Xでバズ連発、ラジオMC…今注目の同人声優に訊く「同人音声」の世界と魅力【特集】


アイキャッチ画像

突然ですが「同人音声」とはご存知でしょうか。同人音声は一般に、個人や小規模なグループ(同人サークル)が制作・販売する音声作品のことを指し、DLsiteなどの販売プラットフォームで非常に多数の作品が存在します。

ボイスドラマなどは全年齢向けから成人向けまで以前から人気を博しているほか、近年では「ASMR」と呼ばれるバイノーラル録音を用いた作品がYouTubeなどマルチメディアで盛り上がりを見せています。価格も手頃なものが多く、多彩なジャンルが存在し手軽に楽しめる点も魅力です。

今回はそんな同人音声作品を2010年前半から手掛けている「山田じぇみ子」さんにインタビュー。最近はXで動画が月に何度もバズりネットニュースにたびたび取り上げられ、いわゆる「メスガキボイス」で人気のじぇみ子さんに同人音声”ならでは”の魅力や自身の活動について聞きました。

山田じぇみこさん(都内2月撮影)
山田じぇみこさん(都内2月撮影)

とにかく録るのが好き。同人声優を目指した経緯は?

――同人音声という世界を知り、入ったキッカケを教えていただけますか?

始めたのは2011年11月頃だったと思います。インターネットを見ていて、たまたま同人音声作品に関わる声優さんのホームページにアクセスしたのがきっかけです。その方の声がとても素敵で、「こんなふうになりたい」と思ったのが始まりでした。それまで同人といえば同人誌のイメージしかなかったのですが、そこで初めて同人音声というジャンルを知りました。それが、今日まで続くきっかけでしたね。

――活動を始めるまでの準備期間はどれくらいでしたか?

あまり長くはなかったと思います。私は思い立ったらすぐ行動するタイプなので、「やってみたい!」と思ったらすぐにマイクを購入しました。多少の下調べはしましたが、それほど時間をかけずに始めたと思います。

――当時、同人音声の活動はどのような形で行われていましたか?

2011年当時は、ブログを使って活動している方が多かったですね。その頃は「ケロログ」という音声をアップロードできるブログサービスがあって、私もそこでブログを作りました。また、「萌えボイス」という仲介サイトがあり、そこに登録して仕事を受けたり、個人のブログ経由で直接依頼を受けることもありました。

――同人音声を知った当時、始めた当時はニコニコ動画がかなり最盛期に近い頃だと思いますが、動画投稿などは行っていたのでしょうか?

私は当時からあまりYouTubeやニコニコ動画を活用していませんでした。今でも深い知識はありませんが、「へえ、こういうのが流行ってるんだな」と思いながら見ている感じですね。

――では仕事がメインだったと。受けていた仕事のジャンルにはどのような傾向がありましたか?

「萌えボイス」では、同人作品を制作するサークルからの依頼だけでなく、個人からの依頼も多かったですね。「こういうシチュエーションの音声を録ってほしい」といったリクエストをいただくことがよくありました。

「自分をどう売り込むか」が重要な世界…商業声優とは異なる点とは?

――やはり同人声優さんは世間が想像する声優さんの仕事とはイメージが異なるかもしれません。声優としての活動の違いはどのような点にあると思いますか?

一番の違いは、事務所に所属していない人が多いことです。フリーランスとして自分で仕事を選び、自分で営業をしなければならない。一方で、スタジオには行かず、自宅で録音して納品する形(宅録)が可能なこともあり、地方に住んでいても活動ができるのも大きな特徴だと思います。

――宅録もあるということですが、こちらも商業の声優と求められるスキルも変わってきたのでしょうか?

そうですね。マイクの選定や録音技術はもちろんですが、それ以上に「自分をどう売り込むか」が重要になっていると思います。事務所に所属していればマネージャーが仕事を取ってきてくれますが、フリーランスではそうはいきません。自己プロデュースの力が求められる業界だと思います。

0329-rfakprc8

――最近はASMRが広く浸透しているように思えますが実感としてはいかがですか?

そういう質問になってきちゃうと、この業界の代表者です!みたいな感じになってしまいますが、そうではない…と前置きしつつ、ASMR的な作品はかなり前からリリースがあったんですよね。

ただ、広く伝わってたのはASMRっていう言葉がいわゆる「オタク」と言われる人たちだけじゃなく、テレビとかで取り上げられて一般にも普及したっていうのが大きいのかなと思っています。

今だと本当に中学生や小学生でも「ASMR」というワードを知っていたり…そう考えるとやはりASMR(の盛り上がり)は同人音声の歴史の中では大きかった出来事ではないでしょうか。

――自己プロデュースといえば、やはり「メスガキ」というジャンルに強みを持つことが大きいと思いますが、十数年続けられるのはなかなかすごいことだと思います。長く続けられる秘訣や、どのような工夫をされていますか?

SNSの活用は重要ですね。特にX(旧・Twitter)は、自分を知ってもらうための大きなツールです。最近はYouTubeやニコニコ動画を活用する方も増えていますが、私はそちらにはあまり詳しくなくて……。

――ご自身の強みを生かして、たびたびバズを巻き起こしているのもすごいですね。

月に一度は万バズ(投稿が1万いいねを超える拡散)を狙っております。【追記:下記は主な投稿】

――そんなSNSで知った方に聴いてもらいたい、特に自分の魅力が表れている作品、思い入れのある作品はありますか?

同人音声とは少し違いますが、「SCE2」というフリーゲームに出演したことがあります。無料とは思えないほどのボリュームで、私がかなり喋っている作品です。リリースから10年以上経ちますが、今でも「この作品で知りました」「この作品の演技が好きです」と言ってくださる方がいて、とても思い入れのある作品です。

活動の幅を広げて「ラジオ番組」に挑戦 今後やりたいことは?

――同人と聞くとコミックマーケット(コミケ)のイメージも大きいと思います。参加はいつ頃から始めましたか?

実は昔から参加しているわけではないんですよ。売り子としてこっそり参加していたのが2021年か2022年頃で、個人での出展は2023年の冬コミが初めてでした。告知せずにこっそり手伝っていたこともありましたが、最近は「やったら喜んでくれる人がいるかも」と思い、参加を決めました。

――露出を増やすという点では最近ラジオ番組も始めてらっしゃいますが、これはどのような経緯で始まったのでしょうか?

自分から「ラジオをやりたい!」と言ったわけではなく、お話をいただいた形です。最初は「YouTubeでやるラジオかな?」と思っていたのですが、実際には「え?音泉(※)?」って(笑)隔週配信の本格的なラジオ番組だったので驚きました。

※声優やアニメなど公式番組が多数ある老舗のWEBラジオサービス

――実際にはじめてみて、リスナーさんの反応はいかがでしたか?

最初から爆発的な反応があったわけではなく、徐々に増えていった感じですね。楽しんでくださる方がいる一方で、「無理しないでね」と心配してくださる方もいて、ありがたいなと思っています。これからも、もっと楽しんでもらえる番組を作れるよう努力していきたいです。

――最後に、これからじぇみ子さんを含め、同人音声をチェックしてみたい方に向けてメッセージをお願いします。

同人音声はアダルトなイメージが強いかもしれませんが、全年齢向けの作品もたくさんあります。また、商業作品とは違い、作り手の「こういうものを作りたい!」という自由な発想が反映された作品が多いのも魅力です。絶対に「これだ!」と思える作品が見つかると思うので、ぜひ一度聞いてみてください。

――本日はありがとうございました!

▼山田じぇみ子さんからお知らせ
山田じぇみ子がパーソナリティを務めるインターネットラジオ番組「山田じぇみ子のざこざこお兄さん取締実行委員会」が
インターネットラジオステーション<音泉>にて好評配信中。過去回を収録したラジオパッケージがDLsiteにて発売中。

第一弾:https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ01309849.html
第二弾:https://www.dlsite.com/maniax/announce/=/product_id/RJ01363340

市井

著者 市井
オタク総研媒体統括 兼 合同会社サブカル通信社執行役社長。専門領域はアニメ、テクノロジー(ガジェット)、プログラミング、コンテンツビジネス。PRプランニングやIP調達なども担当しています。新作アニメ、海外スマホ、東南アジア好き。