チャリティ配信で注目『スキップとローファー』東京の高校生たちに投げられた一石 無自覚に周りを変えていく“みつみ”の魅力に迫る
都会っ子にとって、田舎者は新鮮に映るようだ。これまで育ってきた異なる環境や文化がもたらすからで、好奇心に近いのかもしれない。そのように生まれた違いが面白い化学反応を起こすときがあると、『スキップとローファー』は教えてくれる。
2月3日午後6時から2月4日午後11時59分の期間中、TVアニメ『スキップとローファー』(以下、『スキロー』)がYouTubeの「フル☆アニメTV」チャンネルにて配信された。これは能登半島地震をうけて行われたチャリティー配信で、配信における収益は全額が石川県に寄付されることでSNSでは大きな話題に、応援と称賛の声が寄せられた。ここではそんな本作の魅力に改めて迫りたい。
“将来は国家公務員になる”カリスマ性溢れる主人公
本作の主人公である岩倉美津未(みつみ)の地元は石川県の過疎地。第9話で夏休みに入ったみつみが里帰りする様子が描かれるなど、石川県珠洲市がみつみの故郷のモデルになっているという繋がりがある。
故郷を離れ「国家公務員になる」との志を持ち、東京の進学校に入学したみつみは、ちょっとずれた性格をしている。しかし、その性格のおかげで知らず知らずのうちに周りを変えていく。入学式に遅れそうになって裸足で全力ダッシュしたり、クラスの自己紹介で言い放ったジョークが思いっきりすべったり……。みつみは雰囲気を和やかに明るくさせる一面と隠れたカリスマ性を兼ね備えた、とても魅力的なキャラクターなのだ。
みつみの同級生である志摩聡介は、そんなみつみに影響されて変化していった登場人物の一人。志摩くんはやさしくて軽やかな性格をしつつも、人間関係において一歩引いたようなスタンスでいる。だが、みつみと一緒に過ごしていくうちに志摩くんの人付き合いに対する価値観がゆるやかに変わっていくのだ。みつみにチクッとした言葉を言ってしまったときに悩んでいる志摩くんを見て、友達のクリスが「聡介にしては珍しくね?」と思わず言うほど。みつみのような存在が、志摩くんにとってはじめての経験なのがうかがえる。
主人公の包容力に驚かされる、あたたかい作品に
他にも、みつみと関わるうちに変化していったクラスメートが江頭ミカだ。江頭さんは人をよく観察しており、学校の中でもスクールカーストを気にしてしまうような子。それは過去に他人から低く見られていたコンプレックスが原因で、みつみにもすこし当たりが強い。上手く立ち回ろうとするしたたかな性格の江頭さんに、“嫌なヤツ”という印象を持った人は少なくないだろう。
ただ、江頭さんがみつみの純粋なまっすぐさに心を動かされるシーンがある。バレーボールの練習中、上級生の態度にムカついた江頭さんは“心の許さじノート”に上級生の名前を刻む一方、みつみはそのとき親切にしてくれた人の名前を覚えていたのだ。この違いに江頭さんは愕然とする。さらに、みつみは江頭さんが努力してバレーが上手くなったと分かると率直に伝えた。江頭さんが人知れずしてきた努力が、みつみの言葉で報われた瞬間だった。
志摩くんや江頭さん以外にも、みつみのなにげない言動で新しい気づきを得る登場人物がたくさんいる。意識的にではなく、自然に人に影響を与えているところがみつみの天性の才能だろう。その魅力的な性格は、石川のふるさとが育んでくれたものだと感じる。どうか都会に染まらないでほしいし、ずっとそのままの純粋無垢な輝きでいてほしいと願ってやまない。
『スキロー』は多幸感であふれたあたたかい作品だ。じんわりと胸が満たされる雰囲気を形作っているのは、主人公であるみつみの存在が大きいだろう。原作コミックで描かれるアニメの続きの部分は、ハッピーなだけじゃないより深い『スキロー』を味わえる。
また、3月22日に発売される原作第10巻では、ポストカード4枚が封入された能登半島地震応援版も同時刊行。能登半島地震をうけた取り組みが今後も続いていくと予想される。ぱたぱたと元気に走り回るみつみにまた会えると信じて、アニメ第2期を楽しみに待ちたい。(文/まわる まがり @kaku_magari)
『スキップとローファー』作品情報
地方の小さな中学校から、東京の高偏差値高校に首席入学した岩倉美津未。
カンペキな生涯設計を胸に、ひとり上京してきた田舎の神童は、勉強はできるけれど距離感が独特でちょっとズレてる。
だから失敗することもあるけれど、その天然っぷりにクラスメイトたちはやわらかに感化されて、十人十色の個性はいつしか重なっていく。
知り合って、だんだんわかって、気づけば互いに通じ合う。だれもが経験する心のもやもや、チリチリした気持ち。わかりあえるきっかけをくれるのは、かけがえのない友達。
ときどき不協和音スレスレ、だけどいつのまにかハッピーなスクールライフ・コメディ!
原作:高松美咲
(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
アニメーション制作:P.A.WORKS
放送:終了
配信:DMM TVほか各種動画配信サービスにて配信中
©高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会