【特集】『シャインポスト Be Your アイドル!』開発陣に訊く発売後のリアルな手応え―反響受け「熱量の高まりを感じる」心境語る
【ゲームシステム】アイドルたちの夢に対して、自分事としてとらえてくれるのかが大事
――初めてプレイをしたとき、1、2組目はうまくいかなくて、3組目でやっと武道館まで導くことができました。ゲーム内の5年間で一定のプレーヤーとしての目的は果たせたと思っていたのですが、ほろ苦い感じのエピローグが流れてきて…。武道館にたどり着けなかったアイドルたちの姿もそうですが、かなり切ない気持ちになったのをよく覚えています。
石原:「アイドル」というテーマについての思いや、こうあるべきだという僕の考えを、永島が仕様や体験設計として落とし込んでくれたので、何が正しくて何が間違っているかという僕の「アイドル価値観」が結構色濃く入っています。例えば1期生2期生のアイドルを犠牲にして、自分(プレーヤー)だけが5年で武道館の夢を達成してよかったなんて、僕たちはそんなことをまるで思っていないんです。このゲームにおける価値観に気づいてもらえるような、メッセージを随所に明確に入れ込んでいるつもりです。
本作は“経営シミュレーションゲーム”と言い続けていますが、それでもアイドルを蔑ろにすると、気持ちの良いエンディングには到達できません。アイドルファーストでありつつも、経営をしっかりするというジレンマを抱えることになるのですが、そこのバランスの天秤や、様々なゲームのルール、例えばアイドルの不安の理由の種類などに気づいてくると、改めて2周目3周目をプレイしたときに、僕らが伝えたいメッセージや永島が作った体験、価値観について、プレーヤーのみなさんが腑に落ちるところがあるんじゃないかと思います。
永島:赤の他人の夢が叶っても、気持ちはあまり動かないじゃないですか。なので、プレーヤーがアイドルたちの夢に対して、ちゃんと自分事としてとらえてくれるのかが大事なんです。
特に本作では、先に展開している小説やTVアニメにも出ているキャラクターたちではありますけど、多くの方にとっては初めて出会うキャラクターが多いと思うんです。しかも23人のキャラクターが1度に登場するわけですから。そのなかで、どのように関わっていったら、このキャラクターたちの夢を自分事として捉えてもらえるのか、そこを考えるのがすごく難しかったです。

モバイルゲームであれば、中長期的な運営のなかで、キャラクターのバックボーンやストーリーを追加して蓄積していけるものなので、気づいたらそのキャラクターが好きになって応援したいという気持ちになれるのですが、コンシューマは違います。
それでもどうしたら一緒になって頑張ろうという気持ちになってもらえるかは、すごく考えました。
そして、プレーヤーの選択によって成長したりうまくいったりしたら嬉しい、判断をミスしたりうまくいかなかったりしたら本当に申し訳ない気持ちになる。そう感じられるものになれば、キャラクターたちの夢を自分事に思えるし、夢が叶ったら頑張った分だけのリアクションを返してくれると、嬉しくていい気分になれる。難易度やストーリーは結果的にそうなっていった感じです。
――うまくいかなかったときのキャラクターに対する申し訳ない気持ちは、他の作品ではあまり得られないほど、強く感じたところはあります。
石原:それであれば、狙った体験が提供できたと思います。永島も言っていましたが、当事者意識を持ってもらうことが何よりも重要だと考えていました。
リアルなアイドルについてもそうだと思うのですが、漠然とテレビで見たり、街中でのイベントを見かけたりした程度では、「かわいいな」とか「歌上手いな」とかそういう第一印象の感想を持つくらいではと思います。でも、2回3回と見かけて興味を持ち始めたら、そこからプロフィールや動画など調べたりし始めますよね。
何を目指して頑張っているのだろうか、といったことなど、さまざまな情報を得る機会が増えて自らライブやイベントに1回2回と足を運び始めると、そのアイドルたちの成長を見守るようになります。
ライブやイベントの現場に足を運び続けることで、当然アイドルたちの活動の支えにもなります。また、自身としても単なる傍観者やファンとして見ているのではなく、関係者のひとりのような当事者意識を持つこともあるでしょう。その結果、アイドルたちが夢を叶えていくことが自分自身の喜びのように感じられる価値観を持つようになっていく。そんな体験を僕もしたことがあります。
最初は「あの子かわいい」という感情だけだったのが、その子たちの活動を応援する気持ちに変わっていく。これはアイドルに限らず、例えば甲子園(高校野球)にも近いものがあるかなと思います。自分の母校が出場していなくても、TV中継などで試合を観て、選手の背景の物語などを聞いたりすると、その試合の成り行きや結果に感動して涙する瞬間は多くあります。それは人間が他者の心情にも感情移入ができる共感能力があり、それ故にどこか当事者や関係者のような気持ちを疑似体験できているのではないかと思います。
当事者意識を持つことで、物語から得られる感情は何倍にも膨らみ、解像度が格段に上がるということを意識して本作を制作したところがあります。
――さまざまなコンテンツがあるなかでも、ゲームはプレーヤーが操作するという特性上、より当事者意識を持てるメディアだと思います。
石原:その通りです。ただ、そこにもハードルがありまして。永島が触れていたように、モバイルゲームであれば、運営のなかで定期的に特定のアイドルをフィーチャーするシナリオやイベントを実施できます。そして、ファンがそのアイドルを好きになるきっかけを作るチャンスを、年間を通じて提供できます。
でもコンシューマではあらかじめ入れておかないといけないので、どうしたらいいかはすごく悩みました。
実際にプレイしていただくとわかると思いますけど、アイドルとコミュニケーションを取る「覚醒シナリオ」が、個別のアイドルに対する唯一の縦軸シナリオで、たった5話しかないんです。その5話で、プレーヤーにそのキャラクターへの当事者意識を持たせて、「この子の夢を叶えてあげたい」と思わせなければならなかったんです。
ここのシナリオは、モバイルゲームからコンシューマーゲームへの移行にともなってキャラクター固有のシナリオが大幅に削減された部分でもあります。ゼロからシナリオを制作する上で、かなり苦労した部分です。
正直なところ、5話で好きになってもらうのは難しいと思っていたので、シナリオチームには、5話でこの子の夢を応援したくなるところまで持っていってほしいとお願いしました。プレイされる方が、そのキャラクターを好きにならなくても、とにかく“この子の夢を応援したい”という当事者意識を持たせてほしいと。
あとはキャストさんの演技に相当助けていただきました。テキスト以上の解像度をきっと感じていただける素晴らしい演技だったと思います。
永島:ゲームにおけるシナリオは、あくまで要素の一つにすぎません。それでも、短いお話しの中で、ゲーム体験を通じてどのように気持ちを作ってもらうか、感情を揺さぶるかを考えて、アイドル毎のシナリオ以外にも、プレーヤーたちの置かれた状況設定や、ぬかるんだ公園の挿話、UI画像や状況に応じて変化するボイス1つ1つ等細かい所までこだわって設計しました。なので、5話だけでも十分にそのような気持ちになれるものになっています。
【こだわり】“思い出とともにある”実在するライブ会場の登場は必須
――ライブにおけるこだわりもさまざまあるなかで、実在する会場が登場するのも特徴のひとつですし、そこはコンシューマでも変えなかった部分かと思います。
石原:私にとっては必須だと考えていました。「なぜ必要なのか」という理由はいくつかあります。私のようにリアルなアイドルのファン経験があると、「この会場で◯◯さんのライブを見た」「この会場でメジャーデビューの発表があった」みたいな、会場とともに思い出があるんです。ほかにも、「このアイドルは2年目でこの会場に立っているのか、すごいな」といった物差し、アイドルが夢を叶えていく道のりの進捗基準みたいなものも恐らくアイドルファンは皆持っているのではと思います。
架空の会場だと、立派なビジュアルとか収容人数で規模を示しても、アイドル成長物語におけるその会場が持つ役割やそこに立つ意味みたいなものは、中々イメージしにくいじゃないですか。リアルな会場は、存在自体でそうした情報を想起しやすいこともありますし、なんらかのイベントやライブで足を運んだ方も多いですから、ゲーム内でもその思い出が呼び起こされると嬉しいというのがありました。
もうひとつ、本作ではもう無くなってしまった会場もあります。新木場STUDIO COASTや中野サンプラザは閉館しましたし、日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)も再整備工事が行われています。そうした会場がゲームの中に残っていたら嬉しいという気持ちもありました。会場取材のときにも「閉館するんですけどいいんですか?」と言われたりもしましたが、むしろゲームの中に残したいんです、とお願いしたところもあります。ある種のレガシー保存ですね。
永島:ゲームとしても、本作はゼロから始まるサクセスストーリーを体験してもらうわけで、モバイルゲーム時代から「小さなところから大きなところへ」というシナリオのプロットが軸だったんです。なので、成長や成功体験として実際の会場を活用するほうが、イメージしやすく合致していると感じていました。コンシューマ版でも、石原が考えていたアイドルの成長物語を体験してもらう上では、リアルな会場を活用したほうがいいと思っていました。
――ゲーム内ではライブ開催に費用がかかりますけど、リアルな会場で数字まで出ていると、ライブの規模感もイメージしやすいです。
石原:そうですね。まず誤解の無いようにお伝えすると、ゲーム内の通貨は円ではなくリッチです(笑)。ただ、費用感みたいなものは、あながちかけ離れたものにはしていません。実際、ライブ開催の費用は会場費だけではなくステージ設営費用も含まれるものです。会場によってはゼロからステージを組み立てる必要があって、費用がよりかかることもあります。さらに、花道を作ると観客席が減るため、費用対効果はこのぐらい…といったさまざまな調査もしています。
あとライブ会場をゲーム内に登場させるとき、取材時にさまざまな写真を撮影するわけですが、誰もいない会場ですから、ライブを行っている様子を含めた再現というのは、結構大変でした。その点については、私自身も観客としてライブに参加した経験がありますので、どのような盛り上がり方をして、どういう光景が広がるのかを思い出しながら、ライブ好きの制作メンバーと話し合って詰めていきました。
会場によく行く方であれば、特定の場所を少し見ただけで「この会場だ」とすぐにわかっていただけるように、壁や天井なども含め構造的な特徴も再現して伝わるよう、こだわって作りました。
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