【特集】シャープ×VTuber「さくらみこ」コラボ家電の“愛が凄すぎる”舞台裏――担当者に聞くこだわりと“喋る家電”の未来

シャープは、ホロライブプロダクション所属のVTuberである、さくらみこさんとコラボレーションを展開。「“喋る”えりぃと家電」とうたい、さくらみこさんのイラストやボイスを搭載した加湿空気清浄機とホットクックをはじめとしたさまざまなコラボ商品を、期間限定で受注生産による販売を行っている。
今回、制作を手がけたシャープの関係者に、さくらみこさんモデルに対するこだわりとともに、これまで約10年にわたって取り組んできた“喋る家電”の可能性についてもあわせて聞いた。(取材・文:さとうかずや)

さくらみこさんのボイスを100ワード以上収録した“うるさいほど喋る仕様の家電”
シャープでは、家電の音声をカスタマイズできるサービス「COCORO VOICE」を展開。対応する家電の挨拶やおすすめ、労いなど様々なコトを話す機能に対して、好みに合った音声を選んで家電に設定できるというもの。それにあわせて、ゲームやアニメなどのイラストと特別な音声が楽しめる特製モデルもカスタマイズサービスとして展開している。
「加湿空気清浄機カスタマイズサービス<さくらみこ Ver.>」では、加湿空気清浄機専用ボイスを100ワード以上収録し、X(旧Twitter)上で募集した「さくらみこさんに言ってほしいフレーズ」も実装。運転開始や停止時のみならず、空気の状態や給水時などの機能的な場面のボイスや、時間ごとに聞けるボイスなどが楽しめる。本体におるだん先生による描きおろしイラストと、さくらみこさんの直筆メッセージプリントが入ったものとなっている。

「ホットクックカスタマイズサービス<さくらみこ Ver.>」についても、ホットクック専用ボイスを100ワード以上収録し、「COCORO KITCHENボタン」を押すことで、朝昼晩のあいさつや専用メニューの検索モード、特定メニューの調理完成後の一言などが楽しめる。天面には木屋 町先生による描きおろしイラストと、さくらみこさんの直筆メッセージプリントが入っている。

このほか、加湿空気清浄機のコラボモデルをモチーフにした「加湿空気清浄機型ぬいぐるみ」として、「さくらみこVer.」と「35PモチーフVer.」(※「35P」はさくらみこさんのファンネームであり、キャラクター)の2種もあわせて販売している。また、COCORO VOICEにおいて加湿空気清浄機向けならびに、ホットクック向けさくらみこさんのカスタムボイスも発売中となっている。
インタビューでは、さくらみこさんのコラボモデルにおける制作の中心人物である児玉真佑氏と、シャープにおける喋る家電の取り組みを初期段階から手がけている徳永礼氏の2人を中心として、徳永氏とともに長年喋る家電に関わっている安田一則氏、カバー(ホロライブプロダクションの運営会社)とのやりとりなど窓口を担当した塚越雅人氏、プロモーション周りなどを担当した山口理恵氏が、それぞれの立場から語った。
X上でのやりとりからコラボ展開へ一気に進展
そもそもシャープとさくらみこさんの関わりについて発端となったのは、2021年にさくらみこさんが、シャープ製品の加湿空気清浄機を利用していたものの、水を入れないまま加湿機能を使用していたことが、配信中に発覚。この出来事にシャープ公式Xアカウントも反応したことだ。
SHARPは魔法使いじゃないぞ(ご愛用はありがとうございますが、タンクに水を入れてください) https://t.co/LXz2SfsP8x
— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) December 17, 2021
SHARPさん、ごめんなさい
ちゃんと水を入れます
いつもお世話になっています。にぇ😶🌫️
(マネちゃんから連絡きて目が覚めた) https://t.co/yr7UvVbOOy— さくらみこ🌸1st Album『flower rhapsody』発売中 (@sakuramiko35) December 17, 2021
実際にシャープ側の動きとしてはどうだったのか。聞くところによると、これまでVTuberとのコラボについて、構想としてはあったものの本格的な検討というのは行われていなかったという。そのような状況で、児玉氏が2023年12月に入社し、さくらみこさんとコラボした展開を考え、周囲にも話をしたことが、検討が始まったタイミングと振り返る。もともと児玉氏は熱心な35P(ファン)であり、ホロライブの箱推しという。
「みこさんモデルの製品はシャープで絶対作りたいと考えていました。大急ぎで喋る家電の仕様などを勉強して企画書を作って。VTuberのどなたか、ではなく、みこさん専用の企画書を書いていました」(児玉氏)
水を入れずに加湿機能を使用していた出来事から土壌ができており、少なくともみんなが同じ方向を向いていた状態。いかに一番いいタイミング、そして喜んでもらえるプロダクトとして世に出すかという状況でもあり、企画書を契機に展開は進んでいったという。また、話し合いを進めつつ、2024年10月のソロライブ(「さくらみこ1st Live “flower fantasista!”」)を控えていたこともあり、コラボすることだけでもお知らせした方がいいという話になったことから、発表を行ったとしている。
イラストの構図について真剣に議論
コラボモデルでは、イラストにも強いこだわりとともに“戦い”があったことを児玉氏らが振り返る。加湿空気清浄機のほうは、前述のようにイラストをおるだん先生が担当。児玉氏によれば「大事な局面で描かれている方で、まさか今回描いていただけると思ってなかった」という。描かれているさくらみこさんは体育座りをしているが、この構図は児玉氏が企画段階からテーマとしていた「さくらみこさんと一緒にいる」に基づくもの。
「とにかく、イラストが描けるキャンバス全面に、みこさんを描いていただきたかったんです。シンプルに全身にしてしまうと、小さくなって存在感が薄くなってしまいます。どういう構図にしたら、テーマに沿いつつ詰め込めるかというのを考えるなかで、体育座りが一番面積的にフル活用できるのでは、という結論に至ったので。結果として服は少しはみ出しましたけど、体は全部入りました。最高のイラストになりましたし、おるだん先生にお願いしてよかったです」(児玉氏)

親和性の高さからホットクックも製品化――スポンジケーキは人間側のがんばりも必要
ほかに、ホットクックのコラボモデルについてもエピソードを語る。児玉氏は、さくらみこさんが料理配信を行っていることを把握しつつ、ホットクックの仕様を調べるなかで、さくらみこさんが作る料理と、ホットクックで作ることができる料理に近いものがあると感じ、親和性が高いと判断。ホットクックのコラボモデルについても打診したところ、前向きな返事があったことがきっかけという。
「ホットクックはおいしい料理を作ることができる家電。僕としても、35Pのみなさんにおいしい料理でお腹を満たしてほしいという気持ちがありました。そこにみこさんの声が入ったら最高でしょうと。親和性の高さと作りたい気持ちで進めた企画です」(児玉氏)

イラストについては、キャンバスの面積が小さいためデフォルメキャラにすること、テーマとしては“ホットクックでできあがった料理を食べる35Pを見ているさくらみこさん”、というイメージを想定していたという。イラストを担当した木屋 町先生については、
「デフォルメのイラストであれば、目力が大事と思っていましたし、木屋 町先生のイラストを見て是非と思いました。最初は優しく穏やかな雰囲気のイメージを想定していたのですが、やりとりを重ねるなかで、段々と目にギラギラ感が出てきて、口元からよだれが出ているものになっていきまして。いつの間にか、35P用に作った料理をみこさんも食べる気なんだ……と感じさせるものになって。想定よりも面白くなったうえに、35Pの心もくすぐるようなイラストとなって、そこまで引き上げていただいた木屋 町先生に感謝しております」(児玉氏)
ちなみに、イラストに描かれているシチューとスポンジケーキは、ホットクックで作ることが可能な料理。児玉氏によれば、みこさんとのコラボにおいてシチューは外せないという。またスポンジケーキについて、ホットクックは“ほったらかし”のイメージがあるものの、作るには人間側のがんばりも必要という。大変さを乗り越えて作ってほしい願望がありつつ、さくらみこさんのボイスについて、躊躇しながらもエールを送ってもらえるようなセリフとなっており、それを聞きながら挑戦してほしいと語った。