​おもちゃ屋の折込チラシに感じたときめき…オタクとクリスマス商戦の今昔回想


​おもちゃ屋の折込チラシに感じたときめき…オタクとクリスマス商戦の今昔回想
折込チラシのイメージ

​早いもので2025年も12月。あと1ヵ月ほどで幕を閉じるこの時期、街はクリスマス一色に染まり、独特のワクワクする空気が漂い始める。

​いよいよクリスマス商戦のスタートだ。これはオタクにとっても見逃せないシーズンである。早くも家電量販店では、アニメや特撮関連の玩具セールが始まっているのを見かけた。

​色とりどりのパッケージが並ぶ売り場を眺めながら、ふと、20〜30年前の記憶が蘇る。まだ「町のおもちゃ屋」が元気だった頃の、あのクリスマスの光景だ。

​街のおもちゃ屋が仕掛ける折り込みチラシ

​筆者は成人するまで九州の片隅で過ごした。民放が2局しか映らないほどの僻地だったが、そんな土地にも「おもちゃ屋」はあった。

​インターネットなどない時代、現地のテレビでは放送されていない特撮番組のフィギュアや、見たことのない武器のおもちゃが店頭に並んでいるのを見ては、「なんだこれは!」と仰天したものである。

​そんな田舎の少年がクリスマスシーズンに何よりも楽しみにしていたのが、新聞に折り込まれる「おもちゃ屋のチラシ」だった。

​所狭しと印刷された色とりどりのおもちゃの写真。景気の良い赤色で大きく表示された「特価」の文字。スーパーファミコンのカセットもセール品になっていたが、貧乏だった我が家に本体はなく、そこは無縁の世界だった。

しかし、当時のチラシはまだゲームソフトの専有面積が狭く、ありとあらゆるジャンルのおもちゃが載っていた。その雑多で煌びやかな紙面に、特別な感慨を覚えたものだ。

​「ゴジラ」に捧げた3000円の予算

​当時の筆者にとって、クリスマス商戦は「限られた予算で何を買ってもらうか」を決める一年の総決算でもあった。

こたつに入り、穴が開くほどチラシを眺める。親にねだってもゲンコツを食らわないギリギリのライン――我が家の予算は3,000円だった。

​筆者が小学生の頃は、年末になるとゴジラ映画(VSシリーズ)が公開されるのが恒例だった。そのため、必然的に毎年登場するライバル怪獣のソフビが第一候補となる。

​91年であればメカキングギドラのソフビ。92年はモスラとバトラの幼虫ソフビ、93年には目と口が発光して咆哮音を発するメカゴジラのえらくかっこいいフィギュア、94年には口を開閉させながら前進するギミックを持つスペ一スゴジラの電動トイといった具合。

​今でも鮮明に覚えているこのラインナップ。当時の3,000円という予算内で、これほどギミックの凝ったおもちゃが買えたのは、今思えばすごい時代だったのかもしれない。スペースゴジラの肩の結晶がピカピカ光るギミックには、心底感動したものだ。

​もちろん、悔しい思い出もある。同じ団地に住む友人の家に行けば、戦隊ロボの豪華な合体セットが鎮座していた。「予算の壁」をまざまざと見せつけられ、腰が抜けそうになった驚きと羨望も、今となっては良い思い出である。

絶滅危惧種の“町のおもちゃ屋”

​あれから時が経ち、町のおもちゃ屋だけでなく、チェーン店までもが減少の一途をたどっている。筆者の近所にあった店も、店主が亡くなって駐車場になったり、カードショップへ業態転換したりと、かつての面影はない。

​新聞を取る家庭も減り、あのワクワクした「折込チラシ」を目にする機会もなくなった。今は量販店のウェブサイトやAmazonがその役割を担っている。ペーパーレスで見やすく、検索も便利だが、あの紙特有の手触りと高揚感はそこにはない。

​同級生の友人たちに「子供へのクリスマスプレゼントはどうするの?」と聞いてみた。

​「欲しいものをあらかじめ聞いておいてAmazonで頼む。予算は特に設けてない」「Switch 2を買わされそうになって焦っている」「お金に糸目はつけたくない」

​彼らの言葉を聞き、「僕もあなたたちの家に生まれたかったよ」と苦笑しつつも、親心と時代の変化をしみじみと感じる。

​筆者自身は独身だが、今年の自分へのクリスマスプレゼントは決まっている。最近発売された、出来の良い「怪獣図鑑」だ。おもちゃ屋のチラシを握りしめていたあの頃と同じように、届くのを楽しみに待ちたいと思う。

著者 松本ミゾレ