【特集】アニメ『わたなれ』の魅力を大解剖!制作陣に訊く、百合の枠を超えた”ガールズラブコメ”の舞台裏
2025年夏クールに放送されたTVアニメ『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(以下、『わたなれ』)。ぼっちの“陰キャ”を脱するために高校デビューした主人公・甘織れな子が、学園のスター・王塚真唯と出会うところから始まる“ノンストップガールズラブコメ”として注目を集めた。
テレビ放送後には劇場での続編先行上映が発表。11月21日(金)から全国の劇場で公開が始まる本作について、監督・内沼菜摘さん、プロデューサー・石田麻菜美さんにインタビューを実施。制作の舞台裏に迫る。
制作の始まりは「この原作、監督に合っているな」から
――皆さんが『わたなれ』のアニメ化と出会った経緯や、原作を初めて読んだ際の印象について教えてください。
石田P:経緯としては、集英社DeNAプロジェクツ(SDP)さんからアニメ化企画のお話をいただき、その際に提案されたのがこの『わたなれ』でした。企画書を拝見し、原作を読ませていただいたときに、「これは内沼さんに合っているな」と直感しました。きっと面白く作ってくれるだろう、と思いお願いしました。
内沼監督:お話をいただいてから初めて原作を読んだのですが、最初は直球の「百合」作品なのかな?という印象でした。しかし読み進めていくうちに、むしろラブコメの「コメディ」要素が非常に強い作品だと感じたんです。それだけではなく、人間が誰もが持つ感情の細かいところ、誰も拾っていなかったような部分を嫌味なく拾っていて純粋に物語として面白く、「これはぜひやらせてください!」と強く思ったことを覚えています。
――原作ファンの方からは、集英社さんとDeNAさんの合弁である「集英社DeNAプロジェクツ」がプロデュースしている点にも期待が寄せられていました。
宣伝P・長野祐子(集英社DeNAプロジェクツ):本作の原作は集英社ダッシュエックス文庫から刊行されている作品です。弊社の担当プロデューサーが『わたなれ』のアニメ化を企画し、スタジオマザーさんとともに集英社様へご提案したことをきっかけに、実現に向けて動き出しました。
――なるほど。では、制作スタジオにスタジオマザーさんを選んだ決め手などは製作関係者からお伺いしましたか?
石田P:推測ではあるのですが、弊社が以前制作した作品が決め手になったのではないかと思っています。男性向けのラブコメでしたので、作風が近いものとして『わたなれ』も上手く作れるだろうと期待して提案していただけたのかなと。実際、脚本も同じ方(荒川稔久さん)なので、作品の持つ面白さをしっかりと繋げていけたのかなと感じています。
アニメ展開の軸にもなった、原作者の想いとは?
――アニメ化にあたり、原作者・みかみてれん先生とはどのようなお話をされましたか?「ここは大切にして欲しい」など、共有された点はありましたか。
内沼監督:最初に儀礼的な顔合わせがあったのですが、そこでみかみ先生がおっしゃっていた言葉が非常に印象に残っています。
先生ご自身も百合が大好きだからこそ、「アニメ化に際して、百合ファンはもちろんのこと、より多くの人に見てもらえるようにして、百合というジャンル自体を盛り上げていきたい」という想いがあったそうで。その言葉が、私が原作を読んだ時に感じた「百合ファンではない自分でも“読みやすい”面白さ」に繋がったのではないかと思ってましたね。
石田P:みかみ先生の名付けた「ガールズラブコメ」というテーマを大切にしながら制作を進めていましたね。
――そのテーマは、テレビ放送を終えた今、多くのファンに届いたという実感はありますか?
内沼監督:X(旧Twitter)などを見ていても、普段あまり百合作品を観ない方々にも楽しんでいただけているなという実感はあります。私の周りでも、最初は「ジャンル的に観ないかも」と言っていた友人が、「とりあえず観てみたら、面白くて全部観ちゃった」と言ってくれることが多くて。先生の想いを制作の指針にできたことは、本当に良かったと感じています。
――実際、放送後に公表された外部の注目度調査でも上位にランクインするなど、新規層と原作ファンの双方から大きな反響があったかと思います。
石田P:アニメ化を発表した段階ってほとんどは原作ファンの皆さんが反応していただいたと思うのですが、もうその時点で熱量はすごいなと感じていました。そして放送が始まると、その熱がちゃんと新しい層へと広がっていく感覚がありましたね。
内沼監督:放送中、原作ファンの方々がXなどで「この作品はこう楽しむと面白いんだよ!」という雰囲気を作ってくださったと感じていて、それが本当にありがたいなと思っています。そのおかげで、アニメから入った視聴者の方もスムーズに作品の輪に入ることができたのだと思います。
原作のテンポと膨大なセリフ量を、映像でどう表現したか
――原作の持つ独特のテンポ感や面白さを、アニメーションとしてどのように表現しようと試みられましたか?
内沼監督:今回、原作はライトノベルで、地の文、つまりセリフ以外の部分が多く、その大部分が主人公・れな子の心の声になります。アニメ化にあたっては、みかみ先生のワードセンスと、キャラ同士の掛け合いが本当に面白かったので、その情報量の多さや読み応えを、そのまま映像のテンポ感として表現することを意識しました。
その結果、あのような膨大なセリフ量とスピード感になっています。最近は1.2倍速で視聴する方も多いと聞きますが、この作品ではさせないぞ!というくらいの気持ちで(笑)。
長野宣伝P(集英社DeNAプロジェクツ):実は一度、れな子のセリフ量を数えてみたことがあるんです。通常のアニメだと各キャラ100ワードずつくらいに収まることが多いのですが、ある回ではれな子一人で200ワードを超えていて、全17話(※劇場版含む)だと約2500ワードに達していました。アドリブを含まず、台本だけでこの量です。
ちなみに真唯と紫陽花も全話合計で約700〜800ワードありました。(※編注:ワード数は大まかな指標となります)
――れな子だけでですか!?
石田P: 原作をぎゅっと凝縮しなきゃいけないって思いつつも、原作の面白いワードを可能な限り残したくて。打ち合わせでは毎回「話の流れ的には削る対象だけど、このセリフは削りたくない…!」という葛藤がありましたね。
――本作はアニメ化と並行して、むっしゅ先生によるコミカライズも展開されています。物語進行も足並み揃うペースだったと思いますが、漫画からインスピレーションを受けた部分はありましたか?
内沼監督:アニメ化にあたっては、もちろんライトノベルを原作にする方針でしたが、むっしゅ先生のコミカライズも本当に素晴らしくて。特にギャグの表現やデフォルメされた表情などは、かなり参考にさせていただきました。
原作者のみかみ先生からも「感情の表情への落とし込みは漫画が上手く表現してくれているので、迷ったら参考にするといいかもしれません」とアドバイスをいただいたほどです。
――原作イラストの竹嶋えく先生の絵と、コミカライズの絵はどのように参考にされたのでしょうか。
内沼監督:全体のベースは竹嶋先生のデザインを参考にしています。竹嶋先生の描かれる挿絵は、物語の決めとなる美しいシーンが多いので、そういった場面の表現も参考にさせていただきました。一方で、面白い方の「崩し顔」やデフォルメは漫画版から。そして、可愛い方向のデフォルメは竹嶋先生のイラストから…という形で両方の良いところを参考にしています。
――れな子に限った話ですと、高校入学前の描写についても原作を参考にした形になるのでしょうか。
内沼監督:れな子の中学生時代の姿を描く際は、竹嶋先生がXに投稿されていた落書きイラストをベースにしています。これに加えて、むっしゅ先生のコミカライズでの描写も参考にさせていただいた形になります。
当時は原作7巻(表紙が中学生時代のれな子)も刊行されていなかったので、竹嶋先生が落書きイラストを上げてくださっていて助かりました(笑)
石田P:原作にないものでも、作品にまつわるものは全部目を通して、活かせそうなものはすべて参考にさせていただきました。
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