〈コラム〉クレカ会社はクリエイターの表現を掌握する”黒幕”か?―FANBOXの「審査協力」発表が話題
ファンコミュニケーションプラットホームのPixiv FANBOXが15日に発表した「お知らせ」がクリエイターを中心に話題になっている。
FANBOXが公開停止処置への新たな対応を通知
話題となったのはPixiv FANBOX(以降「FANBOX」)公式が発表した「一部投稿の再公開時における審査協力のお願い」という発表。発表は〈これまでFANBOXではサービス内で定められた利用規約やガイドラインに違反する投稿を公開停止処置を行っていたが、今後はそれらの投稿に対し「再公開できるよう求めること」が可能になる〉という旨の内容。
これにより、一度公開停止判定となった投稿でも投稿主が各種情報や表現の修正を行い事務局側が「問題ない」と判断(審査)されれば、再公開が可能になる。発表ではこの機能を実装した経緯として、「修正した内容が基準を満たしているか分からない」「また修正を求められないか不安で、投稿を再公開できない」というクリエイターの声が多く見受けられたことにあるという。
今回話題の的となったFANBOXの公開停止処置だが、これは運営元であるピクシブ株式会社が昨年12月に実施したサービス共通利用規約の改定に伴い実施がはじまった。本規約改定は〈クレジットカード会社や決済代行事業者の規約に反するコンテンツのチェックを強化する〉という目的によるもので、SNSからはこの一連の流れは「クレジットカード業者や決済事業者が黒幕なのだろうか?」などと危ぶむ声が見られた。
また、先程の発表では経緯の説明に続けて審査基準に関する記述もなされており、こちらは〈審査基準については、クレジットカード会社や決済代行事業者の規約変更や要請に合わせ、日々見直しを行っている。〉と現状を述べ、〈ガイドラインに記載している以上の具体的な審査基準については回答を行っていない〉と説明した。
タイトルに”殺人事件”でアウト?参議院でも議論
前項のように「決済事業者」と「表現規制」を巡ってはこれまでにも幾度となく話題として挙がっている。2021年2月には表現規制対策に取り組む参議院議員・山田太郎氏が〈特定のワードが商品表題に含まれる場合に取り扱いが出来なくなる、という通知が決済事業者から複数の出版社に通知された〉という旨を投稿。
2021年2月より新たに大手クレカ会社から複数出版社に対して商品表題に特定の表現がある場合扱えなくなる旨通知が。「○○殺人事件」等のマンガや小説も引っ掛かると相談が関係者から多数。表現の自由とカード決済会社を含むプラットフォーマーの在り方について関係府省、また党内で検討を続けています
— 山田太郎 ⋈(参議院議員・全国比例) (@yamadataro43) February 21, 2021
山田氏のこの発言や各種媒体からの報道により、本件は大きく拡散され、本年以降は参議院内閣委員会を中心に立法府においても積極的な議論が進んでいる。
そして時は戻り、2022年7月には合同会社DMM.comが自社の運営サービスにおいて利用可能なクレカ決済のうち「MasterCard」の対応を終了することを発表した。対応終了の理由については契約義務の都合上明らかにしてはいないものの、成人向けサービス「FANZA」と何らかの関係があるのではないか、との言説が散見されていた。
※編注:FANZAは合同会社DMM.comから2018年に分社した株式会社デジタルコマースによる運営サービスだが、旧名が「DMM R18」だったりURLが「dmm.co.jp」だったり、イメージとして定着していたりといった現状もある
そして、昨年末より続くFANBOX等での公開停止処置の件へも波及しているという流れだ。
今回のFANBOXの件で前項で紹介した発表にて「このようなコンテンツを放置し続けることは、FANBOXにおける主要な決済手段が利用停止となる可能性を含んでいる」「決済手段が利用停止となった場合、クリエイターや支援者の皆さまにも多大なる不利益を与えてしまうことにつながる。」「サービスの継続も困難になるため、そのような事態は避けなければなりません。」とコメントし、苦境に立たされていることが伺えた。
また、決済事業者側の視点で見てみると「自社のブランドイメージを守るために不適切と判断したコンテンツを扱う加盟店と取引を停止すること」は企業活動の一環として主張されることも容易で、コンテンツ産業の振興と切っても切れない「表現規制」と「決済事業者」は特に根深い問題になっている。
脱・クレカ植民地に”トークン”
そして、この現状に対応すべく、「新たな決済手段の提案」というアプローチで手を打ち始めている日本企業も。
イラストコミッションサービス「Skeb」の運営会社である株式会社スケブは2022年に新たな決済手段としてユーティリティトークン「Skeb Coin」の提供を開始した。この動きは決済事業者や通信事業者等海外プラットフォーマーに決済手段を依存している現状から打開すべく始まったものだといい、株式会社スケブベンチャーズ・暗号資産交換所「Zaif」を運営する株式会社カイカエクスチェンジとの3社共同での覚書締結のもと推進している。
※編注:Skebでは現在も通常通りクレジットカード等での取り扱いが可能で、日本円での受取りになるため税務上の煩雑な処理は不必要となっている
こうした非中央集権的かつ海外に依存しないような決済手段の確保は表現規制分野においても重要視されるべきトピックの一つとして挙げられる。
Source:一部投稿の再公開時における審査協力のお願い|pixivFANBOX公式|pixivFANBOX
Source:DMM.comクレジットカードお問い合わせ
Source:skeb_jp – Medium
(担当:寺田,編集:編集部 市井)