産業機械大手「ヤンマ-」が新作ロボットアニメを作った理由 “武器を持たない”設定の背景は

ヤンマーホールディングスは4月2日より全国の放送局にてオリジナルTVアニメ『未ル わたしのみらい』の放送を開始した。本作は大手産業機械メーカーが描く未来像をアニメという形で表現しており、放送前には作品キャストのイベント出演や公式インタビューが公開され、その意義が紹介されていた。
物語のカギは「武器を持たないロボット」
『未ル わたしのみらい』は、全5話からなるオムニバス形式のテレビアニメ。それぞれのエピソードは異なる制作スタジオとクリエイター陣が手がけ、多様な視点から「未来」を描いている。物語の中心にはロボット「MIRU(ミル)」が登場し、人々の悩みや葛藤に寄り添いながら新しい一歩を後押しする姿が描かれている。

本作の重要なポイントとして「ロボット(MIRU)が武器を持たない」ことが挙げられる。実際にロボットの機体をみてみると、後部にはショベルや投光器、タービンなど、ヤンマーが手がける産業機械にある構造が見受けられ、「攻撃をするためのもの」ではないことがわかる。そのため、他のロボットアニメにあるような戦闘とは異なる描かれ方をしている。
この「武器を持たない」との設定や独創的なデザインになった背景については、ヤンマー取締役の長屋明浩さんと、本作の総合プロデューサー・植田益朗さんが過去の公式インタビューで言及していた。
植田さん「まさに兵器であるガンダムからスタートした自分が、45年の時を経て正反対の『武器を持たないロボット』の物語にかかわるとは思ってもいませんでした」「アニメ製作の常識に縛られず、人間に寄り添うロボットの在り方とは何か、イメージが広がっていきました」
長屋さん「創業者の山岡孫吉は『人々の労働の負担を機械の力で軽減し、快適なものにしたい』という考えを持っており、(ヤンマーは)『人を助けたい』という思いから始まった会社です。」「主役は、あくまで困難な状況の中で新たな一歩を踏み出す『人』です。その傍らに寄り添い、助け、後押しする存在が『MIRU』。この機械と人間の関係も、『人助け』というヤンマーの精神性やポリシーを象徴しています。アニメという形をとることで、このメッセージがより深く伝わるのではないかと期待しています」
https://www.yanmar.com/jp/about/ymedia/article/miru1.html
ではヤンマーはなぜ新たなジャンルに挑んでまで、今回のアニメ制作に乗り出したのか。それは「ブランド戦略」が大きく影響している。
「ブランド価値向上」としてのアニメ制作
振り返れば、同社は1959年に「ヤン坊マー坊」というマスコットキャラクターを誕生させ、アニメや天気予報などを通じIP(知的財産)を活用したブランディングの成功事例が存在する。この過去の知見に「ロボットに近しいモノを作る会社がロボットアニメを作る」という視点を加えることで、ヤンマー自体の知名度向上と、同社が描く未来社会へのビジョンを広く発信する手段となることを期待しているようだ。
実際、先のインタビューで植田さんは「ブランドプロモーション」が狙いと端的に明言。「世界へ向けてヤンマーの認知を高め、ブランド価値を向上させていく使命を託された時、もっとも効果があるのはアニメだと確信していました」と語っている。
ヤンマーのブランディング関連の動きは顕著だ。3月に開催された「AnimeJapan」では『未ル』のラッピングを施したトラクターを展示し、国内外のアニメファンからの関心を惹いた。

さらに、4月1日には新会社「ヤンマーブランドアセットデザイン株式会社」も設立された。この新会社はブランド価値向上を目的に作られたもので、「ヤン坊マー坊」や『未ル』といったキャラクターグッズの企画、トラクターや建設機械などをモチーフにしたプロダクトグッズの展開も進める予定と明かしている。
アニメを楽しむことで、新たな視点でヤンマーが考える未来が見えてきそうだ。『未ル』は4月2日(水)より MBS:毎週水曜 26:30~/TOKYO MX:毎週木曜 22:00~放送中。
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