【週末無料】こんな時代だからこそを観てほしい!勧善懲悪特撮『大魔神』の魅力とは

悪いことをすると罰が当たる――昔はこう言い聞かされて育ったもので、子供の頃に読んだ絵本や漫画、テレビでやってるアニメでも“勧善懲悪”は割とお馴染みのテーマ性だ。
勧善懲悪だけが正しい物の見方と言いたいわけではないが、いつからかこの世は善良な人が報われず、悪人やズルい奴ばかりが私腹を肥やす時代になった。自分の欲望のためなら、見ず知らずの家に上がり込んで強盗殺人を行う者も、これを指図する者も増えて後者はほとんど野放しに近い。
そんな時代であるからなおさら、悪い奴が非道の限りを尽くしてヘイトを高めて、最後の最後で報いを受けるという勧善懲悪的構図は大きなカタルシスを見る者にもたらす。
筆者は映画の悪役や怪獣、悪い宇宙人が好きだが、根底にはデザイン性や悪質な個性の魅力よりも、そういった邪悪が最後には自分のやってきたことのしっぺ返しで倒れるという様式美が好きだったりする。悪は最終的に善性を持つ者達の前に滅び去るからこそ魅力が際立つのだ。
そういった意味でも大好きなのが、かつて存在した映画会社の大映が送り出していた『大魔神』シリーズ。この度、5月4日から11日の18時59分までYouTube上の「角川シネマコレクション」にてシリーズ作品の無料公開が行われている。ここでは週末に観たくなるポイントをご紹介したい。
怒りに燃える復讐の荒神。それが大魔神だ!
大魔神は1966年に劇場公開された映画シリーズで、全3作品からなる。いずれも戦国時代頃を舞台とし、善政を敷く良き主君が収める土地を狙った強欲な侵略者が襲撃するところからはじまり、横暴の限りを尽くすが最終的にはその土地に古くから奉られていた神像によって破滅に追いやられる…という構図になる。
その神像こそが大魔神。普段は武人埴輪のような造形と顔立ちをした5メートル近い神像だが、これが憤怒の形相に変化すると自律して動きだし、どこまでも悪人を追い詰める。しかも無敵だ。
侵略された土地の者達の祈りによって神像は命を宿して暴れ回るが、ことによっては無辜の民をも巻き込んで暴れるなど、性質的には荒神に近い。その正式名称は阿羅羯磨(アラカツマ)。名前の響き的にも、荒神の要素が組み込まれていることがうかがい知れる。
大魔神は一度動き出すと恐ろしい破壊をもたらすが、その怒りがおさまると元の埴輪像のような表情に戻り、直後に風化して消え去るという特徴を持つ。
これで実体としては消滅する形となるが魂は不滅で、その後も土地の人々を見守り続けるとされる。何とも日本的な、ロマンのある存在だ。
そんな『大魔神』が今週末まで期間限定でYouTube配信されている。
シリーズ2作目『大魔神怒る』が配信中!未見の方は是非!
今回配信されている『大魔神怒る』はシリーズ2作目ではあるが、元々『大魔神』シリーズは話に連続性がなく、それぞれ独立した作りなので、シリーズ未見であっても、ここから観賞して一切問題なし。
今から何十年も前の作品だからと侮ってはいけない。ブルースクリーン合成は今の目で見ても精密だし、セットも素晴らしい作り込みとなっている。特に『十戒』をモチーフにしたという、湖が割れて大魔神がその間を歩くシーンは圧巻だ。
大映映画では常連だった俳優の橋本力演じる大魔神の眼力も抜群で、カメラワークもとかくこの眼の撮り方にこだわりを見せている。
平和な集落と、それを治める善君を襲った侵略者一党の悪質ぶりは観ていて腹が立つこと間違いなく、彼らが大魔神からその報復を受ける特撮シーンは迫力もあるが、それ以前に神の怒りを徹底的に描写しており、誰が見ても恐ろしく感じられる作りになっている。
その上で侵略を受けた集落の姫君の献身的な願いを聞き届ける大魔神の慈悲深さや、物語のラストに湖の底から響く平和を願う鐘の音の余韻など、一つの映像作品としての完成度もかなり高い。せっかくなのでこの機会にぜひ視聴していただきたい。
ちなみにAmazonプライム・ビデオと「KADOKAWAチャンネル」を契約すれば、シリーズ全3作をいつでも視聴可能。
「全部観ておきたい」という方にはそちらもオススメだ。『大魔神』シリーズはそれぞれ物語が独立しているが、いずれも似たような神像をあがめているという共通項がある。
実在する神々と同じく、阿羅羯磨も各地で信仰の対象となっていたのだろう。
昔から存在する神仏を奉るという風習は今となっては風前の灯で、私たちの身の回りには打ち捨てられた寺社や、もう誰も見向きもしなくなった地蔵菩薩が山ほどある。
本シリーズはそういったものを見る目を変えてしまうぐらいの妙な魅力をも有している。
「名前は知ってるけど、『大魔神』はよく知らないんだよね」という貴方。ちょっとこの機会に、大魔神に触れてみてはいかがだろうか!