【解説】まもなく生誕60周年!改めて考える、なぜ「バルタン星人」は美しいか【ウルトラマン】

1966年7月17日の19時から、TBS系列にてカラー特撮番組『ウルトラマン』がスタートした。今から59年前のことである。
本作ではさまざまな怪獣、宇宙人が登場し前身番組である『ウルトラQ』以上に濃密な怪獣特撮が毎週展開されることとなる。そしてウルトラ怪獣の中でも、恐らくもっとも知名度が高い存在が、7月24日放送の第2話「侵略者を撃て」に登場する。これが宇宙忍者バルタン星人である。
V字の頭に丸い目玉。真偽不明ながら『ウルトラQ』のセミ人間の造形物を改造して作ったと言われる生物的な着ぐるみに、巨大で無機質にも感じる両腕のハサミ。
下半身はスラリとし、足袋のような靴を履いているので、全身のコーデは実はめちゃくちゃ。ところが全体を見ると、なんともかっこいい……いや、むしろ美しい。それが初代バルタン星人なのである。
筆者は物心ついた時から、VHSで何度も「侵略者を撃て」を観てきた。
多分セリフも大概暗記している。それほどまでに観返してきた理由はただ一点。バルタン星人が、あまりに魅力的だったためだ。
デザイン画とはまた違う造形が魂を吹き込んだバルタン星人
バルタン星人に関しては、コスト削減のため、その頭部造形物はセミ人間を流用する形で準備されたという説が存在している。
これに先んじて、デザイナーの成田亨は全身のデザイン画を準備している。
しかし、デザイン画のバルタンと比較すると着ぐるみの頭部はややサイズが大きく、結果的にボリュームのあるものになった。
だが、ここがいい。頭部は少々大きめであるため、劇中やスチールを見ると、頭が少し俯いて見えるカットが多く、ここに妙な神秘性が生じている。
本編撮影後のものとされる有名なパレードの写真では、着ぐるみの頭部が今にもずり落ちそうになっているものも現存しているので、安定性は万全ではなかったようだ。
頭部のV字状パーツもよく確認すると左右非対称であり、顔自体のバランスもやはりアシンメトリー。ほんの少し崩れているが、これがまるで本当の生物のように見えるし、角度を少し変えるだけで異なる印象をもたらす。
機電と呼ばれる発光、可動ギミックも素晴らしい。のちのバルタンではオミットされがちだが、初期のバルタン星人は目玉がぐるぐると回転しながら左右に揺れる機能が搭載されており、映像で確認するとやはりとんでもなくリアルに生物感をもたらすのだ。
デザイン画と実際の初代バルタン星人とではかなり印象が違っているが、のちに本編に再登場するバルタン星人にあわせ、造形担当の高山良策はデザイン画を踏襲した着ぐるみを一から作り起こしている。
それがバルタン星人二代目、三代目として利用されたものである。デザイン画と瓜二つの仕上がりになっており、こちらもこちらでファンも多い。
ちなみに筆者も初代と同じか、ひょっとするとそれ以上に二代目スーツが好きだったりする。
…ところでバルタン星人と言えば、その笑い声も有名だ。
バルタンをバルタンたらしめる「フォフォフォ」も見事!
「フォッフォッフォ…」や「フォフォフォフォフォフォ~」など実はバリエーションもいくつか存在し、シーンによって使い分けている。
この声の元になった素材は1963年に公開された映画『マタンゴ』で、第三の生物マタンゴの鳴き声として用意されたもの。これが『ウルトラQ』ではケムール人に使用され、『ウルトラマン』でバルタン星人に引用されている。
ウルトラシリーズでは割と怪獣の鳴き声の使い回しがしばしば見られるが、この『フォフォフォ』はあまりにバルタンに合致し過ぎたので、以降は1974年に放映された『ウルトラマンレオ』登場のフリップ星人ぐらいにしか流用されていない。
元々は別の怪物の声素材だったものが、まさにバルタンにぴったり当てはまっていたことで、独特の怪奇性をより強調する形になったのである。
ちなみにフリップ星人はバルタン星人のように分身を得意としており、種族として近しいのではないか?という説もあるそう。
バルタン星人こそ、ウルトラ怪獣随一の美しい傑作宇宙人だ!
初代バルタン星人は、今も謎の多い存在である。劇中では夜間のシーンが多いために全身の塗装パターンがなかなか捉え切れておらず、特に巨大化し、飛行シーンに移行してからは胴体に明確な蛍光色の塗装が追加されているが、これについては公式から一切言及がない。
この追加塗装を経た後の鮮明なスチールは筆者も見たことがない。現存するかどうか分からないが、もしあるのなら、ぜひ見てみたい。
また、当時の着ぐるみは劣化が早かったため、この初代バルタン星人の完璧な造形も、かなり早い段階で崩れてしまったようだ。
本編終了後に撮影された写真では、全身皺だらけになって、ハサミも撮影中に破損した部位が雑に修繕されていたりもする。美人薄命、みたいなものか。セミも薄命だし。
とかく、その造形の美しさはもちろん、暗闇の中で頭の重さから来るうつむき具合、姿勢による異質な宇宙人感も格別なのが初代バルタン星人。
諸々の偶然が相まって完成した存在であるため、これをスーツやフィギュアで再現しようと思ってもなかなか真似が難しいようだ。
かなり高額なフィギュアやガレージキットでも、だいぶ長い間「似てるけどどこか違う」という印象の造形物が数多発売されてきた。
フィギュアに関しては近年、劇中そっくりの造形のものも見受けられるようになったが、着ぐるみに関しては初代を再現しようにも素材が昔とは違うのか、どうにもかっちり出来過ぎて初代の幽玄さ、儚さが未だに再現できていない。
既に現物が失われて久しい美しい造形物を、写真を参考に再現するというのは、本当に難しいことのようだ。