「期待以上」と話題だが実際は?実写版『推しの子』の魅力と“見事にアイ”だった齋藤飛鳥の演技
『【推しの子】』が実写化――発表されたとき、驚きとともに不安が押し寄せたファンは多かっただろう。漫画の実写化というだけでアレルギーが出る人もいるかもしれない。だが、「一度観てほしい」と言いたい。丁寧な構成と俳優陣の演技が光る実写『【推しの子】』からは、原作への“愛”を確かに感じるのだ。
※以下、ドラマ『【推しの子】』第1話・第2話に関する内容を含みます。
原作コミックスは累計発行部数2000万部を突破し、アニメ化によってさらに大きな話題を呼んだ原作・赤坂アカ、作画・横槍メンゴによる『【推しの子】』。本作の実写版であるドラマシリーズが、11月28日からPrime Videoにて世界独占配信がスタートした。「キャストのイメージが違う」「原作の再現ができるのか」とSNSでネガティブなコメントも寄せられたが、実際はどうだったのか?第1話と第2話をもとにレビューしていきたい。
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アイを現実に呼び起こした齋藤飛鳥の好演
実写化にあたって最も注目を集めたのは、星野アイ役を務める齋藤飛鳥だろう。アイの真相を巡って物語が展開していくため、彼女は最重要キャラクターといってもいい。そんなアイ役を演じる齋藤の重圧は計り知れない。齋藤は一度アイ役のオファーを断っており、彼女の戸惑いや不安もうかがえる。
しかし、齋藤の演技は見事に“星野アイ”だった。第1話の一番の見せ場であり、齋藤の実力が試されるアイが男に刺され殺害されるシーン。完璧なアイドルとして「愛してる」と嘘をつき続けてきたアイが、我が子であるルビーとアクアに「愛してる」と言うことで、嘘が本当になった瞬間。筆者は、このシーンが実写化の命運を左右すると本気で思っていた。
齋藤の演技は真に迫っていた。「私にとって嘘は愛」腹部にナイフを突き刺されながら、声を震わせて男に訴える。倒れ込んだ後、荒い呼吸のなかで「いやぁ、まいったまいった……」と言うアイの口調は変わらないが、その声は弱々しく表情には刺された痛みと苦しみが隠しきれない。
徐々に顔や唇が白くなり、血色を失っていくアイ。途中で血を吐き口から流血する姿は生々しく、実写化でしか出せないリアリティがある。そして、アイが死に際に言う「愛してる」。手や歯を血で真っ赤に染めながら、齋藤の目には我が子への慈しみのこもった光が宿っていた。「あぁ、やっと言えた……」と涙をこぼす齋藤の芝居には、ようやく本当の愛の言葉を言えたうれしさや、言うのが遅くなってしまった後悔といったさまざまな感情が滲んでいる。
TVアニメ『【推しの子】』にてアイ役を務めた声優・高橋李依の演技もすばらしく、涙を誘った。だが、ドラマでは齋藤の生身の演技によって、アイを現実に呼び起こしたと感じた。それは齋藤という俳優の演技力と、原作への愛がないと成立しない。「アイと髪色が違う」とも言われていた齋藤だが、とっくに気にならなくなるほどアイの心情を表現している。
高いクオリティを実現させた作品への“愛”
第2話にて登場した原菜乃華が演じる有馬かなの有馬かなっぷりもいい。ルビーにつっこむ姿はコミカルで、アクアに「有馬はそこらのアイドルよりずっとかわいい」と言われ“トゥンク”するシーンでは乙女の顔に。「今日は甘口で」の現場に来た安達祐実が演じる吉祥寺頼子の失望した表情も、胸にズシンとくるものがある。
作者・横槍メンゴは実写『【推しの子】』に対して「本当に理想を超えたクオリティで再現していただいております」とX(旧Twitter)にてポスト。齋藤をはじめ、俳優陣の好演によって難しいと言われていた『【推しの子】』の実写化を成し遂げた。ファンは実写化に思うところがあったかもしれない。だが、ファンの不安や期待を超えていこうとする気概を本作からは感じ取れる。それはまさしく“愛”なのではないだろうか。
©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映