高騰については他銘柄に比べあまり期待できながったが、我々の期待を超えた初値がついた。期待に応えられるような経営を目指す。

――今後の業績の伸びしろについて

中長期戦略のSTEP2「コマース展開と先行投資」とは、メディアミックス展開全般になるという仕組みで中長期的には巨大ビジネスになる見込み。今後コマースビジネスが牽引していくことを想定しており、再来年以降はゲームやアニメといった多様なメディアでの展開が可能性としてあり得る。

――STEP3「メタバース事業〈ホロアース〉」におけるマネタイズについて

展開次第だが、本格的には2025年以降のマネタイズになる見込み。収益モデルとしては主に2つを想定しており、1つは「ライブ」を通じたマネタイズ。チッケット販売というよりかは、ライブに連動したアバター・グッズ販売や投げ銭。もう一つは「アバター衣装の販売」で、「Mobage」さんや「アメーバピグ」さんをイメージしていただくとわかりやすい。

――イベントも含めた海外展開について

2022年は21の海外イベントに出展を行い、今年も18つのイベントに出展予定で、7月には英語圏のプロダクション「ホロライブEN」のライブイベントの実施も控えている。ライセンスビジネスやコマースビジネスに関しては、北米において需要に対し供給が追いついていないため、今後強化する。
収益面においては人口の多い「北米圏」→課金意欲の高い「東アジア圏」→「東南アジア」の順番で重要であるという認識。

――中国(中華人民共和国)における展開について

ビリビリ動画といった中国のVTuber市場では日本のプレイヤーは活動が厳しい。規制が強いことから、VTuberに限らずアニメパブリッシャー苦戦しているという認識。一方で香港・台湾・マカオといった簡体字・繁体字文化圏で考慮すると、中国語ローカライズ自体の伸びしろは大きい。

――ANYCOLOR(「にじさんじ」運営会社)と比べ「男性VTuber」の印象が薄い点について

そもそもANYCOLORさんは男性VTuberに強く、カバーは女性VTuberに強いという認識。それぞれの強みを活かして伸ばす事が重要。

――競合プロダクションと比較した際の優位性はあるか

競合に比べ「ホロライブ」所属タレントのチャンネル登録者数が多いのは優位性の一つ。多言語ローカライズを積極的に行ったことがファンコミュニティの拡大に寄与し、登録者数の増加につながった。

また、コマース展開における競合との営業利益の違いはグッズ展開の方針の違いによるものという認識。競合は会社主導でグッズ販売を行っているが、自社は「タレントの収益還元の大きい記念日や誕生日に合わせた受注生産品」に注力している。しかしすぐ購入できるという環境づくりができていないため、機会損失をしている状況でもあり、その点も克服していきたい。

――海外取引所での上場の選択肢はあったのか

金子氏:海外に上場したとしても「日本企業であることから、海外投資家から米国企業として見られないのではないか」というキャピタルマーケットの経験があったため、日本銘柄という点を活かせる国内上場を選択した。


■カバー株式会社(https://cover-corp.com
代表者 :代表取締役 谷郷 元昭
所在地 :東京都千代田区外神田2丁目2−3
設立 :2016年6月13日
事業内容:バーチャルプラットフォーム事業、VTuberプロダクション事業、メディアミックス事業

市井

著者 市井
オタク総研媒体統括 兼 合同会社サブカル通信社執行役社長。専門領域はアニメ、テクノロジー(ガジェット)、プログラミング、コンテンツビジネス。PRプランニングやIP調達なども担当しています。新作アニメ、海外スマホ、東南アジア好き。