YouTube上にコメントを流すニコ動風アドオンは特許侵害なのか?【解説コラム】


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ニコニコ動画ならではの「画面上にコメントが流れる機能」をYouTubeなどの別の配信サイト上で再現できる拡張機能(アドオン)が削除されるという問題で多くの物議を醸している。
本稿では削除された経緯やOSSの特許侵害について、JavaScriptなどのプログラムの特性とともに開発者の筆者が論じる。

※タイトル及び本文の「開発者」は拡張機能の開発者のことではなく、”Webシステムを開発している身”という広義の名称です
※特許情報に関しては特許庁の一次情報を必ず確認してください

コメントを流す拡張機能が削除された経緯

コメントを流す拡張機能(アドオン)が指摘・削除された経緯は、TS放送のアプリケーション等の開発を手掛ける「tsukumi」氏の以下のツイートを参照。

簡潔に説明すると以下のようになる。

  1. ニコニコ動画の好きな人が集まる、Twitterコミュニティ内で前述の拡張機能に関する議論が一部で行われる
  2. ニコニコ運営代表の栗田穣崇氏が、「見つけたら運営まで知らせてもらえると~」という旨を投稿(削除しろと指示したわけではない
  3. 同氏は表向きに公表はしないで欲しいとツイートに返信

※Twitterコミュニティ内のツイートは鍵アカウント投稿とは違い、投稿URLがあれば外部から参照できる情報

「YouTube Live Chat Flow」が削除

結果として、YouTube上にコメントを流す人気な拡張機能「YouTube Live Chat Flow」のソースコード及び拡張機能本体の配布場所(=リポジトリ)は削除される結果に。

前述の削除されたとツイートしたtsukumi氏がOSSソフトウェアの保護を目的とした「YouTube Live Chat Flow」のクローンリポジトリをGitHubにアップロードしている。

以上が、2022年6月16日現在での拡張機能削除に関する経緯だった。

拡張機能は特許侵害になりうるか

株式会社ドワンゴの保有するニコニコのコメントに関する特許は「特許4695583号」及び「特許4734471号」である。ここからはそれらの2つの特許に関するウェブ開発者としての見解を述べる。

■上記2つの特許はそれぞれ以下のような内容について定義されている

特許4695583号 ・コメントデータの非同期的な受信と表示の関係
・コメントとコメントの衝突を回避するアルゴリズム
特許4734471号 ・コメントの表示領域に関する発明

拡張機能はDOM操作しかしてないから非侵害?

まずは「特許4695583B2号」に関するポイントを拡張機能の仕組みとともに解説する。

「特許4695583B2号」には以下の記述がある。
複数の端末装置から送信されるコメント情報を受信して各端末装置へ配信するコメント配信サーバと、前記コメント配信サーバに接続され動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する
出典:https://patents.google.com/patent/JP4695583B2/ja?oq=4695583
この時点で、「YouTube Live Chat Flow」を始めとしたChrome拡張機能(アドオン)のほとんどは対象から外れることになる。
YouTube Live Chat Flowの場合、拡張機能のプログラムは一切外部サーバーとのやり取りを行っておらず、流すコメントの情報源はチャット欄である。つまり、特許本文にて定義されているコメント配信サーバーという概念は存在しない。
ソースコードを解析すれば明らか
しかし、コメントを投稿したと同時にすぐ投稿コメントが表示される仕組みに関して言えば、コメントの非同期的表示に該当する可能性がある。

特許上完全な侵害とは言い難いが、限りなくグレー

上記のコメントの非同期的受信の観点においては侵害には当たらないという見解を筆者は示した一方、同じ特許番号の別項に記載されている「コメント間衝突の回避」においてはかなりグレーor侵害ではないかと懸念される。

上記同様「特許4695583号」には以下の記述がなされている。

前記判定手段は、前記固定位置で表示されるコメントと前記移動表示されるコメントとの表示位置が重なるか否かを判定するものであって、前記移動表示されるコメントが、前記固定位置で表示されるコメントが固定表示をする間継続して表示位置が重なる場合に、重なっていると判定し、一部の期間で表示位置が重なっていても、表示位置が重なっていない期間がある場合には、重ならないとして判定する
出典:https://patents.google.com/patent/JP4695583B2/ja?oq=4695583

ニコニコのサービスのコメントシステムは時間によるコメント間の重複を防止するアルゴリズムが実装されており、それらと同様或いは同様とみなされるプログラムが削除された「YouTube Live Chat Flow」にも実装されていた可能性は大いに有り得る。

個人のOSSは特許上の”事業”なのかが争点

この「ニコニコ風にコメントを流す拡張機能(アドオン)」へのドワンゴの特許侵害に関する問題で、ソフトウェアの提供が事業として行われているかが大きな争点となる。
ライトハウス国際特許事務所の公式HPの解説によると、ソフトウェアの提供に関して以下の見解がなされている。

なお、第三者が、特許に関する製品を無償で提供した場合であっても、事業として行っているのであれば、特許権の侵害となります。有償であるか、無償であるかは、関係ありません。
出典:https://www.lhpat.com/software/patent/patent.html

前述した削除された「YouTube Live Chat Flow」という拡張機能はOSSプロジェクトとして個人が趣味で開発しているもの。
※OSS…オープンソースソフトウェアの略称で、開発者が無償でソースコードを公開していて、二次利用・再配布が自由に許可されているソフトウェアのこと

つまり、上記見解をもとにして読み解くなら「趣味で作成して頒布している(=事業として頒布していない)ソフトウェアは特許権の侵害には当たらない」のではないかと思われる。

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これまで簡単にご紹介してきたが、あくまで本記事の内容は開発者視点による個人見解であり、係争になる場合は管轄裁判所が最終的な判断を下すので一意見として汲んでいただきたい。
その他、ドワンゴ対FC2特許侵害裁判に関する有益な記事も紹介するので是非参考にしていただきたい。(以下は開発者ではないもののIT特許の専門家による解説)

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市井

著者 市井
オタク総研媒体統括 兼 合同会社サブカル通信社執行役社長。専門領域はアニメ、テクノロジー(ガジェット)、プログラミング、コンテンツビジネス。PRプランニングやIP調達なども担当しています。新作アニメ、海外スマホ、東南アジア好き。