【特集】『シャインポスト Be Your アイドル!』開発陣に訊く発売後のリアルな手応え―反響受け「熱量の高まりを感じる」心境語る


【特集】『シャインポスト Be Your アイドル!』開発陣に訊く発売後のリアルな手応え―反響受け「熱量の高まりを感じる」心境語る
(C)Konami Digital Entertainment,Straight Edge Inc.(C)Konami Digital Entertainment

1

2

3

4

「Nintendo Switch 2」と同日発売となった、コナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)のゲームタイトル『シャインポスト Be Your アイドル!』。発売から4カ月が経過した今、どのような心境の変化があったのか。気になる今後についても含めて、本作のプロデューサー石原明広氏とディレクター永島盛日人氏へのインタビューをお届けする。(取材=吉岡・さとうかずや/文=さとうかずや)

シャインポストは、2021年に発売された小説『シャインポスト』(原作)を筆頭に、アニメや音楽、ライブなどでアイドルたちの物語を展開するメディアミックスプロジェクト。2022年には日本テレビ系にてTVアニメとして放送されたほか、キャスト陣によるイベントも行われ、2023年には中野サンプラザ(「シャインポストTINGS LIVE JOURNEY ep.02 “Re-Live” with HY:RAIN & HOTARU」)でライブを開催するなど盛り上がりを見せていた。

ゲームに関して、当初はモバイルゲームとして開発を進めていることを予告し、2022年の段階でもゲーム内容など一部情報も告知されていた。一方でなかなかリリースに関する情報発表がなされず、2025年1月に突如として“コンシューマ向け”へのプラットフォーム転換を告知。その後、Nintendo Switch 2のローンチタイトルになることが発表され、6月5日に発売となった。

本作は、プレーヤーがマネージャー兼アイドル事務所の社長としてアイドルたちを育成するとともに、事務所を経営し、武道館でのライブ成功を目指すという“アイドル×経営シミュレーションゲーム”。限られたターン数の中で、会社を倒産させることなく、アイドルたちを武道館へ導くことを目的とした内容となっている。

1028-o1zf2dkt 1028-rt2btag3

インタビューでは、発売前に抱えていた不安から発売後の反響、本作におけるゲーム体験として伝えたかったこと、現実の会場を登場させたことやAI歌声ライブラリの活用についてなど、さまざまなことを伺った。また、間近に控えた3Dバーチャルライブや、気になる今後についても回答いただいた。

【発売前】発売前の極度な不安と、発売後の反応に「複雑な心境」と感じた理由

――ゲーム「シャインポスト Be Your アイドル!」が発売されて、4カ月ほどが経過しました。現在の率直な心境はいかがでしょうか。

石原明広プロデューサー(敬称略、以降「石原」):そうですね。少々複雑な気持ちでいます。まず本作については発売前から、お客様を待たせているという状況と、それに対して申し訳ない気持ちもありましたから、常に不安を抱えながら発売を迎えました。

実際に発売されると、お客様からいただいた反響は当初の予想を上回るものでしたし、多くの方からポジティブな意見をいただいたことは素直に嬉しいと感じています。

そのうえで「複雑な心境」であると感じた理由は、待ってくれていた方がちゃんと手に取っていただけているのか、そしてその方々が思い描き、期待していた遊びになっていたのか、私達の意図や狙いを前向きに受け取っていただけているかがわからなかったからです。そのため、この反響を素直に喜んでいいものか、複雑な気持ちでいるというのが正直なところです。永島は、開発段階から意識していて、このような反響になるだろうと思っていたようなので、その点では私と永島の間で、現状の捉え方に若干の違いがあるかもしれません。

永島盛日人ディレクター(敬称略、以降「永島」):本作はコンセプト、シナリオ、ゲームデザインなど、開発に際して思い切った挑戦をした部分があります。ある意味“賭け”の部分もありましたから、リリース前は石原と同じく、「はたして伝わるだろうか」「どのように伝わるだろうか」という不安はつきまとっていましたし、その気持ちは大きかったです。

ただ、リリース後の反応は、ありがたい事に、多少とがった部分があるにせよ、タイトルに関わった制作チームの熱が良い形で届いてくれたかなと思っています。もちろんこの部分は言われるであろうと思っていたこともご指摘いただきましたし、喜んでくれているところは喜んでくれていて。このように広まってほしいという狙いを持って制作した部分も多かったので、その点については良かったですし、特に温かいお言葉には感謝しています。

――やはり、発売前の不安はありましたか。

石原:TVアニメの放送終了から3年近く経過していて、一番盛り上がっていた時期は過ぎていましたから、不安は強かったですね。当時熱を持って接していたコンテンツがあって、長く時間が経過したタイミングで新しいものが登場したとしても、以前と同じ熱量で向き合えるかというと、そうとは限らないことが自分の体験としてもあったので。

なので、ゲームを発売することに対して手放しで喜んでいただけるとは思っていませんでした。常に「これで大丈夫だろうか」という不安を抱えていました。

――2025年1月にプラットフォームをスマートフォンからコンシューマへと変更することも発表しましたが、そのときの心境も教えてください。

石原:あのメッセージを出させていただくことについても、時間をかけて悩みながら調整していました。やはりプラットフォーム変更に対して、多くの批判を受けるのではないかと感じていました。

モバイルゲーム、PCゲーム、コンソールゲームというプラットフォームがあり、買い切り型や基本無料の課金モデルなどもありますが、広義の意味では全てゲームです。ただ、当初モバイル向けとして基本無料で遊べる予定だったものが、何千円も払って遊ぶ有料タイトルに変わるというのは、とてもネガティブにとらえられるのではと思っていたのです。期間も空いていましたから、それこそ「3年近く経ってから発表するのか」「その間、何をしていたのか」「あれほど楽しみにしていたのに、まだ待たせるのか」ぐらいな、多大な批判を受けるのではないかと懸念していました。あらゆる罵詈雑言が頭の中を駆け巡っていましたね。

石原明広プロデューサー
石原明広プロデューサー

――それであっても、コンシューマ向けへと舵を切りました。どういった背景があったのでしょうか。

石原:責任と義務、そしてどうしてもゲームとして世に出したかったということに尽きます。

そもそも「シャインポスト」は、TVアニメ放送の相当前の段階から構想して進めてきたプロジェクトです。その間、数えきれないほど多くの方々が協力してくださり、力を貸してくれました。ゲームは最後発というなかで、それを世に出せないとなると、ともに汗水を流してきた仲間に対して、どの口で言えるのだろうかと。さらに、私もそうですけど、関わっているみなさんの思い入れも非常に強く、何としてでも世の中に送り出したいという気持ちも強くありました。

一方で、プロデューサーの立場として、会社側のビジネスという側面も当然考慮しなければなりませんし、モバイル向けとしてリリースするには厳しい状況が目に見えていました。でも、このタイミングでプラットフォームを変えてリリースすることに対して、中止の意見が出てもおかしくは無いなか、了承していただくことが叶いました。会社の後押しがなければ発売できなかったのも事実ですし、ある意味、綱渡りのようなシビアな状況でした。

個人的にその期間はだいぶ追い詰められていて、髪が薄くなってハゲてしまったぐらいなんです(笑)。

会社がGOサインを出してくれたことについては、KONAMIとして「新しいものを作る」「新しい価値を提供する」という使命感があり、そのため、僕やチームの熱意、思いを受け止めてくれて、責任を果たすということの背中を押してくれたものだと思います。

――コンシューマーゲームへの転換に関して、業界全体の動向も影響しましたか?

石原:少なからず影響はあったと思います。個人的には新型コロナの流行前後ぐらいで、ゲームの市場はものすごい勢いで変化したと思っています。

海外で実績のあるモバイルタイトルが日本に入ってきていますが、コンシューマータイトルのニーズ自体は高まっているとも感じていて、コンシューマーゲームにリッチな体験を求める傾向があるとも思っています。

コンシューマーゲームへ転換すると決めてからは、ゲームデザインの変更が必要だと、永島と散々議論しました。モバイル向けで開発していたものの載せ替えや流用みたいなものはありえないという認識です。コンソールゲームで求める体験はこういうもの、というのはすごく話し合いました。

そのうえで、ゲームのやりごたえについては、徹底的に検討しました。永島と話し合うなかでは、「難しすぎるのではないか」という指摘もしましたが、「これくらいやらないとコンシューマーゲームとしてやりがいがないのではないか」という意見もあって。結果的に、ゲームデザインは難易度が高いままにシフトしました。これでも開発段階から比べると簡単になったほうです。

永島:難易度はそれほど問題ではないと考えていました。重要なのはアイドルの夢を叶えたいという気持ちを持てるかどうかという部分や、夢を叶えたときに嬉しいと思えるかどうかなので、その体験をデザインする過程で、難易度という要素が入っているというだけなんです。リッチな体験が全てであって、このコンテンツやこのテーマにおいて、どのような体験を提供すればユーザーの心を動かせるかという観点から全てを設計しました。難易度については、結果的にそうなったという感じです。

永島盛日人ディレクター(敬称略、以降「永島」)
永島盛日人ディレクター

NEXT→【ゲームシステム】アイドルたちの夢に対して、自分事としてとらえてくれるのかが大事

1

2

3

4

さとうかずや

著者 さとうかずや
本業はお堅い会社の会社員。かつてはテクノロジー&ビジネス情報メディアの硬派(自称)なIT系編集記者であったにもかかわらず、ゲームエンタメ担当としてこれまで特定のキャラにスポットをあてたゲーム記事や、キャラコンテンツのライブイベント記事を書き続け、特に「アイドルマスター」と「ラブライブ!」シリーズは、10年以上にわたってあわせて100本以上を執筆。その経験をいかして、副業ゲームエンタメライターとして寄稿も行うことに。 アイマス歴は、アーケード版ロケテスト1回目からのプレーヤー。 X(旧Twitter):https://x.com/310kazuya