『16bitセンセーション』 萌え文化は失われ、無個性と化した秋葉原は未来の姿か〈アニメ評論〉

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『葬送のフリーレン』や『SPY×FAMILY』といった原作人気の高いアニメが注目されている中、オリジナルストーリーで描かれるアニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』(以降『16bitセンセーション』)も密かにブームになりつつある。

『16bitセンセーション』は同名の同人誌漫画が原作となっているが、アニメ版オリジナルキャラクターの秋里コノハを主人公に据えるなどストーリーは完全オリジナル。先が見えないオリジナルストーリーだからこそ、次回の展開が楽しみになる。

※以降、作品1〜10話に関する言及を含みます※

美少女ゲームが大好きで、自身も美少女ゲームメーカーのイラストレーターとして働いているコノハはある日、1992年にタイムスリップしてしまう。そのタイムスリップ先で「アルコールソフト」という美少女ゲームメーカーで雇ってもらい、スタッフと一緒に美少女ゲームを制作することの喜びを見い出していく、という作品。

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コノハは1992年、1996年、1999年と度々タイムスリップを繰り返しており、いずれもアルコールソフトにお世話になっている。現在10話まで放送されているが、1999年に10億円の借金を抱えたアルコールソフトを救うため、コノハは2023年では一般的な要素をふんだんに詰め込んだ、ある意味“時代に即していない”していない美少女ゲーム『ラスト・ワルツ』の制作を提案。プログラムを務める六田守の尽力もあり、結果的には『ラスト・ワルツ』は大ヒットを収め、アルコールソフトは危機を脱した。

その後、コノハは2023年に帰ってくると、これまでのタイムスリップでは感じなかった異変に気付く。それは秋葉原に高層ビルが立ち並び、美少女キャラを使用した広告も一切見られない閑散とした街に変貌していたのだ。コノハは困惑する中、年を重ねた守と遭遇。

『ラスト・ワルツ』の登場により、アルコールソフトを始めとした大手美少女メーカーがアメリカに拠点を移したこと、美少女という概念が変化したこと、秋葉原は再開発が進みオフィスビルや高級住宅の建設が進んだことなどを知る。そのことを聞いたコノハは、今現在いる2023年の要素を残しつつ、美少女に溢れたかつての2023年を取り戻すため、再び1999年にタイムスリップして『ラスト・ワルツ』に対抗するゲームの制作を誓う。

美少女の定義はなぜ変化したのか?

秋葉原だけではなく時代が変貌する衝撃的な展開なったが、特に“美少女”という概念の変化は衝撃的。コノハがやってきた2023年の美少女のビジュアルは、アメコミのような、プレステ版『鉄拳』のような、目が小さく輪郭がカクカクしている。守曰く、“美少女論争”は15年前に繰り広げられたが、アメコミ鉄拳美少女が勝利を収めて現在に至るという。

無人タクシーが一般化した通り、『ラスト・ワルツ』がリリースされたことにより、テクノロジーなどの進歩は急速に進み、その余波は美少女にも及んだのだろう。美少女を起用した広告がバッシングされるケースは少なくなく、美少女論争は今現在起きている。時代の変化が早い2023年でアメコミ鉄拳美少女が一般化したことを考えると、いずれは広告だけではなく、アニメやゲームのキャラも萌えとは遠いものになっている未来を予感させた。

また、美少女ゲームメーカーがこぞってアメリカに拠点を移したことも大きいように思う。海外で日本の萌え文化は一定の理解を得ているが、それでもネガティブな見方をされることもしばしば。海外の、また多様な視点が入り、萌えから切り離された美少女がビジネス的・ポリコレ的に好まれるようになったことも、アメコミ鉄拳美少女が定着した背景にありそうだ。

裏を返せば、良いことか悪いことは別として、“萌え”は国内で守っていかなければ消滅しかねない文化であること暗示しているようにも思えた。

閑散とした秋葉原は未来の姿

秋葉原の再開発も興味深い。秋葉原は“時代の最先端を走っている街”というイメージが強い。10~20年前には秋葉原のいたる箇所に美少女がいたが、当時は嫌悪感を示す人が多数派。スマホゲーム『ガールフレンド(仮)』のCMが大々的に打たれていた2014年には「家族で『ガールフレンド(仮)』のCMが流れて食卓に気まずい空気が流れた」という声は少なくなかった。しかし、今はテレビCMはもちろん、電車内の広告でも美少女を見ることは日常になった。つまりは秋葉原が時代の先を走っていたことを意味する。

コロナ禍の終息と大幅円安で秋葉原には再び外国人が押し寄せる(東京都千代田区/2023年7月/編集部撮影)

そんな秋葉原で再開発が進み、高層ビルが乱立する“つまらない街”に変貌したことを鑑みると、コノハが目の当たりにした秋葉原は未来の姿なのかもしれない。守は「オタク関係のものはとっくにこの街からなくなっている」「そういうものが売ってる店は全部池袋にある。オタクが見たいなら池袋か渋谷に行かないと」と口にしていたが、秋葉原はオタクの街ではなくなったことが伺える。

今現在秋葉原は多くの外国人観光客が訪れ、“オタクの聖地”として消費しているが、『16bitセンセーション』でも『ラスト・ワルツ』の大ヒットによって秋葉原ブームは起きていたはず。一足先に国内外問わずに観光客が溢れた結果、オタクは秋葉原から足が遠のき、必然的にオタク文化が他の街に移り、さらには観光客もいなくなって高層ビルが立ち並ぶ街に“成熟”したのかもしれない。

基本的にポップな作品ではあるが、10話は様々な予感を覚えさせる攻撃的なストーリーだった。コノハがタイムスリップしてどのような秋葉原にしてくれるのか楽しみにしたい。

TEXT: 望月悠木(フリーライター)