悟空の体を作ったのは駿河湾の幸だった?ドラゴンボールと静岡、意外な“食卓繋がり”とは

ドラゴンボールは、世界中の誰しもが知っているであろうビッグタイトルである。
80年代から90年代にかけて放送されていたアニメは、2025年の今でも各国で再放送され続けている。世代にもよるが、悟空や悟飯やクリリンの顔を見て「誰それ?」と首を捻る人は少数派ではないか。
どの国でもドラゴンボールとドラえもんは事前に見込んだ通の視聴率を確実に得ることができるキラーコンテンツになるほどまでに成長している。だが、どんな番組もスポンサーがいなければ放送できない。
ドラゴンボールの場合も、日本での一次放送の際には複数の企業スポンサーが存在した。その中の1社、静岡県静岡市に本社を置くはごろもフーズは今もドラゴンボールと親密な関係を維持している。はごろもフーズがなければ、もしかしたらドラゴンボールの飛躍はなかったのではないか……と思えてしまうほどだ。
ドラゴンボールと食卓の繋がり
1989年から1996年までの『ドラゴンボールZ』の放送をリアルタイムで観ていたファンのなかには「水面に滴が落ちて波が冠状に広がるCM」を記憶している方も多いのではなかろうか。
『ポポロサラスパ』や『シャキッとコーン』などの商品のCMが毎回のように差し込まれ、特に『シャキッとコーン』のCMは今も語り草になるほどのインパクトを持っていた。ほして『シーチキン』のCMもここで放送されていた。「シーチキン」ははごろもフーズの登録商標だが、CMの影響もありシーチキンはツナ缶を指す普通名詞となっていった。
ドラゴンボールとはごろもフーズ、というより食品メーカーとの相性は抜群と言ってもいいだろう。この番組をスポンサードしていた食品メーカーは、他にもグリコやエスビー食品、ケロッグといった企業が名を連ねている。番組自体が食品メーカーに支えられていたことは間違いない。

孫悟空は、惑星ベジータ生まれのサイヤ人で驚異的な戦闘力を持つということ以外は「普通の人間」である。戦うのは好きだが、それはあくまでも武道としての感覚であって相手を殺すことには否定的だ。
そして、悟空も食事をしなければ腹が減り、元気がなくなる。この世界には仙豆という便利な食品もあるが、悟空が普段食べているのは米や肉、魚……つまり霊長目ヒト科ヒト族ホモ・サピエンスにとっての「普通の食事」である。
悟空は何も食べなくても何日でも戦えるようなサイボーグではない。繰り返すが、彼は戦闘力以外は「標準的な人間」だ。
「悟空の肉体を作っているのは良質の食事」ということを、アニメは極めて自然な流れで描写している。それを目撃したテレビの前の子供たちは、悟空の強さに憧れながらテーブルに並べられた食事をしっかりと食べるようになる。このあたりも至って自然な流れだった。ドラゴンボールとその続編のドラゴンボールZの放送時間は毎週水曜19時~19時30分。はごろもフーズのCMが流れるのは、まさに夕食時か食後間もない頃合いである。
ドラゴンボールとは、「食卓を囲みながら視聴する番組」だった。
日本の食料庫・駿河湾
その上で、静岡市の食品メーカーがスポンサーとしてドラゴンボールを支え続けた意義についても触れるべきだろう。静岡市から望む駿河湾は、水深が2,500mにも及ぶ極めて珍しい海域でもある。
「世界一深い海溝」ということであればマリアナ海溝があるが、駿河湾海溝の場合はその名の通り湾の中にある。生物多様性に満ちた駿河湾の恵みは、沿岸地域に数多くの食品メーカーを作った。はごろもフーズもそのひとつである。
駿河湾の海の幸は、全国の子供たちの胃袋を支えるだけのキャパシティーを持っている。それだけでなく、みんなが青年期の悟空のようになれるだけの栄養を供給することができる。はごろもフーズはドラゴンボールという歴史的テレビ番組を通して、「日本の食料庫・駿河湾」の価値を全国に示したのだった。
「蜜月関係」は今も
ドラゴンボールに話を戻すと、はごろもフーズは今年3月から新作アニメ『ドラゴンボールDAIMA』とのコラボレーション企画を実施しており、以前弊誌でも全種類の缶デザインを実写で紹介させていただいた。
全28種類のオリジナルデザイン缶を発売し、さらに『シーチキン×ドラゴンボールDAIMA オリジナルグッズプレゼント! キャンペーン』と銘打ったプレゼント企画も展開。はごろもフーズとドラゴンボールの友情は、2025年の今も変わらず続いているのだ。
しかし、この蜜月関係に当の静岡市民はあまり関心を向けていないようにも思える。
「静岡県はアニメ不毛の地」というのは多少の誇張と偏見が含まれている見方だが、一方で「アニメが産業振興に大きく寄与する」ということに県中部の住民が気付いたのはほんの最近の出来事。その証拠に、ドラゴンボールと静岡市内の企業を結びつけてPR展開するような企画は今まで殆ど行われてこなかった。
それでも悟空は、今に至るまで駿河湾の恵みから力を得ている。静岡市民、そして静岡県民にとってはこれ以上ない福音と言えるだろう。
©ABC-A・バード・スタジオ・集英社・石森プロ・東映・東映アニメーション