【解説】アニメ業界の「製作委員会」って一体何?改めて知りたい「特徴」と複雑すぎる「役割」協会が資料公開


アイキャッチ画像

日本のアニメ産業は近年世界的な注目を集め、市場が拡大し続けている一方で、制作現場の待遇をはじめ、構造的な課題も指摘されています。しかし、アニメ業界には複雑な「製作委員会」の存在があるがゆえに、業界外からは実態をイマイチつかみにくい状況でもあります。

そうしたなか、日本動画協会(AJA)は21日、文化庁文化審議会が開く分科会政策小委員会に「アニメビジネスと製作委員会」とよばれる資料を提出。これが「非常に仕組みがわかりやすい」として話題になっています。ここでは資料をもとに製作委員会の大枠を紹介します。

文化審議会著作権分科会政策小委員会(第3回) | 文化庁

AJAは「製作委員会」をアニメ作品の知的財産(IP)ビジネスを展開するため、複数の企業が資金を出資し、役割を分担しながら「収益の最大化を目指す事業スキーム」定義しています。業界の実態にもそうしたものとなっており、日本のアニメ産業の発展を支えてきた仕組みだとも紹介しています。

製作委員会は「資金調達+役割分担」の役割を持つ

製作委員会方式の最大の特徴は、リスクの分散が最大のメリットとされています。これは複数の専門企業が製作資金を出資し合うことで負担を減らすのはもちろんですが、各構成員が「テレビ放送」「パッケージ販売」「配信」「商品化」「海外展開」など専門的な役割を担い合うことで、それぞれの強みを活かした効果的な組織になります。この「資金調達+役割分担」という二重の機能が、国内アニメ産業の特徴的な仕組みとなっています。

一方で、近年は制作本数の増加に伴い「多産多死」の状況が生まれているのも現実であり、これが「ハイリスク・ハイリターンな環境に置かれている」とAJAは指摘しています。現に2024年7月〜9月の新作アニメは64作品を数え、その多くが製作委員会方式で制作されていると紹介。そうした背景から、世間ではしばしば製作委員会はいい印象を持たれないような意見も見受けられます。

ここではその是非は置いておき、どのような流れで組織されるのかをチェックしてみましょう。

アニメ作品の制作は、プロデューサーによる企画の発案から始まります。原作(漫画や小説)の選定やオリジナル企画の開発を経て、アニメ化を目指します。企画を行うのは、映画会社、放送局、広告代理店、出版社、制作会社などで、これらの企業は製作委員会を組成した際の幹事会社となることが多いとされています。

文化審議会著作権分科会政策小委員会(第3回)提出資料より
文化審議会著作権分科会政策小委員会(第3回)提出資料より

制作工程は大きく以下の3つになります。
1. プリプロダクション:企画・プロット、シリーズ構成・脚本、デザイン・設定など
2. プロダクション:原画、動画、彩色、3DCG作業など
3. ポストプロダクション:編集、音響効果、音楽制作など

製作委員会の構成と役割分担

そして、前述した各構成員が担当する、アニメ制作における役割として、主に以下のようなものが挙げられます。

・代表幹事:権利処理、制作管理、原版管理、配分管理、会議招集など全体統括。アニメでよく見る「©表記」にも記載される場合が多い
・宣伝幹事:作品のプロモーション、パブリシティ統括。広告やメディア対応など宣伝周り全般を行う
・放送窓口:地上波、BS・CS、CATVなどへの許諾業務
・配信窓口:各配信事業者への許諾業務
・ビデオグラム化窓口:DVD、Blu-rayなどの映像商品化許諾
・商品化窓口:関連商品の許諾業務
・海外販売窓口:海外展開の許諾業務

文化審議会著作権分科会政策小委員会(第3回)提出資料より
文化審議会著作権分科会政策小委員会(第3回)提出資料より

【その他の構成員】
・ビデオ販売会社
・レコード会社
・配信事業者
・商品・おもちゃ会社
・ゲーム会社
・遊技機メーカーなど

収益構造と配分の仕組み

アニメに関わらずエンタメコンテンツ全般に言えることですが、特に権利関係は複雑です。特に製作委員会となれば、委員会本体を中心に、原作者、出版社、脚本家、音楽関係者、声優、アニメーター、制作会社など、多くの権利者が関与します。

つまり、アニメ作品の放送料やストリーミングの配信料、ライセンス料などあらゆる分野から得られた収益を各権利者に適切に配分する必要があります。AJAの説明では、窓口会社の収入から以下の項目を順次差し引いていく形で行われるとしています。

  • 原作使用料(出版社、原作エージェントへ支払い)
  • 脚本使用料(管理事業者、脚本家本人へ支払い)
  • スタッフ追加報酬(監督など主要スタッフへの追加報酬)
  • 代理店印税・局印税(広告代理店、放送局への支払い)
  • 制作会社印税
  • 窓口手数料(窓口業務の対価)
  • 必要経費(素材制作費、宣材物制作費など)
  • 幹事手数料
  • 宣伝幹事手数料
  • 制作会社成功報酬

これらはあくまで例であり、実際にこの通りに支払が発生するわけではないですが、ここから全て差し引いた残額が、出資比率に応じて各社に配分される仕組みとなっています。

AJAとネトフリで「現状」言及に違いあり

AJAはこの紹介資料にて、従来の収益構造には変化が生じているとも述べています。特に現状認識として、ストリーミング配信プラットフォームの台頭は大きな影響を与えているといい、某グローバル配信事業者では「許諾対価はフラットフィーのみで、作品がヒットしても追加配分がない」ケースを指摘。

国産アニメの市場規模が拡大してきているなかでの「海外から安く買い叩かれる」現状により制作現場への還元が行き届いていないとしています。一方、今回の文化審議会の小委員会では「Netflix」運営も資料を提示しており、こちらでは「制作の待遇改善に寄与している」とプラットフォームとしての役割をアピールしており、両社の認識が異なっている状況でした。

文化審議会著作権分科会政策小委員会(第3回)提出資料より
文化審議会著作権分科会政策小委員会(第3回)提出資料より

また、この資料をめぐり、業界関係者からは一部の言及に不正確な記述があるとの意見も。最終ページに掲載された制作者の平均年収の参考資料として「アニメーターの約11%が年収1,000万円以上」「年収平均455.5万円」と記載されているものの、引用元のアンケート資料には「全体の37.7%がアニメ関係からの仕事が月収20万円以下、つまり年収240万円以下であると回答」「年齢別では20代の13%が月収10万円未満」との言及もあり、実態を十分に反映していないと実施母体の関係者もコメントしていました。

近年、アニメ作品が非常に増え触れる機会が増えるものの、業界内部は上の通り複雑であるがゆえ、なかなか把握しづらい状況です。アニメ制作や製作に興味のある方はもちろん、就職を目指す学生さんなどはぜひとも資料をチェックしてみると良いかもしれません。

市井

著者 市井
オタク総研 媒体統括。専門領域はアニメ、テクノロジー(ガジェット)、プログラミング、コンテンツビジネス