アニメ制作にAI活用の可能性 東映アニメがプリキュアの実例提示、海外では賛否も


アニメ制作にAI活用の可能性 東映アニメがプリキュアの実例提示、海外では賛否も

東映アニメーションは16日、2024年3月期決算資料において、アニメ制作工程へのAI技術導入計画を明らかにした。同社は先日にもAI関連企業への出資を決定しており、人気シリーズ「プリキュア」を具体例に挙げ、制作の効率化とクオリティ向上を図る方針を示している。

決算資料によると、同社は「アニメ制作会社最大手」ならではの潤沢なキャッシュフローと豊富なデータ、在籍する人材活用した次世代アニメーション制作技術への投資を加速させていると紹介。図表を用いて実際にどの分野に有用であるかについて紹介していた。

具体的には絵コンテ、色彩/色指定、動画、背景など制作工程の多岐にわたる。絵コンテ工程では「簡易LOのAI生成」や「コンテ撮素材AI生成」、彩色・色指定工程では「AI色指定」や「色パカ(セル画に色を付け間違えたときの現象)のAI自動修正」、動画工程では「動画線AI自動修正」や「動画中割AI生成」、背景工程では「写真からの背景AI生成」などが提示された。

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東映アニメは「生成AIブームの前」からAI活用に積極提携

これらの取り組みの背景に、同社の「プリファードネットワークス(PFN)」への出資などが挙げられる。PFNは独自AIモデルや専用ハードウェアの構築に強みを持つ企業として、先日にも東映アニメーションから出資を受けていた。先述の資料中においても「PFNと合弁企業設立も視野に入れた事業共創」を進めるとしていた。

今回の具体例のなかで最も想像が易い活用法に「背景AI生成」が挙げられる。その名の通り、アニメに用いられる背景イラストを実際の写真をもとに作成するものだが、これは直近に公開された技術ではなく、すでに両社が生成AIブームが起こる前、2021年に開発が発表されていた。

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実験映像作品『URVAN』におけるScenifyを利用した背景美術制作の例(2021年)

当時は「背景写真を自動変換することで美術クリエイターが画像の前処理にかける時間を従来の約6分の1に短縮できた」と紹介しており、今回の資料中にも長崎県佐世保市を舞台にした実験作品「URVAN」での使用例を提示している。

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2021年発表の自動着彩ツールとの提携

また「色彩」工程においても、同じく2021年5月に別のAIプロジェクトへ参画。当時からギークピクチュアズらによる「アニメーション自動着色AI」に学習素材を提供しており、セル画への色付け業務の時間を従来の1/10に短縮し、コストも50%以上削減できるとされていた。

同社アニメーション制作の効率化に取り組んでいるなかで、特に東映アニメーションの作品は通年で放送するものもあり、制作スケジュールが厳しく、制作現場の負担軽減が課題とされている。そうした状況下であるため、国内からは「クリエイターの創造性を損なわずに単純作業を効率化できれば、作品の質向上につながる」との好意的な声も上がっている。

海外では賛否、あくまで「支援」との位置づけに

一方、この取り組みは海外でも注目を集めているものの、批判的な反応が多い。このことを取り上げた海外のSNS投稿には1万いいね、800リポストが付く拡散がみられたものの、リポストを大きく上回る約3000件の「引用リポスト」がつき、AIがアニメーターの仕事を奪うのではないか、アニメーターの創造性が失われるとの懸念を示す意見が多く見受けられた。(18日時点)

同投稿は具体的な活用事例を挙げない状態で拡散されたため、「大部分がAIに取って代わられる」と誤って受け取る発言も少なからずあったほか、同社が、『ドラゴンボール』『ワンピース』など世界的人気を誇る作品も制作することから、今後それらの作品にも影響するのではないか?との懸念も確認されている。

東映アニメーション側も先日のPFN側との発表資料において、クリエイターの「支援」が目的であることを強調。「アニメ製作に尽力するスタッフを力強く支援するための新たな取り組み」として、制作の効率化とクオリティ向上の両立を目指すとしている。

著者 山口雅史(編集部 経済社会)