君は“幻の親子怪獣”を知っているか!日活唯一の特撮『大巨獣ガッパ』が無料配信中 東宝とも違う魅力アリ


君は“幻の親子怪獣”を知っているか!日活唯一の特撮『大巨獣ガッパ』が無料配信中 東宝とも違う魅力アリ

1954年、東宝が日本初の怪獣特撮映画『ゴジラ』を公開した。戦争の記憶も記録も色濃く残る時代であったため、本作は戦争体験者にとってトラウマとなりうる描写も多く、復興への歩みを進めていた当時の日本人に強烈な印象を与えた。

この『ゴジラ』の大ヒットを受け、東宝が定期的にゴジラ映画を制作するようになると、1960年代中頃に最初の怪獣ブームが巻き起こる。そんな中、東宝に追いつけ、東宝を追い抜けとばかりに、複数の制作会社が怪獣映画制作に乗り出すようになった。

以降、1965年大映は『大怪獣ガメラ』を公開し、1967年には松竹が『宇宙大怪獣ギララ』の公開に踏み切る。さらに同年、日活も川地民夫を主演に据えた怪獣映画『大巨獣ガッパ』を公開した。

そして、その『大巨獣ガッパ』が10月2日まで、日活フィルム・アーカイブのYouTubeチャンネルで無料配信されている。

日活がその歴史において怪獣特撮映画を制作したのは、この1作のみ。それだけでもかなり貴重な作品といえるが、実は本作にはなかなか興味深い試みがいくつも導入されている。(※以下、作品に関する内容が含まれます)

我が子に巨大ダコを差し入れ…親子愛の強い大巨獣、ガッパ

ガッパは南海に浮かぶ火山諸島の一つ、オベリスク島に暮らす怪獣である。 卵から孵化したばかりの子供を日本の調査団に連れ去られてしまった親ガッパ2頭は怒りに震え、オベリスク島の集落を壊滅させた後、日本へ向かう。

そんなガッパはカラス天狗のような見た目をしており、翼があるため飛行可能。さらに周囲を海に囲まれた環境で暮らすため、水中での活動もできる、まさに全地形対応型怪獣だ。

テレパシーで子ガッパの行方を探知しているという親ガッパは、まず相模湾から上陸し、そこから熱海を蹂躙する。 一度河口湖に潜伏した後、今度は日光を経由して東京を目指すという、要所要所で観光地を巡るルートになっているのが、この当時の怪獣映画らしさでもある。 まるで一緒に観光している気分になれるのでお得だ。

親ガッパは非常に子煩悩であるため、日本上陸の際、1頭が口に巨大なタコをくわえた状態で出現しているのだが、これは子ガッパに食べさせる食料だという。なぜかそのタコはしっかり茹でて丸くなった状態だが、だからといって野暮なツッコミは不要だろう。 まだ小さい子ガッパには最適な栄養源だ。

とにかく自衛隊の攻撃も意に介さない親ガッパの進撃はとどまることを知らず、子ガッパはついに羽田空港で解放される。 再会を果たした親子ガッパは、3頭仲良く飛び立ち、オベリスク島へ帰るところで物語は終幕となる。

この手の怪獣特撮では親が倒されてしまうことがよくあるのだが、本作はとにかくガッパが非常に強いため、負傷することもない。 つくづく、とんでもない怪獣を怒らせたものである。

実はあらゆる怪獣要素を詰め込んでいる?贅沢なガッパのディテール

日活は『大巨獣ガッパ』を制作するにあたり、ガッパという架空の生物について、かなり細やかな設定を数多く盛り込んでいる。 その全ては残念ながら劇中で説明されることはなかったが、陸・海・空を自由に行き来でき、熱線も吐くという性質は、おそらく仮想ライバルとして東宝怪獣たちを意識しなければ、なかなか設定できないだろう。

ガッパは地球にまだ人類が誕生するよりもずっと前から存在しており、私たち人類が目撃することもなかった多種多様な怪獣と何度も戦ってきたという。 つまりガッパは、かなり古い時代から繁殖を繰り返し、代を重ねて存続してきた生物ということになる。

また、瞼(まぶた)は人間とは逆に下から閉じる構造となっている。これについて理由の説明はないものの、構造自体は鳥類とよく似ている。ガッパには翼もあり嘴もあるため、鳥類の始祖ということなのかもしれない。 なんとも不可解だが、それこそが怪しい獣にふさわしいく、実に個性的だ。

1960年代半ばまでに挙げられていた怪獣らしさを示す数々の要素を、かなり贅沢に盛り込んで完成したのがガッパだったのかもしれない。

実は東宝のスタッフも協力。だから日活初の特撮シーンも妙にハイクオリティだった

怪獣映画というものは、大手であろうと思い立ってすぐに作れるものではない。 まず着ぐるみを用意するのも簡単ではないし、制作できるスタッフも当時はまだ限られていた。セット作りも費用がかかる上、そのセットを構築するには広いスタジオが必要だ。 さらに必須の合成技術も、ノウハウがなければ拙いものになってしまう。

本来であれば日活も、この合成という点でもっと苦戦するはずだった。 ところが『大巨獣ガッパ』の合成カットは非常にクオリティが高く、東宝のそれにも劣らない。 特撮ファンにとってはかなり有名な話だが、これには理由があった。

東宝からゴジラのスタッフもノンクレジットでこっそり参加していたのだ。 キングギドラの引力光線やウルトラマンのスペシウム光線を担当したスタッフもこっそり参加しており、これによってガッパも違和感なく熱線を吐けたわけである。

ただ、肝心の『大巨獣ガッパ』の興行収入は日活が想定していたラインに達しなかったのか、前述の通り日活は本作をもって怪獣映画制作から手を引いている。 今、ガッパのことをよく知る人というのは、よほどの怪獣ファンくらいのものだろう。

せっかくの機会なので「まだガッパの活躍を観たことがない」という方は、この機会にぜひYouTubeで本編をチェックしていただきたい。 現在では描けないようなおおらかな部分もいくつかあるので、新鮮に感じられるはずだ。

著者 松本ミゾレ