【解説】ウルトラマンに“マント”は必要なのか? 描かれた歴史と機能を読み解く
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昔からヒーローを構成する記号として、オーソドックスなものといえば、まずマントが浮かんでくる。
アメリカを代表する国民的英雄スーパーマンはマントを翻し、自在に空を賭ける。バットマンもまた、マントは標準的な装備であり、コウモリを模したデザインは見た目にもインパクトが大きい。ほかにもマントを身にまとう戦士はほかにも国内外に大勢存在し、マントはヒーローを表現する際に欠かせない装具でもある。
このマント、作品によってはヒーローが飛行するために機能しているという設定を持つことが少なくない。しかし日本ではマントを持たずに空を飛ぶ代表的な存在がある。それが円谷プロのウルトラマンだ。
光の巨人、ウルトラマンとマント
ウルトラマンと言えばその体表は衣服なのか、それとも素肌なのかが未だに判然としないキャラクターである。巨大な怪獣を相手に肉弾戦や光波熱線を駆使して戦う巨人であるため、人知の外にいる生命体。衣服の有無が必要かどうかなども不明だったが、少なくとも1966年放映の『ウルトラマン』からしばらくの作品群では、彼らウルトラ戦士が特段、人間のような衣装をまとうことはなかった。
しかし潮目が変わったのは、1973年放映の『ウルトラマンタロウ』からだ。本作の25話における回想シーンで、イラスト挿入という形ではあるがウルトラマンたちがマントを身に着けている姿が登場した。
翌年放映の『ウルトラマンレオ』では、実際にマント付きの着ぐるみとしてウルトラマンキングが登場。これ以降、コミックなどではウルトラ兄弟らがマントを着用する場面が散見されることとなり、2009年に劇場公開された『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』ではとうとうブラザーズマントと呼ばれる装備を、ウルトラ兄弟が着用することとなる。
このウルトラ兄弟用のマントは反響も大きかったようで、今ではソフビや可動フィギュアにも付属する定番アイテムとなっている。マントの色合いもウルトラ兄弟のカラーリングを邪魔しない赤と銀で構成されているので後付けの印象はさほどない。
これとは別にウルトラマンレオ、ウルトラの父、ウルトラの母も別デザインのマントを所有しており、ウルトラマンゼロもパーソナルカラーである青を基調としたデザインのマントを有している。元々ゼロの場合はぼろ布のようなマントを着用していた時期もあったので、キャラ人気もあってか、2パターンのマントを所持している珍しい戦士とも言える。
光の戦士たちのマント。その機能とは?
超常的な能力を有しており、しばしば追加装備を手にしてますます猛威を振るう光の戦士たち。『帰ってきたウルトラマン』では、ウルトラマンジャックがウルトラセブンから万能武器のウルトラブレスレットを授かり、宇宙大怪獣ベムスターを倒したという実績を持つ。
ジャックはブレスレットの扱いに長けていたようで、以降はこれを用いて敵に勝つことも多かった(ただし仇敵、強敵など肝心な相手を下す際にはこれに頼らない)。タロウもまた、ジャックほどではないにせよウルトラの母から受け取ったブレスレットを使って戦うこともあった。
このように、ウルトラ戦士たちというのは、手に入れた装備を割と戦闘にも活用する器用な性質を持っている。…しかしこれがマントとなると、実はあまり戦闘には活用していない。
ブラザーズマントが初めて登場した2009年では、光の国を急襲したウルトラマンベリアルの対応に際してウルトラマン、セブン、ゾフィーがマントを着用した状態で挑んだが、早々に脱ぎ去っている。以降の映像作品でも同様で、マントを着けたまま敵と対峙しても、とにかくすぐ脱ぐ。
そのため、マントを着用した状態ならではの戦い方というのは、現状では見ることはできていない。ただ、初めて着ぐるみでマントを披露したウルトラマンキングの場合、設定上ではマントを様々な武器に変形できるとある。
しかもこのマントは多数ストックがあるとのこと。実際キングは『ウルトラマンレオ』で複数回登場しているが、回によってマントの裏地の色が異なっていることが確認されている。その気になれば、マントを戦いに用いることもできる。
実際、キングはウルトラマンレオにこのマントを1つ与えており、レオはこのマントを敵に被せて視界を奪ったり、攻撃を防ぐために用いるなど、かなり活用している。レオは純粋な光の国出身のウルトラマンではないため、マントの扱い方に関してはM78星雲人とは認識が違うのかも……。
そもそも初めて『ウルトラマンタロウ』の劇中にマントが登場して以降、光の国においてはマントは儀礼用や、内勤の際に着用するものという認識のもとで身に着けている可能性がある。メタ的に言えば、オンオフを切り替えるための演出として機能しているとも取れる。
ウルトラシリーズのマントこそ、あの世界において地球人に伝来した衣装文化なのかも…
もっとも、ウルトラシリーズにおいては、必ずしもウルトラマンたちだけがマントを着用しているわけではない。敵の宇宙人にもマントを着用している者が結構いるのだ。
『エース』に登場するスチール星人の人間体や『レオ』のブラック指令。『オーブ』のメフィラス星人ノストラなどさまざま。そして彼らもまた、戦闘においてマントを活用する描写はなかった。ということは、宇宙人たちはマントをファッション。下手すれば防寒具として用いているという仮説が成り立つ。
当然、マントは人間たちも着用するものだが、これも戦闘のためでなく防寒あるいは見映えのためのもの。
前述した通り、ウルトラ戦士たちがマントを着用する様子が初登場したのは、『タロウ』の時代。そしてこの際のマント着用例は回想シーンとなる。それこそ人類が今の文明を築くより、ずっとずっと昔のことだ。
そうなると、マント文化というものはあの世界においては地球外から持ち込まれたと考えることもできる。……そもそも地球のマントとは、光の国の人々から提供されたか、あるいはその装飾品を模して人類が作ったものではないだろうか。
ウルトラシリーズにおける人類の中には、かつて人々を救ってくれたウルトラマンらしきものを神として奉っていたりする者もする。そういった未知の巨人の庇護が過去にあったとなると、当時の人類と光の巨人が何らかの文化的な接触を持っていったと考えることは、決して飛躍しないはずだ。
であるならば出自不明のキングや、出身が異なるレオのようなL77星雲人と違い、M78星雲人たちがマントに特段の機能を求めず、ただ身に着けるものとして運用していた以上、あの世界においての人類がマントにそれ以上の価値を求めなかったのは、当然なのである。(文/松本ミゾレ)