インドネシア市民も「推しの子」を読む!現地書店で見た日本マンガの今 大手提携のカドカワはラノベ展開に期待感
インドネシアは、全人口のうちZ世代が最多数派の「若者の国」である。古今東西、若者が多い国は新しい文化の需要に積極的だ。インドネシアの場合は、日本からもたらされた漫画やアニメに人気が集まっている。現地では「日本製の漫画」という言い回しは二重表現になってしまうほど、「漫画=日本」というイメージが定着しているのだ。
ここではそんな成長著しい同国の日本マンガの「今」を現地と関係者の取材から紹介したい。
インドネシアの最大手書籍チェーン店「Gramedia」
インドネシアを旅行したことある人なら、Gramediaという書籍チェーン店の看板を見たことがあるのではなかろうか。
このGramediaは、日本で言うところのTSUTAYAのような存在である。主に取り扱うのは書籍だが、その他にも文房具やガジェット、楽器、店舗によってはスポーツ用具まで取り扱っている。筆者も含め、本気でインドネシア語を覚えようと思い立った外国人は必ずと言っていいほどGramediaに足を運び、辞書を買い込む。
店内の目立つ位置に宗教書のコーナーがあり、そこではコーランが平積みされている。それと比較すると、キリスト教の新約聖書はひっそりと棚の片隅に置かれている印象だ。インドネシア国民の9割近くはイスラム教徒である。
そんなインドネシア人だが、日本の漫画に対しては多大な可処分所得を割いているようだ。
Gramediaの店内で最も華やかなのは、やはり漫画コーナー。そこにあるのは日本の作品が大半で、ちゃんとインドネシア語に翻訳されている。
インドネシア市民も『推しの子』『呪術廻戦』を読んでいる!
驚くべきは、「今現在人気を集めている作品は日本とインドネシアとで大差ない」という点だ。
20年ほど昔であれば、日本からインドネシアに作品が伝達する速度は「リアルタイム」とは程遠いものだったはずだ。日本で人気を博した作品が、やや遅れてインドネシアに伝搬する。しかし、今は作品のローカライズの速度が飛躍的に向上している。
そのため、現地の若者は日本の若者と同じように『推しの子』の巻数を追っている。ヒーロー戦隊のリーダーと悪の女幹部が付き合う作品が存在することも知っているし、金田一一がもはや少年ではなく中年サラリーマンになっていることも知っている。
そして、negeri Sakura(日本のこと。インドネシアではたびたびそう呼称される)には「ライトノベル」というものが存在し、「なろう系」が人気ジャンルになっていることも常識として心得ている。
今のところ、Gramediaではまだライトノベルが充実しているとは言えない。これには漫画以上に言語ローカライズが大変という事情もあるだろう。
そんななか、インドネシアにおける日本マンガの市場をさらに広げようと、KADOKAWAが今年1月に当のGramediaと現地合弁会社を設立したことを明らかにした。日本の大手出版とインドネシア出版最大手との提携、マンガに限らずライトノベルなどの海外展開にも大きな意味が帯びるはずだ。
ライトノベル市場に「タイにも負けない」期待感…KADOKAWAの担当者に直撃
KADOKAWAの担当者に話を聞くことに。合弁会社設立の狙いについて、担当者は「インドネシアは若年層の割合が高い国です。ACGコンテンツ(アニメ・コミック・ゲームに関するコンテンツ)、特に日本IPの人気が高まっており、このたび新たに同国市場に直接進出することで、当社グループの海外売上高をさらに伸長させてまいります。」と、市場の成長性を強調した。
また、Gramediaの強みを活かした事業展開については「KADOKAWAの持つIP展開力、そしてデジタルプラットフォーム運営ノウハウと、Gramediaの持つ出版インフラとを組み合わせること」による、両社の相乗効果に期待を寄せた。
そして、インドネシア市場におけるライトノベル(ラノベ)の可能性についても聞いてみると「Gramedia傘下の出版社が日本の漫画を翻訳出版して売っていて、インドネシアのNetflixの日本アニメも人気があるため、現地消費者は日本由来コンテンツに対するニーズがあり、漫画だけではなく、まだ数が少ないラノベの成長も期待できる見込みです」と、市場の潜在性を指摘した。
関連作品としてはすでに動き始めているといい、先日には現在TVアニメが放送中、累計発行部数500万分を超えたばかりの『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』の「特装版」を同国で発売している。これについては「タイ市場に負けない注文数を誇り、市場の高さは感じています。」と教えてくれた。
インドネシアでのライトノベルの市場は、KADOKAWAも大きな期待を寄せるほど有望であることが窺える。もはや日本とインドネシアとの間に「流行のタイムロス」は殆どないと考えてもよいかもしれない。
さらに、今後の展望として、現行の日本からインドネシアにとどまらない、現地のクリエイターの作品も取り扱う可能性にも問うてみると「(現時点では)日本からインドネシアに、コミックとライトノベルの翻訳出版だけですが、今後日本以外の作品や現地クリエイターの作品の出版は今後検討をしてまいります」と展望に含みを見せた。
これは今までとは逆にインドネシアから日本にラノベ作品が輸出される大きなきっかけにもなるかもしれない。日本のライトノベルに影響されたインドネシアの作家が新しい作品を作り、それが日本にもたらされ日本人作家に多大な影響を与え……という循環の可能性も十分にあり得るだろう。
(文:澤田真一/静岡県在住。経済メディア、IT系メディア、ゲームメディア等で記事を執筆。東南アジア諸国のビジネス、文化に関する情報を頻繁に配信。)