異世界系ラノベは売れる?ネット発特化の出版社、売上100億突破で過去最高 アニメ化多数も課題あり


アイキャッチ画像

春夏秋冬、非常に多くのアニメ作品が放送・配信されるなか、シーズンに関わらず一定の本数が展開されているのが“異世界”ジャンル。「ある日突然事故に見舞われ…」に始まる“転生”モノから、近年注目の“悪役令嬢”モノまで多岐にわたり、7月から始まる夏アニメでも例外なく多数ラインナップしている。

こうした異世界系ジャンルの一部は「小説家になろう」をはじめとした投稿型小説サイトを原作とするケースが多いことから、しばしば「なろう系」とも称される。本稿ではそんなネット発の作品に特化した出版社「アルファポリス」の動向を紹介する。

株式会社アルファポリスは東証グロース市場に上場する2000年創業の出版社。誰でも自由に小説や漫画等の作品を投稿・登録できるウェブサービス「アルファポリス」の運営元として、ネット発の人気作を出版することに軸をおいた戦略が特徴として挙げられる。現在、同社の刊行物では『月が導く異世界道中』『THE NEW GATE』『Re:Monster』の3作品が同時にアニメ放送を行うなど、メディア化も活発に行われている。

同社は、5月中旬に公表した2023年度決算において「7期連続増収」「初の売上高100億円突破」を記録する過去最高業績であったと報告。経常利益では製造コスト増や印税率改定により前年度比で減益となったものの、売上高については「刊行点数の増加、拡販施策の展開、アニメ化効果等」により予想を上回る11.3%増だった。

各業績の内訳を見てみると、媒体別の売上では電子書籍が約80%の水準をキープし、紙媒体を圧倒している。(例『月が導く異世界道中』シリーズ累計発行部数=440万部/紙媒体初版発行部数=9.7万部)

マンガ&コミカライズが75%、アニメ化には課題も

そして、注目すべき点が発行形態で、マンガが全売上の75%を占め、次いで残り25%程度をライトノベルとの結果になっていた。マンガの割合が高いのは「電子書籍との親和性が高い」だといい、「ピッコマ」「LINEマンガ」といったプラットフォームへの配信が可能であることから、多くの読者にリーチしやすいことが起因しているようだ。

また、同社が推進するメディア化、とりわけアニメ化について、影響は大きいとしつつも、製作への出資額が少額であることから恩恵を最大限発揮できていないと分析。同時に、2030年に向けた目標として「アニメ製作に多くの出資」を行い「アニメ事業による利益を20倍まで増やす」ことを盛り込み、原作ホルダーである強みを活かしたい意向を示していた。

現在予定されている同社原作のアニメ化は6本にものぼり、7月からは『異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~』(テレ東系)が、10月からは『さようなら竜生、こんにちは人生』(TBS系)がそれぞれ控えており、ヒット作の発掘や制作などを通じて「総合出版社としての早期地位確立を目指す」と強く意気込んでいる。

市井

著者 市井
オタク総研媒体統括 兼 合同会社サブカル通信社執行役社長。専門領域はアニメ、テクノロジー(ガジェット)、プログラミング、コンテンツビジネス。PRプランニングやIP調達なども担当しています。新作アニメ、海外スマホ、東南アジア好き。
メルマガ詳細