実は結構重要?特撮における「野球」のエッセンスを振り返る


実は結構重要?特撮における「野球」のエッセンスを振り返る

世界各国で親しまれている野球。筆者は運動音痴だったのであまり野球をしてこなかったが、振り返れば中学時代の昼休みに同級生たちと運動場でやった野球は格別に楽しかった。

球とバットとグローブがあれば遊べるので、気楽に汗を流すにもちょうどいい球技だが、昭和の昔においては少年たちにとっては今以上に欠かせないコンテンツだった。「巨人・大鵬・卵焼き」という流行語が誕生するほどだったので、巨人軍=野球の魅力は、当時の子どもたちにはたまらないものだったのだろう。

そんな人気コンテンツだったこともあり、野球は色んな漫画やアニメでも題材にされている。時には特撮番組にも野球がモチーフとして導入されることがあった。

今回は、特撮で見ることのできた野球エッセンス溢れる事例を振り返ってみたい。

戦隊シリーズでは野球仮面をはじめとした野球ネタが多かった

野球というのは前述のように子どもたちにとっては馴染みも深いスポーツ。だから子ども向けの特撮番組でも、野球にちなんだ物語や人物が登場することもしばしば。

有名なのが1975年放送『秘密戦隊ゴレンジャー』に登場した、野球仮面だ。野球ボールに目がついたようなデザインの頭部に赤いバットを装備した仮面怪人で、配下の戦闘員にも背番号が振られるなど、かなり野球という記号を落とし込んだ怪人になっている。

最期はリモコンで操られているゴレンジャーハリケーンを迎え撃とうとするも三振して敗北するなど、野球ファンの子どもたちを楽しませるために登場した怪人であった。

また1983年放送の『科学戦隊ダイナマン』は当初、野球をモチーフにした戦隊を制作するという意向があったという話は特撮ファンには有名。そのためか、主題歌ではイントロでバットが軽快に球を打つようなサウンドも挿入されている。ダイナマンのスーツもどこかプロ野球チームのユニフォームっぽいのも、その名残だ。

時代が平成になっても野球人気は衰えない。1993年放送の『五星戦隊ダイレンジャー』では、『ゴレンジャー』の野球仮面回をさらに発展させる形で、本編で敵味方が本当に野球で対決を行う。

ここでも敵戦闘員がユニフォームを着用して参加するなど、本格的。試合前には怪人や戦闘員たちがストレッチで身体をほぐすなど、妙にリアルなシーンも挿入されていた。

ちなみに、この頃から国内ではJリーグが発足してサッカー人気も高まったこともあって、同番組内では後日サッカー対決回も放送されている。

グローブをモチーフにした奇妙な怪獣を生み出す円谷プロのウルトラシリーズ

東映の戦隊シリーズだけでなく円谷プロのウルトラシリーズも、野球の描写は本当に多い。劇中で子どもたちが野球に精を出しているシーンが描かれることも多々あり、野球少年が宇宙人の策略によって体の自由を奪われてしまう回なども存在する。

中でも筆者が「これは凄い!」と舌を巻いたのが、1980年放送『ウルトラマン80』第47話「魔のグローブ落し物にご用心!!」に登場するグロブスクという怪獣である。

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グロブスク

野球好きの少年が愛用していたグローブが、試合に負けたことで八つ当たりのように放置されてしまい、そこに何らかの宇宙生物が憑依。紫外線を浴びて巨大化したというのがこの怪獣の出自だ。

野球をモチーフにした怪獣となると、普通はボールやバットなどをイメージしやすいが、グローブを怪獣に見立てるというのはなかなか前例がない。

しかも見た目はオニヒトデやサンゴといった海洋生物に似ており、初見では野球関連の怪獣とは気付くことは難しい。そんなグロブスクも、よく見ると本当にグローブのような姿をしており、上下逆さまになっても問題なく戦闘継続が可能であるなど、ユニークな一体である。

今後もまだまだ特撮と野球の縁は切れないのかも…

現在、娯楽も多様化したことで、野球人気は落ち着いている。もちろん今でも野球に没頭する少年も多いし、将来はプロ野球選手になりたいという子どももいるはずだ。

ただ、やはりサッカー、バスケといった具合に、プロとして活躍するスポーツの舞台は多岐にわたるので、昭和と比較すれば人気は分散している。

そのため、昭和から平成にかけてしばしば見られていた、特撮での野球に関する描写も少なくなっている。これも時代の流れを反映しているのかもしれない。

しかし、完全に野球が特撮と疎遠になることはない。2024年にNetflixで独占配信されたフルCGアニメ『Ultraman: Rising』では、米国で活躍するスター級の日本人野球選手が主人公。

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劇中では大谷選手の存在も示唆されているなど、昨今の野球事情を踏まえた上での舞台設定になっており、野球と特撮の接点もまだしっかり残っていることが分かる。

本作は主人公が野球選手とウルトラマン稼業の両輪で働くのに加え、怪獣の子守りもするというかなりハードな役割を課せられている。まさに超人的な体力が必須の立場なので、大谷選手のような現代に生きる超人をイメージとして投影したとしても不思議ではない。

他にも、ここには書いていないだけ、あるいは筆者が知らないだけで野球が絡んだ特撮というのは山ほどある。特撮における野球の描写は、時代を映す鏡として、また子どもたちの身近な遊びとして、これからも様々な形で登場し続けるだろう。

著者 松本ミゾレ