ガルクラ総研③:立ち塞がるハードルにどう挑んだ?監督と制作Pに訊く「ガールズバンドクライ」アニメ制作秘話


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スケジュールやコストよりも完成度にこだわった現場

―監督の中で特に苦労した話数はありますか?

酒井:全部です(笑)。強いてあげれば、第11話の「世界のまん中」でしょうか。実は、あそこに関してはプロジェクト開始当初から作り始めていて、あそこを目指して作っていたところですから。シナリオを考えるところからも大変で、「これ、本当に映像になるのか」って、現場もみんな言ってましたからね。

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―その映像についてですが、今までにあまり見たことがないような独特のCGのように感じました。

酒井:映像制作については、第1話「東京ワッショイ」から順番に作っていたわけではなく、第3話「ズッコケ問答」からなんです。絵コンテは第1話からやってましたけどね。そこから第7話「名前をつけてやる」まで作って、第1話、第2話「夜行性の生き物3匹」の制作に行くというちょっと変則的な形でした。3Dのアニメーターさんが、CGアニメ 制作に慣れてから、第1話を作ったほうが完成度が上がるという平山さんのアイデアです。

平山:2Dアニメは技術的に行き着くところまで到達していて、最終的には資本力の勝負になっていると思います。でも3Dアニメはまだ可能性があるだろうと考えていたので、表現を変えていけば、また新しくファンを獲得できるかもしれない。その時にヒントとなったのはソーシャルゲームで、ガチャを回して もらって嬉しいのは美麗なイラストの部分 です。

じゃあこのイラストが全部そのまま動けばいいじゃないかと。そこから、イラストルックのCGアニメを作ろうと思ったんですが、ものすごい苦労しました。まずイラストルックのCGをリミテッドで動かすのか、フルコマで動かすのかというところが大きな分岐点で、現場からは、リミテッドにした方がいいんじゃないかという話もありましたが、酒井さんがフルコマで行くことに揺らがなかったんです。

結果として、お客さんがすごく受け入れてくれたので、正しい判断だったんだなと思います。

―静止しているシーンでもキャラクターの息遣いのようなものが感じられて、フルコマならではの魅力ですよね。

平山:そこは酒井さんのディレクションのおかげですよね。

酒井:リミテッドでやった時にCGを止めると、本当に静止画みたいに見えちゃうんです。だから、平山さんと僕はフルコマにこだわりました。リミテッドの方が、コスト的にも抑えられるし、リミテッドCGの方が東映アニメーションの中で、ノウハウは確立されているから、間違いなくやりやすいというのはあったんですけどね。

平山:先程の静止しているシーンのディレクションについて言えば、 アニメーターさんたちから「本当に止めていいんですか?」と、結構、質問が来たりして。でも酒井さんが「止めても大丈夫だから」と何度もやりとりしてましたね。

これは、ある意味、リミテッドアニメのような止め絵表現なんですが、フルコマにそういった 表現方法がミックスされたことで、観ている人も新鮮に感じたのではないかと思います。ただ、その落としどころを探るのに、何カ月もかかっていて、苦労した点でもあります。

酒井さんからお話があったように、第3話から制作をスタートしましたが、第4話「感謝(驚)」と第5話「歌声よおこれ」までの最初の制作ローテーションが一番苦労していて、コストもめちゃくちゃかかるし、スケジュールもディレクションの通りやっていたら終わらない。

現場から「いつ終わるんだ」と心配する声も上がってくるような状況でした。それでも、これは新しいことをやっているので、コストやスケジュールは気にせず、とにかく演出の皆さんから来るディレクションの通りにやって欲しいとCGアニメーターの皆様にお願いしました。

―CGの完成度をあげることにこだわったんですね。

平山:そうです。一回とにかくやり切って欲しいと話をして、作業を進めていただきました 。ただ、いつ完成するか全くわからないし、リテイクがずっと続くし、クオリティの見通しも立たないし、地獄のような 数カ月過ぎていきました(笑)。結果、当初の見積もりの2倍かかることになりましたが、逆に言えば2倍でできるということはわかったんです。

―なるほど、そこで指標ができたわけですね。

平山:とはいえ、アニメーション ができたとしても、今度は画面に落とし込む作業が必要になります 。ライティングとコンポジットと撮影の問題があって、ここにもものすごく時間がかかりました。誰もやったことがないから、落としどころが見えなくて、酒井さんと初代のCGディレクターの近藤まりさん がかなりやり取りをして、二代目の鄭載薫(ジョン・ジェフン)さんが入ってようやく決まったという感じで…。

酒井:僕が最初に参加した時点で、平山さんがCG表現で行くと決めてたから、そんなに難しいことはなく、僕も振り切れたんです。まだ、このCG表現方法でヒットを出したような作品はないから、それを絶対作りたいというオーダーだったでしょ。

平山:そうですね。

酒井:観てる人を飽きさせないようにっていうので、そこは死守できたんじゃないかなと思います。

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著者 東響希
主にゲーム関連メディアにてイベントやライブなどのレポートの他、新作レビュー記事、インタビュー記事の執筆や編集なども担当。その他、様々なジャンルの書籍について、著者と打ち合わせやインタビューをして編集するブックライターとしても活動している。