伝統ある「甲子園文字」がより見やすい『甲子園フォント』に モリサワと阪神が共同開発
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阪神電気鉄道が運営する阪神甲子園球場とモリサワは27日、共同開発による『甲子園フォント』を発表し、同日に阪神甲子園球場にてお披露目式を開催した。
甲子園球場は2024年に開場100周年を迎えた。同じく2024年には、フォントメーカーのモリサワが「邦文写真植字機」発明100周年を迎えた。「邦文写真植字機」は日本の出版・広告・デザインの発展に大きく貢献した。
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そこで、甲子園球場側からモリサワに呼び掛ける形で、甲子園球場のスコアボードに使用する『甲子園フォント』の制作プロジェクトが2022年から始まった。『甲子園フォント』は、長年にわたり甲子園球場で使用されてきた「甲子園文字」を引き継いでいる。
「甲子園文字」も甲子園球場と同じく、その歴史は長い。「甲子園文字」が登場したのは2代目スコアボードが完成した1934年のこと。1983年までスコアボード上では、職人が黒い板に毛筆で手書きをした文字を使用した。その独特の字形は「甲子園文字」と呼ばれ、甲子園らしさを象徴する伝統の一つとして親しまれてきた。
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1984年にスコアボードが電光掲示板になり、球団職員が手書きの「甲子園文字」を踏襲した球場オリジナルの文字を制作してきた。ただし、2019年にスコアボードが大幅改修された際は、数字のみ一般的な字体になったという。
新たに生まれた『甲子園フォント』のコンセプトは「甲子園文字の伝統を次の100年に繋ぐ」だ。「甲子園文字」を活かしつつ、より多くの人に読みやすいようにアレンジされている。『甲子園フォント』のベースには、多くの人の読みやすさに配慮したUD(ユニバーサルデザイン)フォントを採用。UDフォントに「甲子園文字」のニュアンスを加えた。
制作にあたっては、モリサワの社員が甲子園歴史館で展示されている手書きの「甲子園文字」を分析することにより、「甲子園文字」の特徴を洗い出したと説明。手書きの「甲子園文字」の特徴は縦画が太く、コントラストの高いデザインとなっている。
その後、「はらい」「打ち込み」といった筆書きのニュアンスの導入、太さと文字サイズの調整などを行いながら、視認性を確保した明朝体となった。したがって『甲子園フォント』は「甲子園文字」をそのままデジタル化した文字ではない。
制作された文字数は約3800字。制作にあたって、最も苦労した文字は画数の多い漢字だったという。『甲子園フォント』の完成により、これからの100年に「甲子園文字」を安定的に引き継ぐことが可能になった。
お披露目式では、阪神電気鉄道取締役スポーツ・エンタテインメント事業本部長の谷本修氏とモリサワ代表取締役社長の森澤彰彦氏があいさつした。谷本氏は「デジタル表示の世界において、甲子園文字が永遠の生命を得た、と感じている」と述べ、「甲子園文字」の完成形が『甲子園フォント』であることを強調した。
続いて、森澤氏は「『甲子園フォント』は現代に即した形で、甲子園文字の特徴をデザイナーやエンジニアが分析、検討をし、ユニバーサルデザインと呼ばれる現代に即した形でのフォントの開発をした」と述べ、『甲子園フォント』の特徴を解説した。
あいさつの後、スコアボードのメインビジョンにて、元阪神タイガースの真弓明信氏が甲子園文字の思い出を語る映像が流れた。その後、『甲子園フォント』がお披露目され、「甲子園」の3文字がメインビジョンで表示。続いて、上段に2023年ペナントレースの優勝を決めた試合のスターティングオーダー、下段には日本一になった1985年のペナントレース開幕のスターティングオーダーが表示された。
『甲子園フォント』は3月4日のオープン戦(阪神タイガース対中日ドラゴンズ)から使用を開始する。甲子園球場での試合は高校野球も含め、『甲子園フォント』を使用する。また、甲子園球場では『甲子園フォント』誕生を記念したグッズを、甲子園eモール、球場ショップにて限定販売する。(取材=新田浩之)