ゲームソフトにも“特撮”はある!初代PS『サガフロンティア』アルカイザー編に見る特撮らしさ

今に始まったことではないが、ゲーム作品の中には、当時話題になっていた映画、小説、テレビドラマなどのオマージュシーンが導入されているものがある。これは制作者の趣味で入るお遊びのような、いわゆるイースターエッグめいたものがほとんど。
大抵は本筋のシナリオに深く関与することはないのだが、作品によっては最初から最後までオマージュにオマージュを重ねて完走するタイトルもある。
今回は1997年に発売されたスクウェアエニックス(当時はスクウェアソフト)の名作RPG『サガフロンティア』に見られる、濃度100%の特撮オマージュの主人公をご紹介したい。
その名は小此木烈人!父を殺された孤高の変身ヒーロー
『サガフロンティア』は、複数の主人公から1人を選んでストーリーを進めるというサガ系にはおなじみの遊び方が楽しめるRPGシリーズ。人間、妖魔、モンスター、メカそれそまれ主人公も多彩だが、そのうちの1人が小此木 烈人(おこのぎ れっと)。通称レッドである。
彼はストーリー冒頭、著名科学者である父の小此木博士を謎の組織ブラッククロスによって殺されて、母と妹の消息もつかめず、自宅までも放火されてしまう。その上でブラッククロス四天王の一角、シュウザ―なる幹部によって瀕死の重傷まで負わされてしまった。
そんな彼の命を救ったのが、変身ヒーローのアルカールだ。シュウザーを退けたアルカールは、命の炎が消えつつあったレッドに、本来であれば厳正な審査の上で与えることとなるヒーローの資格をやむなく譲渡する。こうしてレッドはヒーロー・アルカイザーとして復活することになった。
そして、もしアルカイザーであることを知られたら、レッドはその存在を抹消されてしまうことも。変身に関する縛りも設けられていることからわかる通り、『サガフロンティア』のレッド編は完全に特撮ヒーロー作品のノリで最後まで物語が進行しているのだ。
闇の組織「ブラッククロス」幹部たちもくどいほど特撮感マシマシ
そんなレッドが相対するブラッククロスもまた、1997年以前に放送されていた数々の特撮番組のエッセンスを上手く取り込んだ集団だ。
戦闘員たちはショッカーの末端戦闘員のようなタイツ姿だし、「キー」という掛け声を発して集団で襲い掛かる。ちなみにそのタイツも赤、青、緑、黄、桃と『ゴレンジャー』をはじめとした、戦隊ヒーローのカラーをオマージュしている。
そういった戦闘員を統率しているのが怪人枠となるモンスターたち。
レッドとの戦闘においては、不思議空間トワイライトゾーンという特殊フィールドを展開。その空間では戦闘力が3倍にもアップする。これは最早『宇宙刑事ギャバン』などでも見られたお決まりの展開だ。
その怪人たちを使役している上位存在が、ブラッククロス四天王である。
表向きは大企業の女社長として活躍し、密かに武器の密輸に手を染める改造妖魔アラクーネ。人間を誘拐して戦闘員や怪人に改造する役目を担いつつ、戦闘で一度受けた攻撃に対して“ひらめいて”見切りカウンターを仕掛ける改造モンスターベルヴァ。冒頭でレッドを瀕死に追いやり、さらに彼の父である小此木博士の脳を体内に埋め込んだ、ギルハカイダーばりの設定を持つ改造人間シュウザ―。
ブラッククラスの最高傑作にして、侘び・寂びの概念を心得た戦国武将風の改造メカ・メタルブラック。この4名で構成されている。
四天王を作ったのはブラッククロスの頭脳とも称されるDr.クライン。彼は小此木博士のかつての学友であり、ブラッククロスの首領の肉体改造なども行うほどに信頼されているが、首領を改造の素体としてかか考えていない節もあり、最終的には組織の乗っ取り、掌握に成功。『超新星フラッシュマン』の大博士リー・ケフレンのオマージュも強く感じさせるキャラクター性あってのことだ。
そしてDr.クラインですら把握していなかった、ブラッククロス真の首領も存在。これがレッド編のラスボスである。敵幹部ですら認識していない最上位の支配者―これもまた戦隊シリーズなどではたびたび見られるものであり、敵組織の概要を見るだけでも、相当色んな所から要素を引っ張っていることがうかがえる。
ゲームシステムも特撮感丸出し!アルカイザーの戦いの行方は…?
レッドの戦いは基本的には自分の正体を隠しての活動となるため、親しい相手にすら正体を打ち明けられないジレンマに苦しむ機会が度々描かれる。孤高のヒーローとなった彼は、変身前でこそ同じパーティメンバーと一緒に戦うことができるが、目の前で変身するのはご法度なのだ。
そのため、一緒に戦っているメンバーが全員戦闘不能で倒れているか、もしくはステータス異常の“盲目”状態でなければアルカイザーになれない。
ただし、メカ系の仲間と組んでいる時のみは制限なく変身することが可能。だがこの場合も正体を明かせるのはロボットの相棒だけ、というこれまた特撮ヒーローらしい縛りとして機能する。
四天王との戦いの前には都合よく停電したり、一旦仲間とはぐれた隙に変身して合流するなど、要所要所でレッドが機転を利かせるのも面白い。
ちなみにアルカイザー状態では通常では習得できない、ヒーロー専用技をひらめくことが可能。終盤では、四天王の一人であるメタルブラックの強化された姿かつ主人公の偽物枠、メタルアルカイザーとの戦いで特定の条件を満たすことで習得する、最強最後の必殺技も用意されている。
真の首領との最終決戦では、ぜひともこの必殺技で仕留めたい。
ブラッククロスの崩壊を見事に見届けたレッドは、エピローグで救出した母、妹と共に小此木博士の墓参りに出向く。
そこで再会したアルカールから、正式にヒーローの資格を“はく奪”され、物語は幕を閉じる……そして、この直後に流れるのが、新番組『R3X』の予告編。アルカイザーがブラッククロスを倒した直後に、シルエットだけの新ヒーローが姿を見せるのだ。これもまた、特撮番組が最終回を迎えたのちでよく見かける新番組の宣伝を彷彿とさせる。
当時は初代プレイステーション専用ソフトとして発売された『サガフロンティア』。
リリースからかなり時間が経過しているが、諸々遊びやすく調整され、さらに主人公も追加されたリマスター版が各プラットフォーム向けに2021年に発売されている。
オリジナル版から音楽や演出の改悪などもなく、プレイヤーに不利なバグは削除し有利なバグは残すという絶妙の采配を行っている有能リマスター版となっている。かつてプレイした方も、まだ触ったことがないという方も、ぜひ遊んでみていただきたい。