オタクアナウンサー吉田尚記と振り返るアニメミュージック隆盛の15年 人気の根底にある魅力とLIVEイベントの醍醐味とは
アニマックスの音楽LIVEイベント「ANIMAX MUSIX」が今年で15周年を迎えたことを記念して「Lemino presents ANIMAX MUSIX 2024 SPRING」が3月30日(土)に武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナにて開催される。
人気声優からアニソン歌手まで全16組の出演が予定されている同LIVEの開催が翌週に控える中、MCを当日務める吉田尚記(ニッポン放送アナウンサー)さんへのインタビューを実施。15周年にちなみ、2000年代から現代に至るまでのアニメミュージックシーンの変遷、そしてアニメミュージックの醍醐味や魅力を生粋の“オタクアナウンサー”として知られる吉田さんに伺った。
――はじめに、吉田さんのアニメミュージックイベントとの出会いを教えて下さい。
まずアニメミュージックイベントというもの自体、アナウンサーになる前はあまりなかったんですよね。僕は1975年生まれで会社入ったのが1999年、その頃だとまだアニサマ(Animelo Summer Live/2005年~)も始まっていませんでした。アニサマに関して言えば2年目から参加してます。その頃からもう武道館でやるほど人が集まっていて、当時は「こんな事もできるんだ」って感じましたね。
――アニサマ初期の頃、アニメミュージックに対してはどんな印象を持っていましたか。
アニサマの走りの時期というと、当時はアニメミュージックをメインにしているアーティストとしてはJAM Projectが結成数年で「こんなことを影山ヒロノブさんがやるんだ」なんて感心していた一方で、18禁ゲームの主題歌がいいよね、と一部界隈で評価を得ていたことを思い出しますね。アニメミュージックの世界と一般音楽の世界にまだかなりの乖離があった時期、そしてアニソン歌手って人たちが出はじめていた時期だったのではないでしょうか。
J-POP史から考える現代のアニメミュージック人気の源流
――純粋なお客さんとしてだけでなく、司会としてイベントに関わり始めたのはいつ頃ですか。
アニメイベントですとニッポン放送が主催していた「東京キャラクターショー」(~2005年まで)の頃からステージの司会は数多く任せていただいてはいましたが、アニメミュージック特化のイベントとなると「リスアニ!LIVE」が一番初めだったと思います。
――イベントとしては2000年代から関わっていたとのことですが、当時”非タイアップ系*に類されていた楽曲のなかで、聴いて印象に残ったナンバーはありますか。
※アニメ主題歌などにおいて、一般アーティストではなく、アニソン歌手や声優が担当した楽曲を「非タイアップ」としています
この頃、見聞きして印象に残ったのは「ハッピー☆マテリアル」(TVアニメ『魔法先生ネギま!』キャラクターソング,2005年)ですね。麻帆良学園中等部2-Aのメンバー1、2、3…と続き、どれだけバージョンが多いんだ…!と思いつつも、アニソン文化を知っている身からすると「こういうもんだよねって」って思いながら楽しんでいたものが、だんだん世の中が戸惑いながら受け入れている様子が痛快でした。
音楽の歴史全体を振り返ってみると、実は日本のチャートって“意味わからない曲”が大好きだったと思うんですよ。
――なるほど。
ダウン・タウン・ブギウギ・バンド「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」(1975年)、近藤真彦「ギンギラギンにさりげなく」(1981年〉とか初めて聞いたときは皆さん「え?」って思っただろうし、その意外性が売れた理由だったと思うんです。
その後、マーケティングのノウハウが業界の間で当たり前になると一般アーティストが「インパクトよりも売れそうなものを作る」時代になっていった一方で、アニメミュージックではCD売上をさほど考慮されなかった点や、トレンドの反動もあり「インパクトを重要視しましょう」という共通認識が生まれていた。このことから面白さの軍配は当時よりアニメミュージックのほうにあったと感じていて、以降20年にわたってもその流れが強くなっているのではないかと思います。
――現代の浸透ぶりを見るとその潮流が表に現れているのが伺えますよね。
アニメに寄り添うタイアップ、時代変化にあるユニゾンの功績
――その後の2000年代中頃からの10年間、アニメのトレンドに適応しながらアニメミュージックが隆盛してきたと思いますが、大きな変化を挙げるとするなら何があるでしょうか。
一般アーティストの方々がアニメについて何も知らずに作曲していた人も存在していた時代から、アニメの内容を把握して曲を作ることが絶対的な要素になったのがこの頃です。その例として、2010年ころの「UNISON SQUARE GARDEN」(以下、ユニゾン)の成功があると思います。
――その頃はまだ「オリオンをなぞる」(TVアニメ『TIGER & BUNNY』主題歌・2011年)をリリースしているかいないかの頃ですかね。
そうですね。実は僕、2008年頃から田淵智也さん(Ba.)と知り合っていたんですよ。当時、まだ一般に知られるヒット曲をリリースできていなかったのですが、純粋に曲がとても好きで「君たちはすごい!」と言って、自分の番組に呼び続けて、何度も飲みに行ったりしていました。
するとある日、田淵さんから「実は俺、アニオタなんです」と打ち明けられたのですが、え?と驚いたと同時に、初めて「どうりで自分の好みに合ってたのか…」と辻褄があったことに気づきました。その後、「TIGER & BUNNY」で主題歌タイアップが決まり、アニメとともに大ヒットした…という。
この頃、「一般アーティストはこれぐらいやらなければならない」という基準が自然に生まれたんじゃないかな、と感じましたね。
――オープニングはアニメを見てると必ず見るものですからね。
やっぱりアニメの一期のオープニングはとても大切だと思うんです。この出来が良いか悪いかでアニメ自体の生き死にに関わるほど、強い影響を与えていると思うので、安易なタイアップが減少し、アニメミュージック全体の変化としても色濃く現れていると思います。
――2010年前後ってアニメミュージックにとってかなり大切な時代だったんですね。
今思い返せば2000年代の10年間で、以降10年の“マスターピース”が生まれ、思想性が整理された頃だったなと感じます。「ハレ晴レユカイ」や「もってけ!セーラーふく」、それこそ「けいおん!」もそうですが、どんな人が聞いても「いい歌だね」となるラインナップが揃ったのが2010年前後。ここまで来て初めて、アニメミュージックシーンというものが本当の意味で生まれていたのではと思います。
その影響もあって、リスアニ!や「ANIMAX MUSIX」といった、現在に至るアニメミュージックイベントの礎もこの頃に生まれ、「アニソンでこの規模はおかしくないよね」「アニソンは楽しいな」という状況が出来上がったんじゃないですかね。
アニメミュージックの醍醐味は「ワクワク」 アイマスやラブライブ!の隆盛から読み解く
――その後、2013年に「ラブライブ!」2015年に「BanG Dream!」(以下、バンドリ)と、アニメミュージックの殻を破るような、ゲームなどのメディアミックスで展開するコンテンツやアーティストが一般化してきました。
メディアミックスコンテンツで言うと、偉大だったのはやはりアイマス(アイドルマスター)だと思いってて、時代も鑑みると個人的には「0を1にしたのがアイマス」「1を100にしたのがラブライブ!」だったんじゃないかなと。アイマスも当然大きな存在になりました。
――ちなみにアイドルマスターはいつから接点がありましたか?
アケマス(アーケード版「アイドルマスター」2005年稼働)ですね、アーケードで初めてプレイしたのは秋葉原のタイトーステーションだったと思うんですが、“アイドルをプロデュースする”作品に触れて、魅力的すぎてそれ以外やらない自分が想像出来てしまって、「これが本格的に展開されたら自分の人生が終わってしまう」と思ったのをはっきり覚えていますね(笑)
――そのようなコンテンツが手掛けるライブの魅力は何だと思いますか。
アイドルという概念がゲームの世界でも成立しているのであれば、リアルでLIVEをやってみても面白いんじゃないか、としてライブも実際にやってみたのがアイドルマスターだとすると、当初から「ワクワク感」がすごかったと思います。ラブライブも同じで、月刊誌(電撃G’sマガジン)の投票企画だった頃からここまで発展しているのを見ると、やっばりアニメファンは「如何にワクワクするか」を見ているんじゃないかなと。
――今となっては声優さんが歌って踊るって当たり前ですけど、ふと考えると当時のワクワク感はすごかったですよね。
「ゲームやアニメの世界がこの世に本当に現れるんだ!」というワクワク感はアイマス、ラブライブの核だと思います。アイドルマスターは発足当時、多くのキャストが新人だった中ですでに超売れっ子の釘宮理恵さんがいました。当時から知名度が圧倒的に高いので、ライブを中心に考えるならスケジュール的な問題がある可能性がある。
ただ、企画開始当初はライブのことを考えていないから、アイドルマスターという作品を成立させるために必要とされている人としてキャスティングされていました。その一方で新人も多かった。キャリアのある人も新人もいて、キャスティングがバラけている感じがまた魅力的でした。これはメディアミックス、ひいてはアニメミュージック全体の面白い要素のひとつだと思います。
「ANIMAX MUSIX」は「運営が超やる気ある文化祭」予想外の体験味わって
――ラジオ番組や司会を務める中で、アーティストと関わることが多いと思いますが、アーティストの皆さんが持つ、アニメミュージックのイベントに対する共通認識ってなんだと思いますか。
多分、アーティストの多くは体育祭や文化祭のようなものだと思ってるんじゃないでしょうか。
同じ作品や所属するユニットでのイベントとなると、学校で例えるならクラス単位の活動。どんなに会場が大きくなっても、出演者はいつも会っているいわばクラスメイト。しかし、アニメミュージックイベントとなると、色んな作品の出演者やアーティストが混ざって「あのクラスの人もいる!このクラスの人もいる!」という文化祭みたいな状態になる。皆さんまた違う心境や意気込みを持たれてますね。
――明日3月20日14時からオンエアの吉田さんがパーソナリティを務めるニッポン放送「吉田尚記のオタクガストロノミー」特番では声優の大橋彩香さんがゲスト出演するとお伺いしていますが、大橋さんはどんなイメージですか。
大橋さんは、さっきの例えで言うと、いろんなクラスや部活に顔を出している人だと思います。文化祭を思い返すとめっちゃ忙しい人、学年に一人はいませんでした?多分大橋さんはそのポジションですね。ウマ娘もバンドリもアイマスもソロもコラボもって(笑)凄いですよ。
――そして3月30日(土)には「ANIMAX MUSIX」15周年記念LIVEイベントが武蔵野の森総合スポーツプラザで開催されます。個人的に「ANIMAX MUSIX」はコラボが魅力だと思っていて、より文化祭感が強いイメージがありますが、吉田さん的に「ANIMAX MUSIX」にはどんな印象を持っていますか。
これまた先程の例えで言うなら、「ANIMAX MUSIX」は「運営が超やる気のある文化祭」だと思います。学校が文化祭の楽しさを理解した上で、学校側から生徒会にいろいろ声を出してくるタイプ。色々詰め込みすぎて結局イベントが6時間を超えてしまっても「楽しさのためにはそれは理解できる!」とお客さんも出演者も受けとめられる。生徒側のやる気に非常に配慮している印象です。
※「ANIMAX MUSIX 2023」は6時間半にのぼった
――コラボも単純に組み合わせるだけじゃなく、予想外なものも多いですよね。
選曲からして「有名な曲をただやればいい」というものになっていませんよね。昨年のエンディングは出演者全員で「イマジネーション」(TVアニメ『ハイキュー!!』)でしたからね。「ハレ晴レユカイ」で大団円では、やはり少しアニメミュージックイベントとしてはパンチが足りない、じゃあ「ハイキュー!!歌おうよ」って(笑)いい意味で期待を裏切ってくれると思います。
――最後に司会として、注目すべきポイント、そして「こういう人に見てほしい」という推しポイントを教えてください。
例えば、西川貴教さんのライブを見たことがありますか?と聞かれると、ソロコンサートのチケットを取って見たことがある人はアニメファンの中ではそう多くないと思います。西川さんクラスになると人気すぎてチケットが取れず行こうにも行けませんが、ANIMAX MUSIXならそういう人が何人も来てくれて見ることができる、というのが一番の魅力だと思います。
しかも、みなさん定番曲だけをやって帰るということはないと思うので、かなりコスパがいいと断言できますね。あとコラボ系はここでしか見られませんし、ぜひそんなワクワクを楽しみたい人はチェックしてもらいたいです。
――ありがとうございました!