ガルクラ総研①:脚本・花田十輝は『ガールズバンドクライ』で何を伝えたかったのか キャラクター像と制作の舞台裏に迫る


2024年4月より放送がスタートし、空前の盛り上がりを見せたTVアニメ『ガールズバンドクライ』。東映アニメーションによるオリジナル作品として展開された本作はフル3DCGによる躍動感溢れる映像や、波乱の展開が連発するストーリーなどが注目を集め、放送後一ヶ月が経ついまでも”ガルクラロス”を訴えるファンも多い。

そこで今回、弊誌ではTVアニメ『ガールズバンドクライ』へのインタビュー特集企画を敢行。制作陣とキャスト陣へ本作にかけた想いや知られざる制作秘話、そして今後の期待までを全3回にわたりたっぷりと伺った。

連続企画の初回は本作にて脚本を務めた脚本家・花田十輝氏。「けいおん!」「ラブライブ!」を筆頭に多数の人気作に携わり、青春模様を届け続けた花田氏は『ガルクラ』で何を伝えたかったのか、キャラクターをどう魅力的なものにさせたのか。これを読めば作品をモット楽しめること間違いなし!

  1. 「世の中ってそんなに簡単に割り切れない」ことを学ぶストーリー
  2. 考察の余地ありな“ルパと智”の関係性、5人の掛け合いは「家族のイメージ」
  3. 仁菜のライバルは「ダイダス」ではなくヒナへ
  4. 「人生は卒業式で全て終わりじゃない」その先にある社会との向き合い方を書きたかった

「世の中ってそんなに簡単に割り切れない」ことを学ぶストーリー

――まず、本作ではシリーズ構成という形で参加されていますが、制作を務めた経緯についてお伺いしたいと思います。

花田 最初に音楽モノで行きたいというお話が来たんですが、僕自身がアイドルものをずっと書いてきたので、今回はバンドものをやりたいなと思ったんです。もともと、邦楽のロックがすごい好きだったということもあって、 「音楽モノならバンドで」と提案させてもらいました。

――ガールズバンドという設定にした点についてはいかがでしょうか?

花田 実は、男の子たちの話もやりたかったりするんですけどね(笑)ただ、平山さん(編注:作品プロデューサー)と僕と、酒井監督が「ラブライブ!サンシャイン!!」で組んでたこともあったので、ここはガールズバンドで行こうと。僕自身も、女性キャラクターの方が慣れているところではあので… 。

――物語の舞台は川崎ですが、これにはなにか思い入れがあったのでしょうか。

花田 ロケハンに行ってみて、非常にいい感じの地方感があって、キャラクターたちが住んでいる場所としてイメージしやすかった点です。「CLUB CITTA’」もあって、バンドとの親和性も高い街だったので、すごくやりやすかったですね。

――ここからは、キャラクターについてお伺いしたいと思います。まずは、主人公でもある井芹仁菜について、SNS等でもご自身で語られていたかと思いますが、かなり尖ったキャラクターですね。

花田 当初はもうちょっと抑えたキャラクターのイメージがあったんですけど、背景や上京した理由などを詰めていくうちに、「まぁ、尖っていくよな」と。

――シナリオを構成していく中で、変化していったわけですね。

花田 オリジナル作品については、大体、そんな感じで徐々に固まっていくんですよね。仁菜に関しては、我ながらこれは相当めんどくさいキャラクターになったなという感じです。1話の時はまだ良くて、2話ですばると会って落ち込んで帰ってくるぐらいな印象だったんですけどね。徐々に彼女自身の中で色々怒りが湧いてきて、あんな感じになっちゃいました(笑)

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――自分にも他者への向き合い方も怒りの部分が強く出ている印象です。

花田 いじめられて、上京してきた背景があるんで、他人を敵と味方、いいヤツと悪いヤツにを分けがちなんです。でも、それは仁菜に限らず、若い時にはよくある感情なんですよね。ただ、世の中ってそんなに簡単に割り切れないっていうところを、仁菜がなんとなく学んでいくというストーリーを想定していて 。なので、ある程度、尖った状態から入ろうとは思っていたのですが、思った以上に尖ってしまった(笑)

――そういった割り切れない部分を、近くで示すのが河原木桃香なのかなと感じました。

花田 怒りから上京した仁菜と、バンドとして音楽を追求していくという桃香は、「純粋な気持ち」で括ればある意味同じ。ただ、桃香は現実はそんなに簡単じゃないことを身に染みて体験してしまったキャラクターです。そういった点で、仁菜の前を歩いている人なんですね。特に序盤は桃香の背中を見て、仁菜が「なんで大人ってこんなにモヤモヤしてるんだろう」と疑問を持つところを意図しています。仁菜からすれば、そういったモヤモヤした部分を持っているのはダメな大人なんですよね。

つまり、敵であり悪いヤツなんですが、憧れだった桃香もどうもそういった割り切れない部分がある。最初はキラキラしたイメージを持ってたんだけど、飲んだくれて愚痴も言うし、トイレで吐いてたりとかね(笑)ただ、別に嫌いというわけじゃないというところで、仁菜自身が色々考え始めるわけです。一方で、仁菜の性格の部分で、そういったことを飲み込めないので、桃香に対して「キラキラしてくれ!」と詰め寄っちゃう。

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――敵と味方という考え方で言うと、何とか味方にカテゴリしようと抗ってましたよね。

花田 熊本にいた頃は多分、そこまで尖ってなくて、ある程度は飲み込めたかもしれないんです。ただ、上京して一人になっちゃった時点で、もう別に飲み込む必要がないよねっていう割り切りもあるんです。そもそも、ここで飲み込んでしまうんだったら、東京に出てきた意味がない。

――そんな二人の関係性に対して、安和すばるが緩衝材的な役割を担っているように感じました。

花田 そうですね。仁菜と桃香がどちらも不器用なので、ある程度、器用に立ち回れるバランサーが必要だろうなと考えました。ただ、それだけじゃ面白くないので、そこからなぜこういったキャラクターになったのかというところを掘り下げていって、お祖母さんとの関係性などを盛り込みました。彼女については仁菜と対照的で、みんなにいい顔をしていれば、なんとなく答えは先送りにしても大丈夫っていうことを、早くに学んでしまったんです。だから、仁菜からすると、そういう部分が露骨に見えると、一番腹が立つわけです。

――そこも上手くかわして仁菜と関係性を 築いるのは、すばるの懐の深さみたいなものを感じます。

花田 でも、すばる自身も器用に後回しにしちゃう性格をどこかで嫌だって思ってるんですよ。だから、仁菜の真っすぐなところに憧れというか、リスペクトしているところもあるんです。

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▶NEXT:考察の余地ありな“ルパと智”の関係性、5人の掛け合いは「家族のイメージ」

考察の余地ありな“ルパと智”の関係性、5人の掛け合いは「家族のイメージ」

――そこに加わってくるのが、海老塚智とルパの二人ですね。まず、智の設定から伺いたいと思います。

花田 仁菜以上に、若くして一人で生きていかなければならなくなったキャラクターですね。そして、仁菜以上に強固に殻を被って人を寄せ付けないところがあります。仁菜、桃香、すばると三人が出来た後、残り二人をどうしようかと考えていた時に、一人くらい仁菜よりとっつき難い子がいた方が仁菜の別の一面を引き出したり、化学反応が起きやすかったりするだろうと思って作りました。

――設定的にみると、仁菜とは別のところで、大人の嫌な部分に振り回されてしまったキャラクターですよね。

花田 実は、智を掘り下げるエピソードは途中まで書いてたんですが、仁菜が想像以上に尖ってしまい、カットせざるを得ませんでした(笑)

――続いて、ルパの設定についてはいかがでしょうか。

花田 智の性格や設定を考えていく中で、まず、この子に付いて いけるとしたら、どんな子だろうというところですよね。

――ある意味、すばると同じで立ち回りがうまくて、大人な対応ができるイメージがあります。

花田 自分の負っている傷みたいなものを他人と共感したいとか、他人に理解して欲しいとはあんまり思ってないんです。そもそも、自分も他人の傷を理解できるわけでもないし、したいとも思わない。傷の舐めあいをしたくないっていう思いが強いタイプで、それがある意味で、現実の厳しさを知っている大人な部分でもあるんです。

家族を亡くしているという背景はあるんですが、他のメンバーもあんまり聞いていないというか、聞けない状態。ルパの話も書こうとは思ってたんですけど、視聴者も仁菜たちと同じで、断片に知っている状態で、「この子と一緒にいてあげたい」とか、「仲良くなっていこう」という風にした方がいいなと思って、無理に描かないことにしました。

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――この子だけはハーフっていう設定だったり、苗字などがなくルパという名前だけの設定も独特ですよね。

花田 ミステリアスなキャラクター性を強調したかったという部分と、これだけ人数がいると、今時ならハーフが1人ぐらい入っているのは自然だろうなと。

――キャストの方からも、ルパについては詳しくバックグラウンドが書かれていないがゆえに、逆に演じやすかったといった話がありました。(詳しくは次回、第2回キャストインタビューで!)ただ、放送が終わったところで、改めてどういう設定があるのか知りたいというお声も伺っています。

花田 もちろん細かい設定は色々あります。 ただ、情報を完璧に描ききらなかったが故に奥行きが出た部分も間違いなくあって、手島さん(キャラクターデザインを担当した手島nari氏)の絵や、声を担当した朱李さんのお芝居で、非常に際立ったと思っています。特に第11話「世界のまん中」のサウンドチェックのシーンは、「これは絶対に良くなる!」と確信があって、放送された時にお客さんの反応が楽しみでワクワクしていました。

――智については、何度かバンドを組んだけど、うまくいかなかった描写があります。その中でも、ルパだけはずっと一緒にいたわけですが、改めて二人の関係性の部分はどうでしょう。

花田 智は自分の腹の奥底の部分は探られたくないと思っていて、そこはルパも一緒なんです。だから、「腹を割って話そう」っていう考え方を持っている人たちばかりだと、なかなかうまくいかない。でも音楽に関しては真摯 に向き合いたいって思っていて、ルパと智だけはうまく波長が合っているというイメージでしたね。

――全体的なところで、本編では描かれていない裏設定みたいなものはありますか?

花田 僕の中で5人で掛け合いをやっているときは、家族のイメージで描いてるんです。桃香がお父さんで、ルパがお母さん。長女がすばるで、長男が仁菜、次女が智ですね。だから、なんとなくお父さんと長男がいつも喧嘩しているところを、残りの女子3人が見ていて、長女のすばるが仲裁に入るっていう。

――確かに、仁菜と桃香のぶつかりあいは、男同士の喧嘩のような雰囲気もありますよね。

花田 まさに桃香と仁菜に関しては、感情がぶつかる時は、ちょっと男の子っぽくしているところはあります。調和と協調も大切だけれど、信念やプライドがなきゃ意味がないと、ぶつかり合うところを意識しましたね。

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▶NEXT:仁菜のライバルは「ダイダス」ではなくヒナへ

仁菜のライバルは「ダイダス」ではなくヒナへ

――続いて、「ダイヤモンドダスト」(以下、「ダイダス」)の設定も伺いたいと思います。

花田 「ダイダス」については、最初に仁菜が倒すべき敵として位置付ける存在です。仁菜が上京してきて、桃香の話を聞いていくうちに、「元バンド仲間という敵に、桃香がいじめられている」と思い込む。でも、ナナ、リン、アイはいい子たちだし、彼女たちなりに苦労もして頑張っていることが、徐々にわかっていきます。

最初のうちは、そこら辺をぼかして、仁菜と一緒に視聴者にも「ダイダス」に対して、「チャラチャラしやがって!」と思ってもらおうと。でも、どうも話を聞くとそうじゃなくて、大人の目線というか、現実的なところで言えば、桃香の方にも問題があったと段々分かってくる。

そして、桃香自身も悪かったと思っているところがあって、そういった流れで社会とどう折り合いをつけるかっていうことや、人ってそんなに簡単じゃないっていうところを考えていく。例えば第4話「感謝(驚)」のすばるとお祖母さんの話もそれを別の視点で描こうと思った話で、真に悪の存在って世の中に実はあんまりいなくて。

みんなそれなりにやってるんだよ、っていうことを見せたかったんですよ。仁菜が上京した時に思っていた敵と味方、正義と悪みたいに世の中単純ではないと、彼女自身が学んでいくんです。実際そういう内容のことを仁菜が言いますし。すばる的には「どの口が言う」でしたけど(笑)。

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――監督とプロデューサーからも伺ったのですが、ボーカルのヒナについては、最初はいなかったキャラクターだったそうですね。(第3回インタビューでも深堀りします!)

花田 話の途中で、仁菜が「ダイダス」は実はすごいいい人たちで、彼女たちなりに頑張っていたと理解してしまい、モチベーションが続かなくなっちゃうんですよね。要するに、「桃香さんのために、倒すべき敵」という存在ではなくなって、さてどうやって展開しようかとなった。事務所に入って悪いプロデューサーがいてみたいな話にしようかとも思って、一回そっちの路線でも書いてみたんです。ただ、あんまりそういう話にしたくはなくて、酒井監督も平山さんも、どうも違うんじゃないかと詰まってしまった。そうなった時に生まれたのがヒナですね。桃香にとっての「ダイダス」よりは、仁菜にとってのヒナの対立構造を作って、仁菜が自分と相入れなかった人間が一体何を考えていたのかっていうのを、学んでいくという流れですね。

――最初の登場シーンを観ると、仁菜に引っ張られてヒナにヘイトが向きますが、仁菜の極端な立ち回り方を観てると、ヒナの言い分もなんとなくわかってきますよね。

花田 ヒナから見た仁菜の魅力は、ある意味ですばるから見た仁菜の魅力と似通っているところがあるんです。仁菜が持つ、ある種の幼児性みたいなものが自分の中にはないが故に、あの爆発力は出せないと思っている。だから、最終話「ロックンロールは鳴り止まないっ」で、わざと煽りに来るんです。「お前が長いものに巻かれたら困るんだよ」って思っているが故にね。煽ったら仁菜がどうなるのかなんとなくわかっているから、あれはエールなんですよね。

――そう考えると、仁菜の理解者とも言えますね。

花田 最後まで観ていくと、敵や悪みたいな存在は一人もいないって言うね。

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――その他に「ダイダス」に関する裏設定みたいなものはありますか?

花田 あるにはあるんですが、 秘密にしておきたいかな(笑)
ひとつ挙げるとしたら、桃香との関係性のところですかね。本編にも描かれているように、桃香自身が3人を東京に引っ張っていったわけですが、その時は実は桃香が一番現実が見えていない状態だった。でも結局、自分が言い出しっぺで走り始めちゃったから、内心では凄いプレッシャーを感じていたはずです。

3人の責任を全部自分が背負わなきゃいけないわけですからね。それも多分、バンドを続けていく一種の辛さに繋がっていたと思います。それが、「トゲナシトゲアリ」(以下、「トゲトゲ」)では、その責任感のところを仁菜が背負ってくれているので、気持ち的にフラットな関係性でバンドと向き合えていて、「ダイダス」とは違う景色が見えている可能性があるでしょうね。

――しかも「トゲトゲ」の方は、それぞれがある程度は自分の意志で参加している部分もあるから、責任感の重さも違いますよね。

花田 お笑い芸人・「サンドウィッチマン」の富澤さんが、相方の伊達さんを誘って10年売れなかった時に「死んで詫びるしかない」っていう心境だったという話がありますが、「ダイダス」の時の桃香はそれです。 その責任感の重さも、バンドが続かなかった要因ではと思いますね。

――改めて、「トゲナシトゲアリ」というバンド名はどのように決まったんでしょうか?作中では、偶然見かけた観客のTシャツから付けていましたが…。

花田 そんなに深い理由はなくて、会議の中でいくつかアイデアを出して最終的に絞っていった感じですね。

――ライバルとして登場しているバンドが「ダイヤモンドダスト」という名前で、ある意味で王道感のある名前なので、「トゲトゲ」のインパクトは凄いですよね。

花田 いや、僕も最初、「本当にこれでいいの?」って思ったんですが、リアルバンドもそれで行くとなって。まぁ、でもバンド名と芸人のコンビ名は適当に付けた方が、意外とうまくいくみたいな話もありますしね(笑)他にも案はありましたが、こういうストーリーで組みあがるバンドだから、尖った名前がやっぱりいいよねっていうことで決まりました。

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「人生は卒業式で全て終わりじゃない」その先にある社会との向き合い方を書きたかった

――リアルバンドとしても活動されているメンバーの方々は、今回、全員がアフレコ初挑戦だったわけですが、花田さんから観た感想としてはいかがでしたか?

花田 やっぱり演技そのものに関して言えば、それは当然プロで経験積んでいる声優さんの方が上だとは思います。でも、キャラクターに対する魂の入り方、これについては尋常じゃない熱を感じていて、エピソードが積み重なるに従って加速度的に良くなっていく。これは、アフレコと並行してリアルのバンド活動も進んでいく中で、アニメの中の「トゲトゲ」と気持ちがリンクする部分があったのではと思います。

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――先程、5人を家族に例えていましたが、メンバーの方々もまさに同じ表現をされていました。

花田 最初に第1話「東京ワッショイ」と第2話「夜行性の生き物3匹」を見た時に、第8話「もしも君が泣くならば」であそこまでの完成度になっているとは想像がつかなかったので、まさに圧巻でしたね。

――そのリアルのバンド活動から、花田さんが何かしらインスピレーションを得て、シナリオに組み込んだようなこともあるんでしょうか。

花田 いえ、それはなるべく入れないようにしてました。というのも、アニメとは違ってリアルバンドは本当に売れてくれないと困っちゃうんです(笑)仁菜たちは、「例え売れなくても、私たちはやっていく!」となってますが、そこを混同しちゃうのはまずいので…。この前も、Jリーグの試合のハーフタイムで、「トゲトゲ」のメンバーがグラウンドで応援するイベントもありましたが、仁菜だったら絶対、「こんなことやるために、バンド組んだわけじゃないです!」ってトゲ出しちゃうでしょ(笑)そこはリンクさせたら一生懸命頑張っているキャストの皆さんに申し訳ないですから。

――SNSでもう少し描きたいエピソードもあったという発言をされていました。おそらく、智やルパの話ではあると思いますが、他にアイデアはあったんでしょうか?

花田 長野に遠征に行ったところはもうちょっと長くやりたかったかな。あと、第9話「欠けた月が出ていた」の前半みたいなコメディエピソードも描いてみたいですね。5人がわちゃわちゃしてるところは、本当に面白い。

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――全13話を通してみると、ギュッとドラマが詰め込まれていて、コメディ的な要素が入る隙がほとんどない印象でしたね。

花田 そうなんですよ。だから、第9話で智の家に押し掛ける仁菜とか、こういう演技をもうちょっと入れるチャンスがあればなぁと思うわけです。

――ルパがすばるの家のドアを蹴破るところとか、それまでと比べるとギャップがあるギャグ表現に驚きました。あの武闘派なところもある意味で、ルパの裏設定ですよね。

花田 そうそう、ルパはめちゃくちゃ喧嘩が強いです。あと、お酒で相手を潰すのは大好きで、テキーラのちっちゃいショットグラスを並べて、飲み比べして相手が潰れるのを見てるっていう絵はイメージしてました。

――フワッとしてる印象なんだけど、相対してみると隙がなくて、その上、腕っぷしも強いとなると、なんというかラスボス感がありますね。

花田 喧嘩が強いというところで言うと、ルパは仁菜に対して正しい喧嘩のやり方を分かっている大人の存在という立ち位置なんです。それに対して、桃香は意外とうまい喧嘩のやり方を分かってないんですよね。だから、第11話「世界のまん中」での喧嘩のやり方は凄く正しい。あれこそ、大人の喧嘩だというところを表現しています。

――本作において、仁菜の家族との関係性もかなり重要なところですが、こちらについてはどのように構成されたのでしょうか。

花田 家族の話が描かれている第10話「ワンダーフォーゲル」に関しては、実は監督の要望で当初のシナリオから大きく変更しています。僕のシナリオでは、襖越しに会話の後は父親は見送りに来なくて、玄関先の折った枝に新しいアパートの鍵がかけてあるというラストでした。第4話「感謝(驚)」もそうなんですが、僕個人としては最終的に分かりあって、めでたしという方向にするつもりはなかったんですね。

ある程度のところまで書いたら、余白を持たせておこうと。仁菜と父親の関係も分かり合えないままの部分はあるけれども、お互いこの先前に進むしかないという形にしたかった。でも、実際にお子さんがいる監督として、同じ父親の目線に立ったら、やっぱりしっかり送り出したかったんだろうなと思いますね。

――ラストのシーンでは、事務所を辞めて一から出直しという形になりました。

花田 ここで武道館満員にしてダイダスに勝ったら「ラブライブ」になっちゃいますから、ハッピーエンドは最初から全く頭になかったですね。先の10話の話と同じになりますが、簡単に問題は解決するはずなんてない。でも進むしかない。この話で一貫して描いてきたのはそこなので、それを表現するにはどの形が一番だろうと考えて、あのラストになりました。

――もし、続編が作れるとしたらどういった話を盛り込みたいですか?先程、コメディ要素にも言及されましたが…。

花田 一個考えてたのが、仁菜が超イケメンボーカリストに口説かれて、ホイホイ家までついて行っちゃう話です。で、結局襲われそうになるんだけど、巴投げでノックアウトして逃げ帰ってくるっていうね。こういうのは、アイドルものではできないネタなので、盛り込んでみても面白いなと。あとは日常のエピソードをもっとやりたいですね。

――改めて、アニメの放映が終了しての感想や手応えなどはありますか?

花田 僕がこれまで手掛けてきた女の子たちが主役の音楽モノって、学校の中の話なので卒業すると終わっちゃう話ばかりだったんです。ただ、 人生は卒業式で全て終わりじゃないですよね。そう思った時に、なんとなく自分の宿題として、「卒業式の先」を書かなければという気持ちがあった。

本作はそれにちょっと手がついた気がするんです。「卒業の先」というのは、つまり社会と立ち向かうということですね。何にも守られていない自分だけで、社会と向き合わなきゃいけない瞬間が来るわけで、そこを盛り込むことで、自分としては一歩新しいところに踏み出せたなと思います。

――全体を通して、仁菜の目線で社会との折り合い方みたいなものが描かれていますよね。

花田 第1話と比べて、最終話の仁菜がかなり成長していることがわかるかと思います。例えば、最初に上京してきたばかりの仁菜だったら、マネージャーの三浦さんが、裏で「ダイダス」に頭を下げて対バンを申し込んだ行為は、絶対に許せなくて激怒するところでしょう。でも、社会との折り合い方や、大人の事情みたいなものも理解してきた中で、三浦さんの行動が自分たちのための行動なんだと感謝するわけですね。

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――最後にファンに向けてメッセージをいただければと思います。

花田 こんな面倒くさい主人公の話を支持していただいて、ありがとうございます(笑)シナリオを書いている最中は、この子はさすがに愛されるのは難しいのではと思ってたんですが、蓋を開けてみたらたくさんのファンができて、驚きつつも感謝しかないです。またどこかでお会いできる機会があったら嬉しいなと思っておりますので、 どうぞよろしくお願いいたします。

――ありがとうございました!

【次回第2回は「トゲナシトゲアリ」キャストインタビュー。公式X(@OtakuLabJP)などをフォローしてお待ちくださいませ。】

取材/文:東響希
構成/撮影/編集:編集統括 吉岡
協力:東映アニメーション

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