名作アニメ『おぼっちゃまくん』がインドでブーム→完全新作を制作!現地責任者に聞く反響と背景【特集】

日本で1980年代後半から90年代に人気を博したギャグアニメ「おぼっちゃまくん」が今日、インドで新たなブームを生み出している。2024年にテレビ朝日とソニー・ピクチャーズ・ネットワークス・インディア(SPNI)の共同制作により、インド市場向けの新作エピソードが製作されることが発表され、大きな話題となった。
なぜ今、インドで「おぼっちゃまくん」なのか?背景にはどのような事情があるのだろうか。今回、SPNIキッズ&アニメーション事業責任者であるアンベシュ・ティワリ氏への独占インタビューを実施し、異色プロジェクトの背景を伺った。
インドでヒット、人気の秘密とは?
まず気になるのは、そもそも「おぼっちゃまくん」がインドで注目されているのかという点だ。現在、同作はSPNI運営の有料チャンネル「Sony YAY!※」にて放送中だが、ティワリ氏によると、その人気ぶりは非常に高いものだという。
「おぼっちゃまくんは2021年からインドの若い視聴者に親しまれています。丁寧なローカライズと共感を呼ぶストーリーが鍵でした。私たちはこの作品をなじみのある文化的ニュアンスや現地言語へと慎重に適応させ、インド全国の子どもたちが手軽に楽しめるようにしました」と説明。なお、メインの視聴者ターゲット層は「4~13歳」だといい、この点は日本と大差はない。

そして「おぼっちゃまくん」のようなギャグアニメが国境を越えて受け入れられた理由を問うと、最たる要素として「ユーモア」を挙げた。「ユーモアはインドの視聴者にとって常に大きな魅力であり、特に子どもたちは大げさな表現、言葉遊び、ドタバタなコメディが大好きです。風変わりで大げさなキャラクターが登場する番組は一貫して子どもたちの共感を呼んでおり、『おぼっちゃまくん』はそのような需要に完璧にフィットしています。」「さらに、主人公のキャラクターも大きな魅力です。彼のお茶目な行動と大げさな性格が陽気で愛らしいです。」と語った。
そうした人気を背景に、新作を制作するに至ったといい、その理由に「インドの子どもたちのコンテンツ消費速度はかつてないほど速く、『おぼっちゃまくん』のエピソードをもっと見たいという要望は圧倒的です。」と現地での大きな需要があったことを挙げた。
※Sony YAY!はSPNIが運営する子供向けコンテンツを放送している有料テレビチャンネル。アニメ「おぼっちゃまくん」は、SPNIが保有するSony YAY!にてヒンディー語、タミル語などに翻訳されて放送されている。
流行語大賞にもなった「茶魔語」魅力はインドでも伝わる?
おぼっちゃまくんの特徴的な要素として、主人公が話す「茶魔語」と呼ばれる独特の言葉遣いがある。「すいま千円」「そんなバナナ」「おはヨーグルト」…日本でも流行語になった数々は今でも知られる。しかし、この言葉遊びは「すみません+千円」のように、日本語の語呂に依存する。
南北で言語も変わるほどの多言語社会かつ、宗教も異なるインド現地において、子どもたちにも受け入れられているのだろうか。これにティワリ氏は「もちろんです!」と自信を見せた。
「番組の特徴の一つは独特な『茶魔語』やギャグ表現」として、先述したユーモアの魅力をさらに高めていると伝え「中には直訳できないものもありますが、コメディのエッセンスを損なわないように注意深く脚色しています。 台詞をインドの子供たちにとって自然に感じられるフレーズや表現にローカライズすることで、ユーモアの魅力が損なわれないようにしています。」
実際のこれまでの茶魔語の反響については「子供たちは、おぼっちゃまくんのお茶目な行動が大好きで、独特なキャッチフレーズをすぐに覚えてくれました。」と伝えていた。
そして今回の新作アニメは制作方式も特徴的。本作は脚本などを日本のテレビ朝日が担当し、インド側がアニメーション制作を行うという国際分業の形で進められているが、この体制にはどのような意図があるのだろうか。
インド側では「おぼっちゃまくん」のオリジナルの魅力を保ちつつ、視聴者に共感してもらうバランスを目指す中で「脚本を日本チームに任せるのは自然なことでした。」とティワリ氏は回答。「これによって、番組の本質であるユーモア、奇抜さ、キャラクターの個性が本物であることが保証されます。」
一方、インド側がアニメーション制作を担当することについては「現地の視聴者に向けてより親和性の高い作品に仕上げることができます。」「ビジュアルの表現、絶妙な文化的ディテールを現地で描くことはインドの子供たちにとってより親しみやすくすることに役立っています。」と明かしてくれた。
なお、本作の制作状況(2025年2月取材時)については、全26エピソードすべての制作が完了しているとのことで、放送に向けた準備が整っていることがわかった。
インドにおけるアニメブーム、今後の狙いは
そして本作に限らず、今後のインドにおける日本アニメの展望についても伺うと「ここ数年、インドでは日本アニメへの人気が急上昇しています」と共有し、「Sony YAY!はこの動きの最前線にあり、『NARUTO -ナルト-』やその続編である『NARUTO -ナルト- 疾風伝』などの象徴的なシリーズを配信し、チャンネルでの放送開始以来1000万人以上の視聴者を獲得しました」と言及した。
実際、取材でインド(ニューデリー)に滞在した際、若いインド人と話していると高確率で日本のアニメが話題に上がった。ある小学生集団からは「クレヨンしんちゃん(Shin-chan)ってアってアニメ知ってる? 今度の映画はインドが舞台なんだって」「インドでも8月に公開される予定だよ」と教えてくれた。また、別のインド人(20代女性)からは「Netflixでワンピースの映画(おそらく FILM RED)やハイキュー!!を見てるよ」と教えてくれ、日本アニメが一定の評価を得ていることが実感できた。
これらを踏まえ、最後にインド市場を超えた展開の可能性について伺うと「最初にインド市場のニーズに応えた後、アジアや世界の他の地域にもローカライズしたバージョンでオリジナルコンテンツを提供する計画があります。アニメーションは吹き替えが容易なので、国際展開に適しています。」とすでに前向きな展望を寄せた。(取材協力=ソニー日本法人、インド現地法人)